第16話
政府軍の掃討作戦から、一週間が経った。
解放戦線は、損害の復旧に追われていた。
戦死した仲間の葬儀。
重傷者の治療。
破壊された施設の修復。
やるべきことは、山積みだった。
結衣は医務室で、負傷者の看病を手伝っていた。
「はい、お水です」
結衣は重傷を負った男性に、水を差し出した。
「ありがとう……」
男性は弱々しく微笑んだ。
彼は、南の防衛線で戦った一人だった。
右腕を失っていた。
「もう、戦えないな……」
男性は自嘲気味に笑った。
「俺みたいな半端者、お荷物だろう」
「そんなことありません」
結衣は首を振った。
「あなたは、仲間を守るために戦った。それだけで、十分です」
「でも……」
「それに、戦いだけが全てじゃありません」
結衣は微笑んだ。
「体が治ったら、後方支援をお願いします。料理とか、修理とか」
「……ありがとう」
男性は涙を流した。
「ありがとう……」
結衣は男性の肩を優しく叩いた。
そして、次の患者のところへ向かった。
医務室には、十五人の重傷者がいる。
全員に、水を配り、言葉をかける。
地道な作業だった。
でも、誰かがやらなければならない。
「結衣、休憩しなさい」
医療班の看護師が声をかけてきた。
「もう三時間も働いてるでしょ」
「大丈夫です。まだいけます」
「無理しないで。あなたも、戦いで疲れてるんだから」
「でも……」
「いいから。紫苑さんも心配してたわよ」
看護師は結衣を医務室の外に押し出した。
「ちゃんと休んで、また後で来なさい」
「……わかりました」
結衣は廊下に出た。
窓の外を見ると、秋の空が広がっていた。
もう十月。
ダンジョンが出現してから、半年が経とうとしていた。
「早いな……」
結衣は呟いた。
半年前は、普通の女子高生だった。
今は、指名手配犯で、レジスタンスの一員。
人生が、完全に変わってしまった。
でも――
後悔はしていない。
「結衣!」
背後から、声がした。
振り返ると――
紫苑が走ってきていた。
「探したよ! もう、どこ行ってたの!」
「ごめん、医務室で手伝ってて」
「もう、心配したんだから」
紫苑は結衣を抱きしめた。
「あんまり無理しないで」
「ごめん……」
「謝らなくていいよ。結衣の優しいところ、好きだから」
紫苑は微笑んだ。
「でも、自分も大事にしてね」
「うん」
二人は手を繋いだ。
「お腹空いた?」
「うん、ちょっと」
「じゃあ、食堂行こう」
二人は食堂に向かった。
食堂では、明日香が先に食事をしていた。
「あ、二人とも!」
明日香が手を振った。
「こっちこっち!」
結衣と紫苑は、明日香の隣に座った。
「久しぶりだね、三人で食事するの」
明日香が言った。
「最近、みんなバラバラだったから」
「そうだね……」
結衣は頷いた。
戦いの後、それぞれが忙しかった。
紫苑は訓練。
明日香は施設の修復。
結衣は看病。
「でも、今日は久しぶりにゆっくりできそう」
明日香は笑った。
「冴子さんが、今日は休日にするって」
「本当?」
「うん。みんな疲れてるから、休まないとって」
「良かった……」
結衣はほっとした。
確かに、みんな疲弊していた。
休息が必要だった。
「じゃあ、午後は何しよう?」
紫苑が聞いた。
「うーん……」
明日香は考えた。
「トランプとか?」
「いいね」
「じゃあ、決まり! 午後は三人でトランプ大会!」
明日香は嬉しそうだった。
結衣も、久しぶりに心から笑えた。
戦いばかりの日々。
でも、こういう何気ない時間が――
一番大切なのかもしれない。
午後。
三人は部屋でトランプをしていた。
「ババ抜き!」
明日香が宣言した。
「また負けた!」
「明日香、下手すぎない?」
紫苑が笑った。
「うるさい! 次は勝つから!」
三人は笑い合った。
楽しい時間。
平和な時間。
こんな日々が、ずっと続けばいいのに。
結衣は思った。
「ねえ、二人とも」
明日香が真剣な顔になった。
