第15話




 東の防衛線。

 結衣たちの魔法が、政府軍の機動部隊を襲った。

「ライトアロー!」

 結衣の光の矢が、兵士の一人に命中した。

『政府軍兵士:HP 200/500』

 ダメージは入ったが、致命傷ではない。

「くそっ、反撃してくる!」

 兵士たちが銃を構えた。

 銃声。

 弾丸が飛んでくる。

「【土壁(アースウォール)】!」

 結衣は防御魔法を展開した。

 土の壁が弾丸を防ぐ。

「今だ、攻撃しろ!」

 冴子が叫んだ。

 解放戦線のメンバーたちが、一斉に魔法を放った。

 ファイアボルト。

 サンダーボルト。

 ウィンドカッター。

 政府軍の兵士たちが、次々と倒れていく。

『政府軍兵士×5撃破――経験値+500』

 だが――

 敵の数は多い。

 まだ二十五名も残っている。

「前進しろ! 敵を蹴散らせ!」

 政府軍の指揮官が叫んだ。

 兵士たちが突撃してくる。

「接近戦になる! 近接武器を!」

 冴子が双剣を抜いた。

 結衣も短剣を構えた。

 兵士の一人が、結衣に向かって突進してきた。

「っ!」

 結衣は横に転がって回避した。

 そして、カウンター。

 短剣を兵士の脇腹に突き刺した。

「ぐあっ!」

『政府軍兵士:HP 50/500』

 致命傷だ。

 兵士が倒れた。

 だが、すぐに次の敵が来た。

「くそっ、きりがない!」

 結衣は必死に戦い続けた。

 短剣で斬る。

 魔法で撃つ。

 防御魔法で守る。

 全てを、必死に。

「結衣、後ろ!」

 冴子の声。

 振り返ると――

 兵士が銃を構えていた。

 至近距離。

 避けられない。

「っ!」

 結衣は目を閉じた。

 だが――

 銃声は響かなかった。

 代わりに、金属音。

 目を開けると――

 冴子が、剣で弾丸を弾いていた。

「ぼーっとするな!」

「す、すみません!」

 冴子は兵士を一閃で斬り倒した。

「集中しろ! 油断したら死ぬぞ!」

「はい!」

 結衣は気を引き締めた。

 戦いは、まだ続く。


 北の防衛線。

 紫苑たちは、特殊部隊五十名と戦っていた。

「【魔剣解放(ダークブレイド)】!」

 紫苑の剣が、黒く光った。

 巨大化した剣が、敵を薙ぎ払う。

『政府軍特殊部隊員×3撃破』

 だが、敵は訓練された精鋭だ。

 すぐに陣形を立て直し、反撃してくる。

「RPG発射!」

 ロケットランチャーだ。

 ミサイルが飛んでくる。

「全員、伏せろ!」

 山本が叫んだ。

 全員が地面に伏せた。

 ミサイルが着弾――

 爆発!

