第13話
任務から一週間が経った。
救出された覚醒者たちは、徐々に回復していた。
アジトには、新たに十五人の仲間が加わった。
解放戦線は、着実に勢力を拡大していた。
だが――
結衣には、変化が起きていた。
「結衣、大丈夫?」
訓練場で、明日香が心配そうに声をかけてきた。
「うん、平気」
結衣は短く答えた。
だが、明日香の表情は曇ったままだった。
「最近、元気ないよ。何かあった?」
「何もないよ」
結衣は視線を逸らした。
実際には――
異変を感じていた。
感情が、薄れている。
喜びも、悲しみも、怒りも。
全てが、ぼんやりしている。
まるで、霧がかかったように。
これが、闇魔法の副作用なのか。
「結衣」
紫苑が訓練場に入ってきた。
「一緒に訓練しよう」
「うん」
結衣は立ち上がった。
二人は向かい合った。
「じゃあ、始めるよ」
紫苑が剣を構えた。
結衣は魔法を準備する。
「ファイアボルト」
火球が放たれる。
紫苑は剣で弾いた。
「もっと本気で来て」
「わかった」
結衣は連続で魔法を放った。
ファイアボルト。
サンダーボルト。
ウィンドカッター。
だが、全て紫苑に避けられた。
「結衣、集中して」
紫苑が言った。
「魔法の精度が落ちてる」
「……ごめん」
結衣は謝った。
紫苑は訓練を中断し、結衣に近づいた。
「結衣、何かおかしい」
「え?」
「最近、様子が変だよ。表情も乏しいし、口数も減った」
紫苑は結衣の両肩を掴んだ。
「正直に話して。何があったの?」
結衣は迷った。
話すべきか。
話さざるべきか。
だが――
紫苑の目を見て、決めた。
「……闇魔法の副作用だと思う」
「副作用?」
「うん。冴子さんが言ってた通り、感情が薄れてきてる」
結衣は俯いた。
「嬉しいことがあっても、心から喜べない。悲しいことがあっても、涙が出ない」
「結衣……」
「このままじゃ、本当に自我を失うかもしれない」
結衣の声が震えた。
「怖いんだ……自分が、自分じゃなくなるのが……」
紫苑は結衣を抱きしめた。
「大丈夫。私が、結衣を守る」
「でも……」
「結衣を失うなんて、絶対に許さない」
紫苑は結衣の顔を両手で包んだ。
「一緒に、解決策を探そう。闇魔法を使わない方法を」
「でも、闇魔法なしじゃ、私……」
「大丈夫。結衣には、他の魔法もある。十分強いよ」
紫苑は優しく微笑んだ。
「闇魔法に頼らなくても、結衣は結衣」
その言葉に、結衣は救われた気がした。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
二人は抱き合った。
だが、結衣の心の奥底には――
まだ不安が残っていた。
本当に、闇魔法なしで戦えるのか。
本当に、元に戻れるのか。
その日の午後。
結衣は冴子に呼ばれた。
「結衣、少し話がある」
冴子の部屋に入ると、そこには見知らぬ老人がいた。
七十代くらい。
白い髭。
穏やかな目。
だが、その体からは凄まじい魔力が感じられた。
『鑑定』
『名前:賢者ヒューゴ――レベル60――職業:大賢者』
レベル60!?
