第2話

「ちょ、ちょっと待って! 本当にこんな馬鹿げた事するつもり!?」

サクラコが椅子を揺らし、声を張る。


「言いたいことはわかるけれど、この拘束を解くのは無理よ」

アマネは冷静に答える。


「でも、この投票って……」

私はアイを見た。彼女の瞳が、わずかに心配で揺れている。


「ええ……必ず誰かが犠牲になるわ」

アマネの声に、空気がさらに重くなる。


「そ、そうよ! 一人を選べばいいじゃない! ナナって子にみんな投票すれば、全員助かるわ!」

サクラコが半ば叫ぶ。


「誰かを犠牲にするなんて、そんなの駄目です!!」

アイが即座に否定する。その声に、サクラコの顔が一瞬強張る。


ナナに視線が集まり、ナナは不安そうに唇を噛む。


「しょうがないじゃない! 誰か一人は絶対に選ばなくちゃいけないんだから!」

サクラコの声は焦りと苛立ちで震える。


「まってよ! そんな簡単に決めていい問題じゃない!」

私は声を張り上げる。


「は? ナナに投票すればいいじゃない。あなたも、誰かに投票するなっていう気?」


「はぁ……呆れたサクラコさん、ジョーカーの存在に気づいていないの?」

アマネの視線が鋭く突き刺さる。


「ジョーカー?」

サクラコの言葉は、怒りと戸惑いが入り混じり、空気に引っかかるように響いた。


「もし、ナナさんがジョーカーだった場合――私たち四人が処刑されるわ」


「嘘でしょ! そんなこと、ありえない!」


「ありえるわ。それが、ここに示されているルールよ」


アマネは一度、小さく息を吐いた。

「……はぁ。本当に、ちゃんとルールは読んだのかしら?」

アマネは鋭い視線を全員に巡らせる。

「まあいいわ。確認の意味も含めて、この投票の焦点をはっきりさせましょう。アイさん、ナナさんにも伝えて」


アマネの言葉に、アイは静かにうなずいた。


「まず、一人につき一票ずつ投票すること」

アマネの声に合わせて、私の視線も自然とテーブルのパネルへ向かう。


「そして、投票で最多票を集めた者は処刑される。残った全員は解放される……残念だけど、これが通常ルールにおける最善手よ」


「問題はここから」


「五人の中には、一人だけ『ジョーカー』が潜んでいる」

「もしジョーカーに投票した場合、そのジョーカー以外の全員が処刑される」

「――これが、私たちにとって最悪のシナリオね」


「さらに」

「ジョーカーは、自分以外の誰かが最多票を集めた場合、その最多票の人物と一緒に処刑される」


私は思わず息を詰めた。


「つまり、このルールによって、ジョーカーが生き残る道はただ一つ」

「――自分自身に、最多票を集めること」


アマネの視線が、ゆっくりと私たち一人一人をなぞる。


「だから、ジョーカーは生き残るために必死になる」

「嘘をつき、感情を煽り、正論を装って――私たちを欺こうとするはずよ」


その言葉を聞いた瞬間、私は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。

この中の誰かが、敵……そして、私達を欺いている。


……あれ?

なぜだろう、今の説明を聞いて、ほんの一瞬だけ胸の奥に違和感を覚えた。

理由はわからない。ただ、何かが少しだけ噛み合っていないような感覚。


私はすぐに視線を伏せる。

きっと気のせいだ。混乱しているだけ。

そう自分に言い聞かせ、深く息を吸った。

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2025年12月27日 08:08
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犠牲者投票 篠崎リム @visions

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