 土と石が飛び散る。

「くそっ、こんな武器まで!」

 山本が舌打ちした。

「紫苑、お前の魔剣でミサイルを撃ち落とせ!」

「やってみます!」

 紫苑は剣を構えた。

 次のミサイルが飛んでくる。

「はあっ!」

 紫苑の剣が閃いた。

 ミサイルが――真っ二つに斬り裂かれた。

 空中で爆発する。

「やった!」

「すげえ!」

 仲間たちが歓声を上げた。

 だが、紫苑は油断しなかった。

 敵はまだ、四十名以上いる。

「みんな、気を抜かないで! これからが本番だ!」

 紫苑の叫びに、全員が気を引き締めた。

 戦いは、激しさを増していく。


 南の防衛線。

 明日香たちは、重装備部隊二十名と戦っていた。

 重装備部隊は、全員が鎧を着ている。

 通常の攻撃では、ダメージが入らない。

「くそっ、硬い!」

 明日香の拳が、兵士の鎧を叩いた。

 だが、ほとんどダメージが入らない。

『政府軍重装備兵:HP 480/500』

「このままじゃ、埒が明かない!」

 明日香は後退した。

「ヒューゴさん、何かいい方法は!?」

「任せなさい」

 ヒューゴが杖を構えた。

「鎧ごと、溶かしてしまえばいい」

 ヒューゴは魔法を唱えた。

「炎よ、全てを焼き尽くせ――【業火の嵐(インフェルノストーム)】!」

 巨大な炎の竜巻が出現した。

 炎が、重装備兵たちを包み込む。

「ぐああああああっ!」

 兵士たちが悲鳴を上げた。

 鎧が赤熱し、溶け始める。

『政府軍重装備兵×10撃破』

「すごい……!」

 明日香は驚愕した。

 これが、レベル60の大賢者の力。

 だが――

 ヒューゴは膝をついた。

「はあ、はあ……」

「ヒューゴさん!」

「大丈夫……だが、もう大魔法は使えない……」

 ヒューゴは疲労困憊だった。

「後は、頼んだ……」

「わかりました!」

 明日香は前に出た。

 残りの十名は、明日香たちが倒す。

「みんな、行くよ!」

 明日香を先頭に、全員が突撃した。


 東の防衛線。

 結衣たちは、ついに敵を十名まで減らしていた。

 だが――

 こちらも消耗していた。

 結衣の仲間のうち、三名が重傷を負っていた。

『MP:100/320』

 結衣の魔力も、残り少ない。

「くそっ……」

 結衣は荒い息をついた。

 体が重い。

 疲労が限界に達している。

 だが――

「まだだ……まだ終わらせない……!」

 結衣は魔法を放ち続けた。

「ライトアロー!」

「ライトアロー!」

「ライトアロー!」

 一体、また一体と敵を倒していく。

 そして――

 ついに、最後の一人になった。

 政府軍の指揮官だ。

『政府軍指揮官――レベル35――HP:800/800』

 レベル35。

 結衣より五つ上だ。

「お前たちが、解放戦線か……」

 指揮官が剣を抜いた。

「だが、ここまでだ。お前たちは、ここで死ぬ」

「そうはさせない!」

 冴子が突進した。

 双剣を振るう。

 だが――

 指揮官は冴子の攻撃を全て受け止めた。

「遅い!」

 指揮官のカウンター。

 剣が、冴子の肩を斬った。

「ぐっ!」

『神崎冴子:HP 400/650』

 冴子が後退した。

「冴子さん!」

 結衣が駆け寄ろうとした。

 だが――

「動くな!」

 指揮官が結衣に向かって突進してきた。

「っ!」

 結衣は短剣で受け止めようとしたが――

 力負けした。

 短剣が弾き飛ばされた。

「終わりだ!」

 指揮官の剣が、結衣の首を狙って振り下ろされた。

 結衣は目を閉じた。

 死ぬ。

 ここで――

 だが。

「させない!」

 光が、結衣を包んだ。

 目を開けると――

 結衣の体が、光の障壁に包まれていた。

 指揮官の剣は、障壁に阻まれていた。

「何だ、これは!?」

「わからない……でも……!」

 結衣は理解した。

 これは、自分の力だ。

 光魔法の、新しい力。

『新スキル覚醒:聖なる守護(ホーリーシールド) Lv.1――自動発動――致死ダメージを一度だけ無効化』

「これなら……!」

 結衣は魔力を集中させた。

 残った全ての魔力を。

「光よ、我が敵を貫け――【聖槍(ホーリーランス)】!」

 巨大な光の槍が出現した。

 そして――

 指揮官を貫いた。

「ぐああああああっ!」

『政府軍指揮官:HP 0/800――撃破』

 指揮官が倒れた。

「やった……!」

 結衣も膝をついた。

『MP:0/320』

 魔力を全て使い果たした。