「私たち、いつまでこんな生活続けるの?」
「え?」
「だって、ずっと逃げ続けるわけにいかないでしょ」
明日香は窓の外を見た。
「いつか、決着をつけないと」
「決着……」
結衣は考えた。
政府との戦い。
いつまで続くのか。
終わりはあるのか。
「わからない」
紫苑が答えた。
「でも、いつか必ず終わる」
「どうやって?」
「政府が方針を変えるか……」
紫苑は言葉を選んだ。
「それとも、革命を起こすか」
「革命……」
明日香は目を見開いた。
「そんな大それたこと……」
「でも、他に方法がある?」
紫苑は真剣だった。
「このまま逃げ続けても、いつか捕まる。戦い続けても、いつか全滅する」
「じゃあ……」
「政府を倒すしかない」
紫苑の言葉に、二人は沈黙した。
政府を倒す。
それは、途方もない目標だった。
「できるの? 私たちに?」
明日香が聞いた。
「わからない」
紫苑は正直に答えた。
「でも、やるしかない」
結衣は紫苑の手を握った。
「もし、革命を起こすなら……私も一緒に戦う」
「結衣……」
「私、紫苑と一緒なら、何でもできる気がする」
結衣は微笑んだ。
「だから、一緒に頑張ろう」
「……ありがとう」
紫苑も微笑んだ。
「じゃあ、私も!」
明日香が手を重ねた。
「三人で、革命起こそう!」
「うん!」
三人は手を重ね合った。
まだ、具体的な計画はない。
でも――
目標ができた。
それだけで、希望が生まれた。
夕方。
結衣は一人、屋上にいた。
夕日が、山々を赤く染めている。
綺麗だった。
こんな美しい景色を見られる。
それだけで、生きていて良かったと思える。
「結衣」
背後から、紫苑が来た。
「やっぱり、ここにいたんだ」
「うん……夕日が綺麗で」
「そうだね」
紫苑は結衣の隣に来た。
二人は並んで、夕日を眺めた。
「ねえ、結衣」
「ん?」
「覚えてる? 私たちが初めて会った日」
「もちろん」
結衣は微笑んだ。
「初級ダンジョンで、私がラットキングに殺されそうになってたら、紫苑が助けてくれた」
「あの時、結衣を見て思ったんだ」
紫苑は結衣を見た。
「この子、守らなきゃって」
「え?」
「だって、すごく一生懸命だったから。必死に戦ってて」
紫苑は微笑んだ。
「それなのに、全然うまくいかなくて。でも、諦めなくて」
「うわ、恥ずかしい……」
結衣は顔を赤くした。
「でも、それが可愛かった」
紫苑は結衣の頬に触れた。
「だから、守りたいって思った」
「紫苑……」
「今も、その気持ちは変わらない」
紫苑は結衣を抱きしめた。
「ずっと、結衣を守る」
「私も」
結衣も紫苑を抱きしめた。
「私も、紫苑を守る」
「ありがとう」
二人は唇を重ねた。
夕日を背景に。
美しい一瞬。
永遠に、この瞬間が続けばいいのに。
二人は、そう願った。
その夜。
結衣と紫苑は、部屋で二人きりだった。
明日香は、今夜も重傷者の看病に行っていた。
「明日香、優しいよね」
結衣が言った。
「うん。口は悪いけど、根は優しい」
紫苑が頷いた。
「いい仲間に恵まれたね、私たち」
「そうだね」
二人はベッドに座った。
「ねえ、結衣」
「ん?」
「今夜、一緒に寝てもいい?」
「もちろん」
結衣は微笑んだ。
「というか、最近ずっと一緒だよね」
「だって、離れたくないんだもん」
紫苑は結衣に抱きついた。
「結衣の温もりがないと、眠れない」
「私も」
結衣は紫苑を抱きしめた。
「紫苑がいないと、不安で」
二人は抱き合ったまま、横になった。
電気を消す。
月明かりだけが、部屋を照らしていた。
「結衣」
「ん?」
「キス、していい?」
「うん」
二人は唇を重ねた。
優しいキス。
だが、徐々に深くなっていく。
舌が絡み合う。
「んっ……」
結衣の体が熱くなってきた。
紫苑の手が、結衣の服の中に入ってくる。
「あっ……」
「気持ちいい?」
「うん……」
紫苑の指が、結衣の胸を撫でる。
乳首を転がす。
「んっ、あぁ……」
