第12話




 ダンジョン攻略から帰還した夜。

 結衣は一人、アジトの屋上にいた。

 満月が、空に浮かんでいる。

 冷たい夜風が、結衣の髪を揺らした。

「はあ……」

 深いため息が出た。

 今日のダンジョンで、結衣は改めて自分の力を実感した。

 レベル30。

 多くの魔法。

 時間停止という、切り札。

 強くなった。

 でも――

「これでいいのかな……」

 結衣は自問した。

 力を求めて、強くなって。

 その先に、何がある?

 政府との戦い?

 永遠の逃避行?

 平和な日常は、もう戻ってこないのか?

「結衣」

 背後から、声がした。

 振り返ると――

 紫苑が立っていた。

 月光を浴びて、金色の髪が輝いている。

「探したよ。こんなところにいたんだ」

「紫苑……」

「一人で、何考えてたの?」

 紫苑が隣に来た。

 結衣の隣に座った。

「色々……」

「色々?」

「うん……私たち、これからどうなるのかなって」

 結衣は月を見上げた。

「ずっと逃げ続けるの? ずっと戦い続けるの?」

「……わからない」

 紫苑も正直に答えた。

「でも、立ち止まることはできない。立ち止まったら、捕まる」

「そうだよね……」

 沈黙。

 風の音だけが、聞こえる。

「ねえ、結衣」

 紫苑が口を開いた。

「もし、私がいなかったら……結衣は、どうしてた?」

「え?」

「私のせいで、結衣は管理局を逃げ出した。私のせいで、結衣は指名手配された」

 紫苑の声が震えた。

「もし、私と出会わなければ……結衣は、普通の人生を送れたのに……」

「紫苑……」

「ごめん……本当に、ごめん……」

 紫苑の目から、涙が溢れた。

「私、結衣を不幸にしてる……」

 結衣は紫苑を抱きしめた。

「違うよ」

「え……?」

「紫苑は、私を不幸になんてしてない」

 結衣は紫苑の目を見た。

「紫苑と出会って、私の人生は変わった。それは確かだよ」

 結衣は微笑んだ。

「でも、それは悪い変化じゃない」

「でも……」

「紫苑と出会う前の私は、何もない人生だった。勉強して、大学行って、就職して……それだけ」

 結衣は紫苑の頬に触れた。

「でも、今は違う。毎日が刺激的で、ドキドキして、生きてるって実感できる」

「結衣……」

「それに――」

 結衣は紫苑にキスをした。

「紫苑と一緒にいられる。それが、何より幸せ」

 紫苑は涙を流しながら、笑った。

「ありがとう……結衣……」

「こちらこそ、ありがとう。私を選んでくれて」

 二人は抱き合った。

 月明かりの下で。

 誰にも邪魔されずに。

 ただ、二人だけの時間。

「結衣、愛してる」

「私も、愛してる」

 二人は深くキスを交わした。

 舌を絡め合い、唾液を交換する。

「んっ……」

 結衣の体が熱くなってきた。

 紫苑の手が、結衣の服の中に入ってくる。

「ここで……?」

「ダメ?」

「誰か来るかも……」

「大丈夫。みんな、もう寝てる」

 紫苑は結衣を押し倒した。

 屋上の床に。

「紫苑……」

「我慢できない。今すぐ、結衣が欲しい」

 紫苑の目が、欲望に染まっていた。

 結衣も同じだった。

「……いいよ。私も、紫苑が欲しい」

 二人は服を脱ぎ始めた。

 月明かりの下で、裸になった。

「綺麗……」

 紫苑が結衣の体を見つめた。

「紫苑も……」

 結衣も紫苑の体を見つめた。

 白い肌。

 整った体型。

 美しい。

「触ってもいい?」

「うん……」

 紫苑の手が、結衣の胸に触れた。

 柔らかい。

「んっ……」

 結衣が声を漏らした。

「感じてる?」

「うん……すごく……」

 紫苑は結衣の乳首を指で転がした。

 結衣の体が震える。

「あっ、あぁ……」

「可愛い声」

 紫苑は結衣の首筋にキスをした。

 鎖骨。

 胸。

 お腹。

 徐々に下に降りていく。

「ちょ、ちょっと……そこは……」

「いいじゃん。結衣の全部が欲しいの」

 紫苑の舌が、結衣の最も敏感な場所に触れた。

「ひゃあっ!」

 結衣の腰が跳ねた。

 快感が全身を駆け巡る。

「あっ、ダメ、そんなに激しくしたら……」