「よくやった、結衣」

 冴子が近づいてきた。

「東の防衛線は、守り切った」

「はい……」

 結衣は安堵のため息をついた。

 だが――

 まだ終わりじゃない。

 北と南の戦いが、まだ続いている。

 紫苑は、大丈夫だろうか。

 明日香は。

 仲間たちは。

 結衣は不安で胸が一杯だった。


 北の防衛線。

 紫苑たちは、苦戦していた。

 特殊部隊は、予想以上に強かった。

 すでに、紫苑の仲間のうち五名が戦闘不能になっていた。

 残りは、紫苑と山本を含めて六名。

 対して、敵はまだ三十名もいる。

「くそっ、数が多すぎる!」

 山本が叫んだ。

「このままじゃ、全滅だ!」

「諦めないで!」

 紫苑が叫んだ。

「私たちには、守るべきものがある! 仲間が! 家族が! 自由が!」

 紫苑は剣を構えた。

「だから、絶対に負けない!」

 紫苑の体から、凄まじい魔力が溢れ出した。

 黒いオーラ。

 そして――

 赤く光る目。

「これは……堕天者の力……!」

 山本が驚いた。

「紫苑、お前……!」

「私、もう迷わない!」

 紫苑は叫んだ。

「この力を、仲間を守るために使う!」

 紫苑の剣が――巨大化した。

 黒い光を纏った、五メートルはある大剣。

「【魔剣解放(ダークブレイド)】――100%!」

 紫苑が剣を振るった。

 黒い光の刃が、敵を薙ぎ払った。

『政府軍特殊部隊員×15撃破』

 一撃で、十五名を倒した。

「す、すごい……!」

 仲間たちが驚愕した。

 だが、紫苑は止まらなかった。

「まだだ!」

 もう一撃。

「はああああああっ!」

 黒い刃が、再び敵を襲った。

『政府軍特殊部隊員×10撃破』

 残りは、五名。

「撤退だ! 撤退しろ!」

 残った敵は、逃げ出した。

 紫苑は追わなかった。

「はあ、はあ……」

 紫苑は剣を収めた。

 黒いオーラが消えていく。

 目の色も、元に戻る。

 だが――

 紫苑の体が、ぐらりと揺れた。

「紫苑!」

 山本が駆け寄った。

「大丈夫か!?」

「だ、大丈夫……ちょっと、疲れただけ……」

 紫苑は微笑んだ。

 だが、その顔は青白かった。

 魔剣の100%解放は、体に大きな負担をかける。

「休め。後は、俺たちが何とかする」

「ありがとう……ございます……」

 紫苑は地面に座り込んだ。

 意識が遠のきそうだった。

 でも――

「結衣……会いたい……」

 紫苑は結衣のことを思​​​​​​​​​​​​​​​​った。

 無事だろうか。

 東の防衛線は、大丈夫だろうか。

「早く、会いたい……」

 紫苑は目を閉じた。

 体を休めるために。

 再び、結衣に会うために。


 南の防衛線。

 明日香たちは、ついに重装備部隊を全滅させていた。

 だが――

 代償は大きかった。

 明日香の仲間のうち、四名が戦死していた。

「くそっ……くそおおおっ!」

 明日香は地面を叩いた。

 涙が溢れてきた。

「みんな……ごめん……守れなくて……」

「明日香」

 ヒューゴが近づいてきた。

「君のせいじゃない」

「でも……!」

「戦争には、犠牲がつきものだ。悲しいが、それが現実だ」

 ヒューゴは明日香の肩を叩いた。

「だが、君たちは勝った。彼らの死を無駄にしないためにも、生き残った者は前を向かねばならない」

「……はい」

 明日香は涙を拭った。

「泣いてる場合じゃないですね」

「そうだ。さあ、アジトに戻ろう」

 明日香たちは、アジトに向かって歩き出した。

 疲弊した体を引きずりながら。


 アジトの医務室。

 結衣は、怪我の治療を受けていた。

「痛っ!」

「我慢して」

 医療班の看護師が、結衣の腕の傷に消毒液を塗った。

「でも、よく頑張ったわね。東の防衛線を守り切るなんて」

「みんなのおかげです……」

 結衣は疲労困憊だった。

 だが――

 紫苑のことが心配で、じっとしていられなかった。

「すみません、紫苑は戻ってきましたか?」

「ああ、北の防衛線の人たちは、さっき戻ってきたわよ」

「紫苑は!?」

「確か、隣の部屋にいるはずよ」

 結衣は立ち上がった。

「あ、ちょっと! まだ治療が終わって……」

 だが、結衣は聞かずに部屋を飛び出した。

 隣の部屋に駆け込む。

 そこには――

 紫苑が、ベッドに横たわっていた。

「紫苑!」

 結衣は紫苑に駆け寄った。

「大丈夫!? 怪我は!?」

「結衣……」

 紫苑は目を開けた。

 そして、微笑んだ。