結衣の声が漏れる。
「もっと、声出して」
「で、でも……」
「いいよ。明日香、いないし」
紫苑の手が、さらに下に降りていった。
結衣の最も敏感な場所に触れる。
「ひゃあっ!」
結衣の腰が跳ねた。
「可愛い反応」
紫苑は笑った。
「もっと、感じて」
紫苑の指が、結衣の中に入った。
「あっ、ああっ……!」
結衣は必死に声を抑えようとしたが――
無理だった。
快感が、全身を駆け巡る。
「紫苑、ダメ、もう……!」
「いいよ、イって」
紫苑の指が、激しく動く。
「あっ、ああああっ!」
結衣の体が痙攣した。
絶頂に達した。
「はあ、はあ……」
結衣は荒い息をついた。
「すごかった……」
「結衣、可愛かったよ」
紫苑は微笑んだ。
「今度は、私の番」
結衣は紫苑を押し倒した。
「ちゃんと、お返しするから」
「結衣……」
結衣は紫苑の服を脱がせた。
白い肌が露わになる。
「綺麗……」
結衣は紫苑の体にキスをした。
首筋。
鎖骨。
胸。
「んっ……結衣……」
紫苑の声が漏れる。
結衣は丁寧に、紫苑の全身を愛撫した。
時間をかけて。
愛情を込めて。
「あっ、あぁ……」
紫苑の体が震える。
結衣の指が、紫苑の中に入った。
「ひゃあっ! 結衣、そこ……!」
「ここが好き?」
「う、うん……すごく……」
結衣は動かし続けた。
紫苑の表情を見ながら。
どこが気持ちいいのか。
どんな動きが好きなのか。
全てを、学んでいく。
「結衣、もう、無理……!」
「いいよ。イって」
「あっ、ああああっ!」
紫苑の体が激しく震えた。
絶頂に達した。
「はあ、はあ……結衣……最高だった……」
「紫苑も」
二人は抱き合った。
汗ばんだ体を重ね合わせた。
「愛してる、結衣」
「私も、愛してる、紫苑」
二人は深くキスを交わした。
そして――
そのまま眠りに落ちた。
幸せな夢を見ながら。
翌朝。
結衣は爽やかな気分で目覚めた。
隣で、紫苑が寝息を立てている。
可愛い寝顔。
結衣は思わず、キスをした。
「んー……」
紫苑が目を覚ました。
「おはよう、結衣」
「おはよう」
二人は笑い合った。
「今日も、いい天気だね」
窓の外を見ると、青空が広がっていた。
「うん。散歩でもする?」
「いいね」
二人は着替えて、外に出た。
アジトの周囲は、山に囲まれている。
空気が澄んでいて、気持ちいい。
「こういう平和な日が、ずっと続けばいいのに」
結衣が呟いた。
「そうだね」
紫苑も同意した。
だが、二人は知っていた。
この平和は、束の間のものだと。
また、戦いが来る。
必ず。
「でも」
紫苑が言った。
「今は、この瞬間を楽しもう」
「うん」
二人は手を繋いで、山道を歩いた。
鳥のさえずり。
風の音。
葉擦れの音。
自然の音が、心地よかった。
「ねえ、結衣」
「ん?」
「もし、全てが終わったら……」
紫苑は空を見上げた。
「どこに行きたい?」
「どこって……」
結衣は考えた。
「やっぱり、南の島かな」
「ああ、前に話してたやつ」
「うん。温かくて、海が綺麗なところ」
結衣は微笑んだ。
「そこで、紫苑と二人で暮らすの」
「いいね」
紫苑も微笑んだ。
「小さな家を建てて」
「毎日、ビーチで過ごして」
「夜は、星を見ながらお酒を飲んで」
「そして、愛し合う」
二人は笑い合った。
「絶対、そうしようね」
「うん、約束」
二人は指切りをした。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ます」
子供みたいな約束。
でも、二人にとっては――
何より大切な約束だった。
午後。
結衣と紫苑は、訓練場にいた。
「久しぶりに、訓練しようか」
紫苑が提案した。
「実戦から離れすぎると、鈍るから」
「そうだね」
結衣も同意した。
二人は向かい合った。
「じゃあ、始めよう」
紫苑が剣を構えた。
結衣は魔法を準備する。
「行くよ!」
紫苑が突進してきた。
速い!
