第3話
爽快な朝を迎えるには、少し遅い時間に、俺は片目を擦って起きる。スマホの画面を見ると、会社からの着信が山のように来ていた。スマホは放り投げ、昨日のことを思い出す。昨日の出来事は、まるで夢のようだった。あの時の興奮を味わうように、丸い皿に乗っかった冷たいパンを熱い珈琲で流し込む。顔を洗おう。そして、洗面台に置いてあるズボンを見つけた。「そうだ。ズボンの中の「丸」はまだ、輝いているだろうか。」しかし、ポケットにしまいこんだ老人の「丸」は、綺麗な丸を描くどころか、赤い塊で、小銭に付着して、まるで夜、十一時の渋谷を彷彿とさせる様態だった。「あれ、おかしいな笑。」不自然な笑みを鏡越しで見る。僕の顔は、老人の顔だった。そしてその時やっと思い出した。
老人の希望だと思っていた「◯」は俺の「◯」だったのだ。「あぁ、そうか。あれは俺だ。」
俺は鏡に映る、自分の完璧だと思っていた顔を撫でて、今まで閉ざしていた記憶を思い出す。「そうだ。俺は子供の頃に片目を失ったのだ。」随分と昔のことだから覚えてないが、確かおもちゃのフォークで遊んでて、転んだ拍子に刺さっちゃったんだっけ。俺はその日から、周りからの目線に怯え、俺を見るその目が怖くて、散々な人生を送っていたのだ。本当の自分を見るのが嫌になった。それからだ。俺が精神に異常をきたしたのは。段々と妄想が酷くなっていくのを感じた。時折、自分が二人いるような感覚になることもあった。病院に通って、薬を飲んでも、一向に治らない。
そんな中、恍惚な玉ねぎを見た時、ついに俺は狂った。俺は目を失ったことで、自然と「◯」に惹かれていたのだろう。穴の空いた俺のために、「蓋」を無意識のうちに探してたのだ。完璧ではない、俺の一種の欠落感というような、嫉妬が混ざり合った、「◯」に対して羨望の眼差しを、片目で向けていたのだ。俺は自分が完璧で、優秀な人だと思っていたが、違った。
僕は、本当の俺が思い描いていた「◯」だった。実際の俺はただ狂っていただけの異常者だったのだ。あの時見た老人と同じ、不完全な壊れかけたオルゴールだったのだ。「◯」なんてものは関係なかった。「俺はあんなのとは違う、俺は違うんだよ。」そんな気がして、俺はあいつの目を奪ったんだ。でも俺はあの老人なのだ。結局は、穴のある生活を妄想で「蓋」をしていたのだ。
ベランダに出て、安っぽい手で煙草を吹かし、ふと考える。ポケットの中で潰された「◯」は俺に何を問いかけるだろう。俺は不思議と冷静だった。あぁ、会社からの催促の電話が煩わしい。でもね、僕は笑う。だってまだ、本当の「◯」に出会ってないのだから。僕は身支度をして、会社へ向かう。
◯のある生活 @sakana16_
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