「いいよ。声、出して」

 紫苑の舌が、巧みに動く。

 結衣は必死に声を抑えようとしたが――

 無理だった。

「あっ、ああっ、紫苑っ……!」

 結衣の体が痙攣した。

 絶頂に達した。

「はあ、はあ……」

 結衣は荒い息をついた。

「すごかった……」

 紫苑が微笑んだ。

「今度は、私の番」

 結衣は紫苑を押し倒した。

「ちゃんと、お返しするから」

「結衣……」

 結衣は紫苑の体を愛撫した。

 丁寧に。

 時間をかけて。

 紫苑の反応を確かめながら。

「んっ、あっ……結衣……上手……」

「紫苑が、教えてくれたから」

 結衣の指が、紫苑の中に入った。

「あああっ!」

 紫苑の声が、夜空に響いた。

 結衣は動かし続けた。

 紫苑の表情を見ながら。

「もっと、感じて」

「あっ、もう、無理……っ!」

 紫苑の体が激しく震えた。

 そして――

 力が抜けた。

「はあ、はあ……結衣……最高だった……」

「紫苑も」

 二人は裸のまま抱き合った。

 汗ばんだ体を重ね合わせた。

「寒くない?」

「紫苑がいれば、温かい」

「私も」

 二人はしばらく、そのままでいた。

 星空を見上げながら。

 幸せな時間。

 永遠に続けばいいのに。


 翌朝。

 結衣は体のあちこちが痛かった。

 屋上の硬い床で寝たせいだ。

「いたた……」

 起き上がると、紫苑も同じように体を伸ばしていた。

「おはよう、結衣」

「おはよう……って、私たち、このまま寝ちゃったんだ……」

「うん。気持ちよくて、そのまま……」

 二人は顔を見合わせて笑った。

 服を着て、部屋に戻る。

 明日香はまだ寝ていた。

「明日香、起きて」

「んー……あと五分……」

「朝ごはんの時間だよ」

「……わかった」

 明日香はのそのそと起き上がった。

 そして――

 二人を見て、ニヤリと笑った。

「二人とも、昨夜は楽しかった?」

「え!?」

 結衣の顔が真っ赤になった。

「な、何のこと……?」

「とぼけないでよ。屋上から声、聞こえてたもん」

「うそ!?」

「冗談冗談。でも、朝帰りってことは、そういうことでしょ?」

 明日香はクスクス笑った。

「ま、いいけどね。お似合いだし」

 結衣は恥ずかしさで顔が真っ赤になった。

 紫苑は堂々としていた。

「そうだよ。結衣は私のもの」

「紫苑っ!」

「何? 事実でしょ?」

「そうだけど……」

 結衣は恥ずかしさと嬉しさが混ざった複雑な気持ちだった。

 三人は食堂に向かった。


 食堂では、冴子が待っていた。

「おはよう、三人とも」

「おはようございます」

「今日は、特別な任務がある」

 冴子は真剣な顔になった。

「政府の輸送車を襲撃する」

「襲撃……?」

「ええ。その輸送車には、違法に拘束された覚醒者たちが乗せられている」

 冴子は資料を見せた。

「彼らを救出するのが、今回の任務よ」

 資料には、拘束されている覚醒者のリストが載っていた。

 十五名。

 全員、若い覚醒者たち。

「この子たち……」

 結衣は胸が痛んだ。

 皆、結衣たちと同じように、政府に追われているのだろう。

「任務には、私と結衣、紫苑、明日香、それから山本が参加する」

「五人で?」

「ええ。少数精鋭でいく。人数が多いと、目立つから」

「わかりました」

 結衣は頷いた。

「いつ出発ですか?」

「今日の午後。輸送車は、夕方にこの近くを通過する予定」

 冴子は地図を広げた。

「ここで待ち伏せして、襲撃する。私が運転手を無力化する。紫苑と山本が護衛を倒す。結衣と明日香が覚醒者たちを救出する」

「了解です」

 全員が役割を確認した。

「じゃあ、準備を整えて。午後二時に出発する」

 冴子の言葉に、全員が頷いた。

 結衣は部屋に戻り、装備を整えた。

 闇の魔導ローブ。

 短剣。

 回復ポーション。

 それから――

 呪いの指輪。

 結衣は指輪を見つめた。

 この指輪のおかげで、闇魔法が使えるようになった。

 でも、代償もある。

 HP自然回復が半減。

 そして――

 使えば使うほど、心が闇に染まっていく気がする。

「大丈夫かな……」