「無事だったんだ……良かった……」

「紫苑……!」

 結衣は紫苑に抱きついた。

「心配したんだから! 連絡もなくて!」

「ごめん……」

 紫苑は結衣を抱きしめた。

「でも、会えて良かった」

「うん……私も……」

 二人は抱き合ったまま、しばらく動かなかった。

 お互いの温もりを確かめ合った。

 生きている。

 二人とも、生きている。

 それだけで、十分だった。

「結衣」

「ん?」

「約束、守ったよ」

 紫苑は微笑んだ。

「生き残るって約束」

「うん……ありがとう」

 結衣も微笑んだ。

「私も、守った」

「うん」

 二人は唇を重ねた。

 優しいキス。

 生きている実感。

 愛している実感。

 全てが、このキスに込められていた。

「これから、どうなるんだろうね」

 結衣が聞いた。

「わからない」

 紫苑が答えた。

「でも、一緒なら、何とかなる」

「うん」

 二人は手を繋いだ。

 これからも、一緒に。

 どんな困難が待っていても。

 二人なら、乗り越えられる。

 そう信じていた。


 その夜。

 解放戦線の全員が、食堂に集まった。

 戦死者は、十二名。

 重傷者は、十五名。

 軽傷者は、残り全員。

 辛い結果だった。

 だが――

「我々は、勝った」

 冴子が立ち上がった。

「政府軍の掃討作戦を、撃退した」

「これは、大きな勝利だ」

 冴子は全員を見回した。

「だが、これで終わりじゃない」

「政府は、必ずまた来る。もっと大規模な部隊で」

「我々は、戦い続けなければならない」

 全員が沈黙した。

 重い空気。

「だが」

 冴子は微笑んだ。

「我々には、希望がある」

 冴子は結衣と紫苑を見た。

「君たちのような、若く、強い覚醒者たちがいる」

「君たちが、未来を作る」

「だから、諦めるな。戦い続けろ」

 冴子の言葉に、全員が頷いた。

「では、戦死者に黙祷を」

 全員が立ち上がり、黙祷を捧げた。

 仲間たちの冥福を祈って。

 そして――

「乾杯!」

 冴子がグラスを掲げた。

「生きている者たちの、健康を祝って!」

「乾杯!」

 全員がグラスを掲げた。

 笑顔が戻ってきた。

 生きている喜び。

 仲間と共にいる幸せ。

 それを、噛み締めた。

 結衣と紫苑も、グラスを合わせた。

「乾杯」

「乾杯」

 二人は微笑み合った。

 これからも、一緒に。

 戦い続ける。

 自由のために。

 愛のために。


 その夜、部屋に戻った結衣と紫苑。

 明日香は、別の部屋で寝ていた。

 重傷者の看病をするために。

 二人きりになった。

「疲れたね」

 結衣がベッドに座った。

「うん……」

 紫苑も隣に座った。

「でも、生きてる」

「うん」

 二人は手を繋いだ。

「ねえ、結衣」

「ん?」

「私、決めたんだ」

 紫苑は結衣を見た。

「もう、堕天者の力を恐れない」

「え?」

「今日、戦ってて思ったの。この力は、呪いじゃない」

 紫苑は拳を握った。

「使い方次第で、仲間を守る力になる」

「紫苑……」

「だから、もっと強くなる。この力を、完全にコントロールできるまで」

 紫苑は決意に満ちた目をしていた。

 結衣は微笑んだ。

「私も、一緒に強くなる」

「結衣……」

「紫苑を支えるために。仲間を守るために」

 結衣は紫苑の手を握った。

「一緒に、頑張ろう」

「うん」

 二人は抱き合った。

 そして――

 自然と、唇が重なった。

 優しいキス。

 やがて、深くなっていく。

「結衣……」

「紫苑……」

 二人は服を脱ぎ始めた。

 今夜も、愛し合いたい。

 お互いを確かめ合いたい。

 生きている実感を。

「んっ……」

 結衣の手が、紫苑の体を撫でる。

「気持ちいい……?」

「うん……すごく……」

 紫苑の体が震える。

「もっと……触って……」

「うん……」

 結衣は紫苑の体を、丁寧に愛撫した。

 胸。

 お腹。

 太もも。

 全身を。

「あっ、あぁ……結衣……」

 紫苑の声が、部屋に響く。

「好き……愛してる……」

「私も……愛してる……」

 二人は、朝まで愛し合った。

 お互いの体を。

 お互いの心を。

 全てを。

 確かめ合った。

 明日が来ても。

 また戦いが来ても。

 二人は一緒だから。

 大丈夫。

 そう信じて。

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