不敵な王たちの行進
爆音が校舎のコンクリートを震わせていた。
桑田の奏でる重厚なリフは、理性を剥ぎ取る凶器のように、廊下を走る生徒たちの心拍数を跳ね上げる。
「おい、これマジかよ!?」
「放送室じゃない、スピーカーそのものがジャックされてる!」
廊下はパニックと、そして隠しきれない「高揚」に包まれていた。
そんな喧騒をすり抜け、四人は屋上へと続く階段を駆け上がる。
「不破、バックドアの維持は?」
「余裕。先生たちがサーバーを物理的に引っこ抜かない限り、この『ライブ会場』は終わらないよ」
不破が階段を一段飛ばしで跳ねながら、手元のデバイスを操作する。背後からは、激昂した蛇崩や教員たちの怒鳴り声が迫っていた。
「荒崎! 桑田! 貴様ら、何の真似だ! すぐに止めなさい!」
階段の下から響く蛇崩の声。だが、荒崎は一度も振り返らなかった。
「止められるもんなら、止めてみろよ。……田上!」
「はい。チェックメイトの時間です」
田上が階段の踊り場に仕掛けておいた「工作」――それは、大量の消火器と、不破がハックした自動火錠システムだった。
バシュゥゥゥ! 白煙が廊下を埋め尽くし、追っ手の視界を奪う。同時に、屋上へと続く重い鉄扉が「ガチャン」と電子音を立ててロックされた。
王たちのテラス
再び、屋上。
そこには、自分たちの手で奪い取った「静寂の中の狂気」があった。
桑田はすでにフェンスの際でアンプにプラグを繋ぎ直し、本番の構えを見せている。
荒崎は、校舎を囲む高いフェンスを背に、眼下に集まり始めた生徒たちを見下ろした。
「……見てみろよ。みんな、上を見てる」
白煙に巻かれた校舎から逃げ出した生徒たちが、校庭で呆然と屋上を見上げている。その表情は、恐怖ではなく、見たこともないものへの期待に満ちていた。
「準備はいいか。ここからが本番だ」
荒崎の声と同時に、桑田が最初の一音を振り下ろす。
それは、教科書も、進路指導も、退屈な予定調和もすべてをなぎ倒す、暴力的なまでに美しい旋律だった。
不破がモニターを全校生徒のスマホにミラーリングさせる。
画面に映し出されたのは、屋上の縁に立つ荒崎の姿。
「聞こえるか、退屈に殺されかけてる全員に告ぐ!」
荒崎の声が、街全体に響き渡る。
「俺たちの限界を決めるのは、あそこにいる大人たちじゃない。俺たちの『正解』は、今ここにある!」
田上が不敵に微笑み、スマホの実行ボタンを押した。
校舎の窓が一斉に開き、中から色とりどりの――かつて「進路希望調査票」だった――紙吹雪が、雪のように舞い上がった。
それは、彼らが世界に突きつけた、最初で最高の『降伏ではない白旗』だった。
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