犠牲者投票
篠崎リム
第1話
テーブルを囲み、私たちは五人椅子に固定されて身動きが出来なかった。
部屋は簡素で、窓はない。天井の古びた蛍光灯が、私たちの青白い顔を照らす。今日、私たちの未来は決定する――今日、誰の人生を終わらせるかを決める、投票が始まる……
私は思わず声を漏らす。
「……なんで、こんなことになってるんだ……?
どうして、私はこんな場所にいるの……」
手首は手錠で固定され、肘が痛む。足首はベルトで縛られ、微かに痺れる。
声は震え、心臓は高鳴った――逃げられない恐怖が全身を締め付ける。
隣で金髪の少女が椅子をガタガタと揺らし始める。
「ふざけないで! ここから出して! 誰よ! 誰がこんなことを……!」
肩で椅子を押し、必死に体をよじる。固く固定された椅子に足を蹴りつけながら、苛立ちと恐怖を全身で表現していた。
私は周囲を見渡し、声を上げることもできずに肩を震わせる。
青い髪の少女はパネルを見つめ、何度も深呼吸を繰り返して精神を整えようとするが、焦りが滲み出ている。
眼鏡の気の弱そうな少女は、仕切りに耳を気にしながら、恐怖で身体が震えているのがわかる。
桃色の髪の少女はパネルを見つめ、視線を私たちに向けては、またパネルへ――不安げな瞳が、静かな焦燥を物語っていた。
私もつられるようにパネルの画面に目を落とす。
そこに映し出された液晶パネルの左隅には、小さく「19:06」という時間表示が灯り、
そのすぐ下には、現実感のない悪趣味な内容が並んでいた。
こうして五人の間には、言葉にならない混乱と、身体を伴った恐怖の波が入り交じって漂っていた。重く閉ざされた空間の中、沈黙はもはや恐怖と焦燥に満ちたざわめきへと変わりつつあった。
「ねぇ、みんな……どうするの?」
私が口を開くと、反射的に金髪の少女が身をのけぞらせ、少し声を張って言った。
「し、知らないわよ、勝手にやって! それよりここから出ましょう」
「どうやって……」と私は指摘した。逃げるにも椅子に固定されていて、身動きが取れないのだ。
沈黙が部屋を支配し、互いの視線が彷徨う。
「……こうしてても、何も始まらないわね。自己紹介くらいしておいた方がいいかしら」
青い髪の少女がゆっくりと手を挙げ、落ち着いた声で言った。
「私は、開明秀英高等学校二年・
――開明秀英。全国模試の常連、東大進学率トップの進学校だ。
金髪の少女が、少し肩を張って名乗った。
「私立皇華女学館一年・
――皇華女学館。こちらは芸能界にも進出者が多いお嬢様学校。さっきまで暴れていた少女だが、その華やかさと自信が、彼女の振る舞いに滲み出ている。
次に私が名乗る。
「私は、県立あさひ野高等学校三年・
もう一人、少し小さな声で名乗る者がいる。
「私は、県立あさひ野高等学校一年・
綺麗な子、こんな子が私と同じ学校にいたんだ――と、私は思った。
沈黙が再び流れ、誰もが互いの顔を探るように見つめる。
「……一人、まだ名前を名乗っていないじゃない!」サクラコが少し苛立った声で呼びかける。
呼びかけに応えようと、困った顔で身振り手振りをしている少女がいる。
アマネが目を細め、気づいた。
「もしかして……耳が聞こえないの?」
その時、アイが落ち着いた声で言った。
「補聴器が壊れて、何も聞こえないそうです」
「嘘でしょ! こんな状況で!」
アマネはサクラコの怒りをスルーし、アイに問いかける。
「アイさん、あなた手話がわかるの?」
アイはうなずいた。
「はい、私の妹も耳が聞こえないんです…」
その後、アイは耳の聞こえない少女と手話で短いやり取りを交わす。
そして皆に向けて、静かに告げた。
「彼女の名前は、
アマネが小さく息をつき、視線をアイに向けた。
「そう、悪いけれど、アイさん。ナナさんに状況の説明をしてもらえるかしら?」
アイは微笑みを浮かべ、落ち着いた声で答えた。
「はい、構いませんよ」
その笑顔は柔らかく、周囲の緊張をわずかに和らげる。
アイとナナは、テーブル越しに手話で会話を始めた。
ナナは、少し安心したように微かに笑みを浮かべ、アイの説明に耳を傾ける。
私はテーブルの液晶パネルを見つめ、視線を液晶のスクリーンに落とした。重苦しい沈黙の中、心を落ち着けるように深呼吸をする。
「皆、パネルのルールは確認できたよね?」
パネルにはこう書かれている:
1. 五人のうち、一人一票ずつ投票すること。
2. 最多票を集めた者は処刑される。残った全員は解放される。
3. 五人の中には一人だけ「ジョーカー」が潜んでいる。
- ジョーカーに投票した場合、ジョーカー以外の全員が処刑される。
言葉少なに、私は心の中で区切りをつけた。
——ここから、この物語の本当の幕が上がる。
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