 不安が過ぎった。

 でも、今は考えている場合じゃない。

 任務に集中しないと。

「結衣、準備できた?」

 紫苑が部屋に入ってきた。

「うん、もう大丈夫」

「じゃあ、行こう」

 二人は手を繋いで、集合場所に向かった。


 午後二時。

 五人は車に乗り込んだ。

 冴子が運転する黒いバン。

「目標地点まで、三十分」

 冴子が言った。

 車は山道を進んでいく。

 結衣は窓の外を見た。

 緑豊かな山々。

 平和な風景。

 でも、これから戦いが始まる。

「緊張してる?」

 隣で、紫苑が聞いた。

「うん……ちょっと」

「大丈夫。私がいるから」

 紫苑は結衣の手を握った。

「一緒に戦おう」

「うん」

 結衣は紫苑の手を握り返した。

 この人がいれば、どんな困難も乗り越えられる。

 車は目標地点に到着した。

 山道の曲がり角。

 ここで待ち伏せする。

「配置につけ」

 冴子の指示で、全員が散開した。

 冴子は道路の真ん中に。

 山本と紫苑は、道路の両脇に。

 結衣と明日香は、後方で待機。

「来るぞ」

 山本が囁いた。

 遠くから、エンジン音が聞こえる。

 輸送車だ。

 大型のトラック。

 後部には、鉄格子のついた荷台。

 中に、覚醒者たちが閉じ込められているのだろう。

 トラックが近づいてくる。

 冴子が道路の真ん中に立ちはだかった。

 トラックが急ブレーキをかけた。

 キキィィィッ!

「何だ、お前!?」

 運転手が窓から顔を出した。

 だが――

 冴子の姿が消えた。

 次の瞬間、運転席のドアが開き、運転手が引きずり出された。

「ぐっ!?」

 冴子の手刀が、運転手の首筋に叩き込まれた。

 運転手は気絶した。

「護衛が来る!」

 後部座席から、武装した兵士たちが降りてきた。

 五人。

 全員、銃を持っている。

「撃て!」

 銃声が響いた。

 だが、紫苑が割って入った。

「【魔剣解放(ダークブレイド)】!」

 黒い剣が、銃弾を全て弾き飛ばした。

「な、何だこいつ!?」

 兵士たちが驚く。

 その隙に、山本が突進した。

「でやああああっ!」

 山本の斧が、兵士を薙ぎ払った。

 一人、また一人と倒れていく。

「結衣、今だ! 荷台を開けろ!」

 冴子が叫んだ。

「わかった!」

 結衣と明日香が荷台に走り寄った。

 鉄格子には、鍵がかかっている。

「どうやって開ける!?」

「任せて!」

 明日香が拳を振るった。

「【鋼鉄の拳(スチールフィスト)】!」

 明日香の拳が、鍵を粉砕した。

 扉が開いた。

 中には――

 十五人の覚醒者たちが、怯えた顔で座っていた。

「大丈夫、助けに来ました!」

 結衣が叫んだ。

「早く、出てください!」

 覚醒者たちが、ゆっくりと外に出てきた。

 皆、疲弊している。

 長時間、狭い空間に閉じ込められていたのだろう。

「ありがとう……」

 一人の少女が、涙を流しながら言った。

「ありがとう……」

「お礼はいいです。早く、逃げましょう」

 だが――

 その時。

 上空から、轟音が響いた。

 ヘリコプターだ。

 政府の増援が来た。

「くそっ、早い!」

 冴子が舌打ちした。

 ヘリから、ロープが降りてきた。

 そして――

 黒い戦闘服を着た兵士たちが、次々と降下してきた。

 十人。

 いや、二十人。

『鑑定』

『名前:特殊部隊員――レベル30――HP:500/500』

 全員、レベル30!

「まずい……数が多すぎる!」

 結衣は焦った。

 五人対二十人。

 さらに、救出した覚醒者たちは戦えない。

「逃げるぞ!」

 冴子が指示した。

「車に乗れ! 全員!」

 全員が車に向かって走った。

 だが、特殊部隊員たちが銃を構えた。

「撃て!」

 銃声。

 弾丸が飛んでくる。

「【土壁(アースウォール)】!」

 結衣が防御魔法を展開した。

 土の壁が出現し、弾丸を防ぐ。

 その隙に、全員が車に乗り込んだ。

「発進する!」

 冴子がアクセルを踏んだ。

 車が急発進した。

 後ろから、銃声が響く。

 弾丸が車体に当たる。

 ガンガンガン!

