第3話 海辺の別れ
それからひと月かふた月程、3人は仲良く楽しく暮らした。ララにも、セラフにも、この可愛らしい少女に愛情とも言える感情が湧き起こっていた。
エレットも、もうすっかり落ち着いて、2人になついているように見える。
ある、ララが休みの日だった。
3人で、冬の海を見に行こうということになった。
ララはもうエレットのいない生活など考えられないほどに、エレット中心の日々を送っていた。
町の中心の駅から電車に乗って30分もすると、窓外に海が見えてきた。天気が良かったので、海も青々として、日差しを照り返していた。窓越しに潮騒が聞こえる。青い海原と白い波のコントラストが美しい。
向かい合わせになった4人掛けの座席に座って、3人はとりとめのない話をしていた。
セラフはその時、ついに我慢できなくなって、エレットについ聞いてしまった。
「エレットはどこの国の人なんだい?」
エレットは可愛らしく首を傾げた。
「よし、おじさまが当ててやろう。えーとね、中国?」
エレットはまたしても首を傾げた。
「私は日本じゃないかと思うの」
ララが言った。
「中国と日本って、どう違うの?」
セラフが聞いた。
「バカね、違う国なのよ」
「ああ、そうだね」
エレットが笑っていた。3人は幸せな気持ちになった。
シッチェスという駅で降り、3人は海辺を歩いたが、あまりにも寒いので、海辺のカフェに入った。
ララとセラフはコーヒーを、エレットは紅茶を飲んだ。
「そういえば,今夜は満月だね。天気もいいし、このままここにいれば、月が海を照らすのを見られるよ」
セラフが言った。
「きっと神秘的で綺麗でしょうね。明日も休みだから、月を見てから帰りましょうか」
と、ララが提案した。
「どう? エレット?」
とセラフが言うと、
「わたし、この広い砂浜がちょうどいいわ」
と、エレットが言った。そして、
「おじさま、おばさま、短い間だったけど、本当にありがとう」
と言う。
「何よ、改まって」
「実はね,きょう、お迎えが来るというお知らせがあったの」
「え? 本当かい? どういうこと?」
「おふたりの優しさは、決して忘れません」
「おいおい、どういうことなんだい? そもそも、お知らせってどこに来たの?」
「あのね、えっと、わたしの頭の中に来たの」
「時々変なこと言うんだから。頭の中に来るって、どう言うことなのかしら」
「あのね、テレパシー」
「テレパシー?」
と、ララとセラフが同時に言った。
と、それからいくらもしないうちに、日が暮れ始め,太陽は沈み、大きなまんまるの月が、海原を照らし始めた。
エレットは立ち上がると、
「もう行かなきゃ」
そう言ってカフェを出ようとする。ララとセラフはあわててお勘定をして、エレットの後を追う。
エレットはまっすぐ波打ち際の方へ歩くと、そのすぐそばで立ち止まり、両手を合わせて月に向かってその手を伸ばした。
月のあたりに白い点が見える。
それはあっという間に大きくなって、すぐ海上の目の前に降りてきた。淡く、全体が白く光っており、車3台分くらいの大きさがあって、波打ち際で静止している。
と、すっと1箇所が開いてエレットに光を当てると、エレットはその中に吸い込まれてしまった。
その白い物体は、少しの間そのまま静止していたが、スーッと舞い上がると、急に速度を上げ,月の光の中を空へ消えていった。
ララとセラフは呆気にとられてこの光景を見ていたが、何かゾクゾクするほどの驚きと悲しみに捉えられた。
「エレット」
2人は同時に彼女の名を呼んでいた。
そこには静かな潮騒が響き渡っているだけだった。
了
[短編小説]黒い瞳の少女 レネ @asamurakamei
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