結衣は驚愕した。
こんな高レベルの人がいるなんて。
「初めまして、結衣さん」
老人――ヒューゴが微笑んだ。
「私は、賢者ヒューゴ。冴子君の師匠だ」
「師匠……」
「ええ。私は、闇魔法の専門家でもある」
ヒューゴは結衣の左手を見た。
呪いの指輪がはまっている手。
「その指輪……呪いの指輪だね」
「はい……」
「それが、君を闇魔法使いにしたのか」
「そうです……でも、今は副作用に苦しんでいます」
結衣は正直に話した。
感情が薄れていること。
自我を失う恐怖。
ヒューゴは静かに聞いていた。
そして――
「指輪を外しなさい」
「え?」
「その指輪が、君の心を蝕んでいる。外せば、元に戻る」
「でも……外したら、闇魔法が使えなくなります」
「それでいいじゃないか」
ヒューゴは優しく言った。
「闇魔法は、強力だが危険だ。君のような若い魔法使いが、扱うべきものではない」
「でも、闇魔法がないと、私は……」
「弱くなる? そんなことはない」
ヒューゴは立ち上がった。
「君には、他にも才能がある。それを伸ばせばいい」
「他の才能……?」
「ああ。君の魔力は、本来『光属性』に適している」
「光属性?」
「そう。闇とは対極の力。治癒、浄化、防御に優れた属性だ」
ヒューゴは結衣の額に手を当てた。
温かい光が、結衣を包んだ。
「感じるかい? 君の魔力の本質を」
結衣は目を閉じた。
体の中に――
温かい光が感じられる。
確かに、闇とは違う。
優しくて、温かい力。
「これが……私の本来の力……?」
「そうだ。君は本来、光の魔法使いなのだ」
ヒューゴは手を離した。
「だが、呪いの指輪が、その力を封じている」
「じゃあ、指輪を外せば……」
「ああ。君は光の魔法を使えるようになる。そして、心も元に戻る」
結衣は迷った。
闇魔法を失う。
それは、強力な武器を失うことだ。
でも――
自分を取り戻せる。
感情を取り戻せる。
紫苑を、心から愛せる。
「……外します」
結衣は決意した。
「お願いします。この指輪を外してください」
「よろしい」
ヒューゴは結衣の左手を取った。
そして――
呪文を唱えた。
「呪縛を解け――【解呪(ディスペルカース)】」
光が、指輪を包んだ。
指輪が、スルリと外れた。
「あっ……」
結衣の体から、黒いオーラが抜けていった。
代わりに――
白い光が溢れ出した。
「これは……!」
温かい。
優しい。
まるで、春の日差しのような感覚。
『呪いの指輪を外しました――闇魔法スキルを失いました――新スキル習得:光魔法 Lv.1』
ステータスが変化した。
『INT:44→34』
INTが10下がった。
呪いの指輪の+20が消えたからだ。
だが――
『新ステータス獲得:HOLY(神聖):20』
新しいステータスが追加された。
「神聖ステータス……」
「それが、君の本質だ」
ヒューゴは微笑んだ。
「さあ、試してみなさい。光魔法を」
結衣は魔力を集中させた。
イメージするのは――
光。
温かい光。
「光よ、我が手に宿れ――【光の矢(ライトアロー)】!」
結衣の手から、光の矢が放たれた。
それは壁に当たり――
まばゆい光を放った。
「すごい……!」
結衣は感動した。
闇魔法とは違う。
こちらの方が、自分に合っている気がする。
そして――
感情が戻ってきた。
嬉しい。
すごく嬉しい。
涙が溢れてきた。
「泣けるんだ……私、また泣けるんだ……!」
結衣は涙を流しながら、笑った。
感情が戻ってきた。
自分が、自分に戻ってきた。
「良かった……本当に、良かった……」
冴子が結衣の肩を抱いた。
「おめでとう、結衣。君は、自分を取り戻した」
「ありがとうございます……冴子さん、ヒューゴさん……」
結衣は深く頭を下げた。
「いいんだ。君のような才能ある若者を、闇に沈ませるわけにはいかない」
ヒューゴは優しく微笑んだ。
「さあ、行きなさい。君を待っている人がいるだろう」
「はい!」
結衣は部屋を飛び出した。
紫苑に会いたい。
早く、紫苑に会いたい。
この嬉しさを、伝えたい。
結衣は訓練場に走った。
紫苑がそこにいた。
一人で、素振りをしていた。
「紫苑!」
結衣が叫んだ。
紫苑が振り向いた。
「結衣? どうしたの、そんなに慌てて……」
結衣は紫苑に抱きついた。
「戻ってきたの! 私、戻ってきた!」
「え?」
「感情が! 感情が戻ってきたの!」
結衣は涙を流しながら、笑った。
「嬉しいの! すごく嬉しいの! 紫苑に会えて、嬉しいの!」
紫苑は一瞬、呆然とした。
そして――
理解した。
「結衣……良かった……!」
紫苑も涙を流した。
「本当に、良かった……!」
二人は抱き合った。
涙を流しながら。
「紫苑、大好き! 愛してる!」
「私も! 私も愛してる!」
二人は唇を重ねた。
深いキス。
魂が溶け合うようなキス。
周囲の訓練生たちが、拍手をした。
「おお、いいぞ!」