「くそっ、追ってくる!」

 山本が後ろを見た。

 ヘリコプターが、車を追ってくる。

「このままじゃ、捕まる!」

「結衣、何とかできない!?」

 冴子が叫んだ。

 結衣は考えた。

 ヘリコプターを落とす方法。

 雷撃?

 いや、距離が遠すぎる。

 闇魔法?

 それなら――

「やってみる!」

 結衣は窓から身を乗り出した。

「危ない!」

 紫苑が結衣を掴んだ。

「大丈夫! 支えてて!」

 結衣は魔力を集中させた。

 呪いの指輪が、熱くなる。

「闇よ、天を覆え――【暗黒の天蓋(ダークドーム)】!」

 巨大な黒い膜が、車の周囲を覆った。

 ヘリコプターの視界が遮られる。

「今だ! 曲がって!」

 冴子が急ハンドルを切った。

 車が脇道に入る。

 暗黒の天蓋が消えた時――

 ヘリコプターは、車を見失っていた。

「やった……!」

 結衣は安堵のため息をついた。

『MP:30/300』

 魔力を大量に消費した。

「よくやった、結衣!」

 冴子が褒めた。

「これで、振り切れた!」

 車は山道を進み続けた。

 そして――

 ようやく、アジトに帰還した。


 アジトに着くと、救出された覚醒者たちは医務室に運ばれた。

 皆、疲労と栄養失調で弱っていた。

「大丈夫かな……」

 結衣は心配そうに医務室を見た。

「大丈夫。ここの医療班は優秀だから」

 冴子が言った。

「それより、今日は本当にお疲れ様。結衣のおかげで、全員無事に帰還できた」

「いえ、皆さんのおかげです……」

「謙遜しないで。あなたの魔法は、本当に強力よ」

 冴子は結衣の肩を叩いた。

「でも、無理はしないでね。闇魔法は、使いすぎると危険だから」

「危険……?」

「ええ。闇魔法は、使用者の心を蝕む。使えば使うほど、感情が希薄になっていく」

 冴子は真剣な顔で言った。

「最終的には、自我を失う。ただの殺戮マシーンになる」

 結衣は背筋が凍った。

「そんな……」

「だから、気をつけて。闇魔法は、最終手段として使うこと」

「……わかりました」

 結衣は頷いた。

 だが、心の奥底で――

 不安が膨らんでいた。

 もう、何度も闇魔法を使っている。

 もしかして、もう手遅れなのでは?

「結衣」

 紫苑が近づいてきた。

「一緒に部屋に戻ろう。今日は疲れたでしょ」

「うん……」

 二人は部屋に戻った。

 明日香はすでに寝ていた。

 結衣はベッドに座った。

 紫苑が隣に座る。

「結衣、大丈夫?」

「うん……ちょっと疲れただけ」

「嘘」

 紫苑は結衣の目を見た。

「何か、悩んでるでしょ」

 結衣は言葉に詰まった。

 紫苑には、何も隠せない。

「……闇魔法のこと」

「ああ……」

「冴子さんが言ってた。闇魔法は、心を蝕むって」

 結衣は俯いた。

「もし、私が自我を失ったら……紫苑を傷つけるかもしれない……」

「大丈夫」

 紫苑は結衣を抱きしめた。

「結衣は、絶対に自我を失わない」

「どうして、そう言えるの?」

「だって、結衣には私がいるから」

 紫苑は結衣の目を見た。

「私が、結衣を繋ぎ止める。どんなに闇に染まっても、私が引き戻す」

「紫苑……」

「私たち、パートナーでしょ? だから、信じて」

 結衣の目から、涙が溢れた。

「ありがとう……紫苑……」

「どういたしまして」

 二人は抱き合った。

 そして、唇を重ねた。

 深く、深く。

 魂が溶け合うようなキス。

「結衣、愛してる」

「私も、愛してる」

 二人はベッドに倒れ込んだ。

 服を脱ぎ始めた。

「明日香、起きない?」

「大丈夫。爆睡してる」

 紫苑が笑った。

「それに、もう隠す必要もないでしょ」

「そうだけど……」

「いいから」

 紫苑は結衣を押し倒した。

 そして――

 二人は、再び愛し合った。

 夜が明けるまで。

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