結衣は横に転がって回避した。
そして、カウンター。
「ライトアロー!」
光の矢が放たれる。
だが、紫苑は剣で弾いた。
「甘い!」
紫苑が再び突進してくる。
結衣は【土壁(アースウォール)】で防御した。
土の壁が出現する。
だが――
紫苑の剣が、壁を斬り裂いた。
「っ!」
結衣は短剣で受け止めた。
キィン!
金属音。
「よくなったね、結衣」
紫苑が笑った。
「前なら、ここで負けてた」
「紫苑が、鍛えてくれたから」
結衣も笑った。
「ありがとう」
「どういたしまして」
二人は剣を交えたまま、顔を近づけた。
「ねえ、結衣」
「ん?」
「キス、していい?」
「え、今?」
「うん」
紫苑は結衣にキスをした。
訓練中なのに。
でも――
結衣は嬉しかった。
こんな風に、紫苑と触れ合える。
それが、何より幸せだった。
「ちょっと、二人とも!」
背後から、明日香の声がした。
「訓練場でイチャイチャしないでよ!」
「あ、明日香」
二人は慌てて離れた。
「ごめん、つい……」
「まったく」
明日香は呆れた顔をした。
だが、笑っていた。
「でも、お似合いだよ。本当に」
「ありがとう」
結衣は照れくさそうに笑った。
「じゃあ、私も混ぜてよ。三人で訓練しよう」
「いいよ!」
三人は、午後いっぱい訓練をした。
お互いに技を磨き合った。
笑い合った。
こんな日々が――
ずっと続けばいい。
三人は、心からそう願った。
その夜。
冴子が全員を集めた。
「緊急ミーティングだ」
冴子の表情は、険しかった。
「政府から、連絡が来た」
全員が緊張した。
「何て?」
山本が聞いた。
「交渉したい、と」
「交渉?」
「ああ。我々解放戦線と、停戦協定を結びたいらしい」
全員がざわめいた。
停戦協定。
それは――
戦いが終わるということか?
「本当なの?」
結衣が聞いた。
「わからない」
冴子は首を振った。
「罠かもしれない」
「でも、もし本当なら……」
紫苑が言った。
「これは、チャンスかもしれない」
「ああ」
冴子は頷いた。
「だから、交渉の場に行く」
「危険じゃないですか?」
「危険だ。だが、行かなければならない」
冴子は全員を見回した。
「もし、これで平和が訪れるなら……行く価値がある」
全員が沈黙した。
「交渉は、三日後だ」
冴子は地図を広げた。
「場所は、東京都心のホテル」
「誰が行くんですか?」
「私と……」
冴子は結衣と紫苑を見た。
「君たち二人だ」
「え、私たちも?」
「ああ。君たちは、解放戦線の象徴だ。若き覚醒者たちの希望だ」
冴子は真剣な顔で言った。
「だから、一緒に来てほしい」
結衣と紫苑は顔を見合わせた。
「……わかりました」
二人は頷いた。
「行きます」
「ありがとう」
冴子は微笑んだ。
「では、三日後に出発する。準備を整えておけ」
全員が解散した。
だが、結衣の胸には――
不安が残っていた。
本当に、これで平和が訪れるのか。
それとも――
罠なのか。
答えは、三日後にわかる。
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