「お似合いだ!」
「幸せそうでいいね!」
結衣は恥ずかしくなったが――
でも、嬉しかった。
こんな風に感情を感じられることが。
こんな風に幸せを実感できることが。
「ありがとう、紫苑」
「どういたしまして」
二人は笑い合った。
その夜。
結衣、紫苑、明日香の三人は、部屋でくつろいでいた。
「結衣、本当に良かったね」
明日香が言った。
「最近、元気なかったから心配してたんだ」
「ごめん、心配かけて」
「いいよいいよ。元気になったんだから」
明日香は笑った。
「それに、光魔法使いになったんでしょ? すごいじゃん」
「うん。これから練習しないと」
「頑張ってね」
明日香は欠伸をした。
「じゃ、私もう寝るわ。おやすみ」
「おやすみ」
明日香はすぐに寝息を立て始めた。
結衣と紫苑は、二人きりになった。
「結衣」
「ん?」
「今日は、本当に良かった」
紫苑は結衣の手を握った。
「結衣を失うかもしれないって思って……すごく怖かった」
「ごめん……心配かけて」
「謝らないで。結衣は、頑張ったんだから」
紫苑は結衣を抱きしめた。
「これからも、一緒だよ」
「うん。ずっと一緒」
二人は唇を重ねた。
優しいキス。
だが、徐々に深くなっていく。
「結衣……」
「紫苑……」
二人はベッドに倒れ込んだ。
「明日香、起きない?」
「大丈夫。爆睡してる」
二人は服を脱ぎ始めた。
「久しぶりだね……こうするの」
「うん……闇魔法の副作用で、あんまり気分じゃなかったから」
「でも、今は?」
「今は……すごくしたい」
結衣は紫苑を押し倒した。
「私から、攻めてもいい?」
「もちろん」
結衣は紫苑の体を愛撫し始めた。
首筋にキスをする。
鎖骨を舐める。
胸に手を這わせる。
「んっ……結衣……」
紫苑の声が漏れる。
「気持ちいい?」
「うん……すごく……」
結衣は徐々に下に降りていった。
お腹にキスをする。
太ももを撫でる。
そして――
最も敏感な場所に、舌を這わせた。
「あっ! 結衣……!」
紫苑の体が跳ねた。
「ダメ、そんなに激しくしたら……」
「いいよ。たくさん感じて」
結衣の舌が、巧みに動く。
紫苑は必死に声を抑えようとしたが――
無理だった。
「あっ、あぁ、結衣……! もう、ダメ……!」
紫苑の体が激しく震えた。
絶頂に達した。
「はあ、はあ……」
紫苑は荒い息をついた。
「結衣……すごかった……」
「紫苑が可愛かったから」
結衣は紫苑の隣に横になった。
紫苑は結衣を抱きしめた。
「今度は、私の番」
「え?」
紫苑が結衣を押し倒した。
「ちゃんと、お返しするから」
「紫苑……」
紫苑の手が、結衣の体を這った。
胸を揉む。
乳首を転がす。
「あっ……」
結衣の声が漏れる。
「結衣、感じやすくなってる?」
「わかんない……でも、すごく気持ちいい……」
「じゃあ、もっと……」
紫苑の指が、結衣の中に入った。
「ひゃあっ!」
結衣の腰が浮いた。
「んっ、あっ、紫苑……!」
紫苑の指が、巧みに動く。
結衣の中を、くすぐるように。
「あ、ダメ、そこ……!」
「ここが好きなんだ」
「やっ、あぁ……!」
結衣の体が痙攣した。
絶頂に達した。
「はあ、はあ……」
結衣は真っ赤な顔で、紫苑を見た。
「紫苑……ずるい……」
「ふふ、ごめん。でも、結衣の顔、すごく可愛かったよ」
「もう……」
二人は抱き合った。
汗ばんだ体を重ね合わせた。
「愛してる、結衣」
「私も、愛してる、紫苑」
二人は深くキスを交わした。
そして――
そのまま眠りに落ちた。
幸せな夢を見ながら。
翌朝。
結衣は爽やかな気分で目覚めた。
隣で、紫苑が寝息を立てている。
可愛い寝顔。
結衣は思わず、頬にキスをした。
「んー……」
紫苑が目を覚ました。
「おはよう、結衣」
「おはよう」
二人は笑い合った。
「今日も、訓練?」
「うん。光魔法の練習をしないと」
「私も手伝うよ」
「ありがとう」
二人は着替えて、食堂に向かった。
食堂では、冴子が待っていた。
「おはよう、二人とも」
「おはようございます」
「今日は、特別な訓練をする」
冴子は真剣な顔になった。
「実は、政府が動き出した」
「動き出した?」
「ええ。解放戦線の壊滅作戦を開始したらしい」
冴子は資料を見せた。
「三日後、大規模な掃討作戦が実施される」
「三日後……!」
「ああ。それまでに、全員の戦闘力を最大限に引き上げないといけない」
冴子は全員を見回した。
「今日から三日間は、地獄の特訓だ。覚悟しておけ」
全員が緊張した表情になった。
結衣も、拳を握りしめた。
「やるしかない……」
紫苑が結衣の手を握った。
「一緒に、乗り越えよう」
「うん」
二人は手を繋いで、訓練場に向かった。
三日後――
解放戦線と政府の、決戦が始まる。
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