【世界最強の影魔法使い悪役】~大好きなゲームの未発売の続編の世界に転生したオレ、みんなに嫌われる悪役っぽいけど最強なんだが?~
くーねるでぶる(戒め)
第1話 エドワード・オールディス
「いやぁ~! よかった!」
オレはゲームクリアの文字が浮かんだディスプレイを見ながら、一人拍手を送っていた。
もう何度プレイしただろう?
やっぱり『絶対防衛圏~カチドニアの魔女~』は名作だな。
その内容を端的に言えば、周辺国から攻められた祖国を救うために、一人の少女が立ち上がる話だ。少女の活躍によって、諦めムードだった周りが変わっていき、祖国防衛に成功する。
歴史で言えば、あの有名なフランスのジャンヌダルクに通じるものがあるかもしれない。
「公式もチェックしないと……」
オレは『絶対防衛圏2』の公式サイトを更新してみる。
そう。『絶対防衛圏2』。『絶対防衛圏~カチドニアの魔女~』の続編だ。まだ制作が発表された直後だが、オレは毎日欠かさずに公式ページをチェックしている。
チクショウ! 早く遊びたいぜ!
「お!」
喰い入るように公式ページをチャックしていると、キャラクターのページにnewの文字!
早速クリックすると、表示されているキャラが一人増えていた。端的に言えば、男の黒髪黒目のデブキャラだ。明らかにサブキャラの見た目。ちょっとがっかりする。
「早く主人公を見せてくれよ!」
なんでサブキャラから公開して、主人公が一向に公開されないんだ!
そんな思いを抱えながら、オレは黒髪デブのキャラをポチッと押す。
「えーっと……」
名前はエドワード・オールディス。
オールディス侯爵家の嫡子で、身分を鼻にかけた嫌みな性格。クラスのみんなに嫌われている。
影魔法を操り、魔導士としての腕は三流。
「はぁ……。序盤の嫌われ悪役キャラか? にしても、ひどすぎるだろ……」
なんでこんなキャラに立ち絵があって、表情差分まであるのか不思議なくらいだ。
なんで公式は主人公を先に出さないんだよ!
オレは憤りと共にエナジードリンクを一気に飲み干す。
「はぁ……。あれ……?」
突然、まるで酔ってしまったかのようにぐにゃぐにゃと歪みだす視界。ディスプレイに映ったゲームクリアの文字も読めないほどぐにゃぐにゃだ。
一度目を閉じるけど、今度はだんだん気持ち悪くなってきた。
いくら続編発表が嬉しすぎたとはいえ、さすがに五徹でゲームは無理があったか?
でも、これも『絶対防衛圏~カチドニアの魔女~』が面白すぎるのがいけないんだ。
「さすふぁに、寝ないとくぁ……」
もう呂律が回ってない。さすがに寝ないとな。
「あえ……?」
ゲーミングチェアから立ち上がった瞬間、ぐらりときた。
足はがもつれ、机の上に山積みになったエナジードリンクの空き缶を薙ぎ倒しながら床に倒れてしまう。
まるで、倒れたカメラの映像を見ているような他人事のような心地だ。
しかも、強く頭を床にぶつけたというのに、少しも痛くない。
なんだか怖くなってきた。
立ち上がろうとするけれど、手足が動かない。いや、手足の感覚がもうない。
ぐにゃぐにゃに歪んだ目からの情報だけがすべてだ。
だが、それも次第に暗くなっていく。
オレはこのままどうなるんだろう?
もう体中の感覚がない。それなのに、どんどん寒くなっていくのがわかる。
まさか、死ぬのか?
死を実感した時、オレは狂いそうなほど怖くなった。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!
嘘だろ? オレの人生が、こんなところで終わるのか? 嘘だと言ってくれよ! なんでだよ! まだやりたいことが、『絶対防衛圏~カチドニアの魔女~』の続編も出るっていうのに! なんで! どうして!
「やら……」
死にたくないよ……。
その言葉を最期に、オレの視界は真っ黒になった。
◇
「ハッ⁉」
気が付いて飛び起きると、そこは黒い布に覆われた空間だった。うっすらと光が透過して、薄暗い。
オレは、どうなったんだ?
自分の体を確認するように下を向くと、大きく突き出たお腹があった。
何かがおかしい。オレはこんなに太ってはいないはずなんだが……?
「ぐッ⁉」
疑問に思ったその瞬間、ひどい頭痛がした。
そして、頭の中に何かが流れ込んでくる。まるで規格違いのパーツを無理やりくっつけたような違和感のある記憶だ。
「うぐぅ……」
オレの名前は……エドワード・オールディス?
それって、『絶対防衛圏~カチドニアの魔女~』の続編に出てくる予定の序盤のかませ犬じゃないか⁉
でも、間違いなくオレにはエドワード・オールディスとして生きた十年の記憶がある。
どうなっているんだ?
オレがエドワード・オールディスになったのか?
そんなバカな話があるかと一笑したいが、突き出たお腹が、ぷにぷにの手が現実に戻してくる。
「エドワード様? 失礼いたします。お加減はいかがですか?」
その時、視界がぱぁっと明るくなった。黒い布をどかして、中年の女性がこちらを心配そうに見ている。
誰だ?
思い出そうとするまでもなく、自然と頭の中に浮かんできた。
彼女はカーラ。エドワード付きの筆頭メイドだ。
乗馬の練習中に頭から落ちたグレイアムを心配しているのだ。
頭を打って、前世の記憶を思い出したってか? 何の冗談だよ?
しかし、冗談のようだがこれが現実だ。
「エドワード様?」
「あぁ。大丈夫だ、カーラ。少し記憶が混乱しているが、オレは大丈夫だ」
オレはそう言って無駄に大きなベッドから降りようとする。
「記憶の混乱……。すぐに旦那様に報告を!」
カーラはそう叫ぶと、オレに向かって手を伸ばす。
「彼の者に癒しを。ヒール」
「ッ⁉」
ほわんと淡く光る緑の光がオレの体を包み込む。
魔法だ! すっげー!
そうか。オレがエドワード・オールディスに転生したってことは、ここは『絶対防衛圏~カチドニアの魔女~』の続編の世界であり、魔法があるのか!
それだけじゃない!
未発売の続編は、『絶対防衛圏~カチドニアの魔女~』の世界と共通の世界だとされていた。
無論、未発売なので詳しいことはわからない。
でも、オレは今、『絶対防衛圏~カチドニアの魔女~』の世界にいる!
こんな奇跡があってもいいのか!
たしかに、転生先が嫌われ者のエドワード・オールディスだというのは不満だ。でも、それを補って余りある奇跡だ!
「エドワード様? 急に両手を振り上げて、どうなさったのですか?」
「奇跡を、噛みしめていたんだ……」
「はあ?」
カーラは訳がわからないとばかりに困り顔だ。
オレはそんなカーラを押し退けるようにベッドから降りる。
ここは寝室なのか、ドデカいベッドが中央に置かれた部屋だった。ベッドといい敷かれている絨毯といい、アンティークな高級品であることが見て取れた。
エドワード・オールディスは侯爵家の嫡子らしいし、お金持ちなのだろう。
前世で見たキャラ説明では、エドワード・オールディスは嫌われ者の悪役キャラみたいだった。たぶん、主人公をいじめる役柄なのだろう。
この手の決まり事として、たぶんエドワードには主人公にボコボコに負けて、惨い死が待っている。
たぶん、戦場で敵軍の強さを見せつけるためのかませ犬として死ぬとかだろう。『絶対防衛圏~カチドニアの魔女~』はそういうのを平気でやってくるゲームだ。
死。
それはとても恐ろしいものだ。一度経験したからわかる。そこには何の救いもなく、ただ終わるだけ。命が物になるだけ。
未練なんていくらでも浮かんできた。それらを叶えるすべての道が閉ざされる。
もうあんな経験はしたくない。二度とごめんだ。
せっかく大好きな『絶対防衛圏~カチドニアの魔女~』の世界に転生したんだ。一秒でも長く体感していたい。長く生きたい。
そして、もし死が逃れられないというのなら、一つも未練ないほど世界を満喫したい。
そのためにすべきこと。それは、主人公をいじめないこと。そして、嫌われ者にならないことだ。
これで、オレの死亡フラグは折れるはず。
そして、オレのようなモブキャラが生きているか死んでいるかで運命なんて大して変わらないだろう。
主人公が誰なのかわからない現状では、まず、目標としてはいい人になって天寿を全うすることを目標にしよう。
「やるぞ!」
気合を入れて拳を突き上げる。お腹がぽよんと弾んだ。
まずはダイエットから始めてもいいかもなぁ……。
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