第10話




 宝箱を開けると――

 中には、大量の金貨と、いくつかのアイテムが入っていた。

「わあ……」

 結衣は目を輝かせた。

 金貨が、千枚はある。

 一枚千円として、百万円分。

「これで、しばらくは生活できる……!」

「よかった……」

 紫苑もほっとした表情を浮かべた。

「他に、何が入ってる?」

 明日香が宝箱を覗き込んだ。

 中には、スキルブックが三冊と、装備品が数点。

「スキルブック……!」

 結衣が一冊手に取った。

『スキルブック:上級闇魔法――死者蘇生』

「死者蘇生……!?」

「それ、すごいスキルじゃない?」

 明日香が興奮した。

「死んだ人を、生き返らせる魔法!?」

「で、でも……使っていいのかな……」

 結衣は躊躇した。

 死者を蘇らせる。

 それは、神の領域ではないのか。

「使いなよ」

 紫苑が言った。

「いつか、必要になる時が来るかもしれない」

「……うん」

 結衣はスキルブックを使った。

『新スキル習得:死者蘇生 Lv.1――死後24時間以内の対象を蘇生可能――消費MP:全MP――成功率:30%』

 成功率30%。

 低い。

 でも、ないよりはマシだ。

「他のスキルブックは?」

 紫苑が手に取った。

『スキルブック:魔剣強化』

「これ、私に合ってる」

 紫苑も使用した。

『新スキル習得:魔剣強化 Lv.1――魔剣の攻撃力+50%――持続時間:10分』

「いいね、強化系のスキル」

 最後の一冊は、明日香が手に取った。

『スキルブック:鋼鉄の拳』

「おお、これも私向きだ」

『新スキル習得:鋼鉄の拳 Lv.1――拳の硬度+100%――攻撃力+50』

「これで、もっと強くなれる!」

 三人は満足そうだった。

 装備品も、それぞれに合ったものを装備した。

 結衣は、魔法使い用のローブ。

『闇の魔導ローブ――INT+10、MP+50、闇魔法威力+20%』

 紫苑は、剣士用の鎧。

『魔剣使いの鎧――STR+15、VIT+15、魔剣の制御+10%』

 明日香は、格闘家用のグローブ。

『闘士のグローブ――STR+10、AGI+10、クリティカル率+5%』

「これで、準備万端だね」

「うん。じゃあ、ダンジョンを出よう」

 三人は出口へと向かった。


 ダンジョンから出ると、外はすでに夕方だった。

「ずいぶん時間かかったね……」

 結衣は空を見上げた。

 オレンジ色の空。

「お疲れ様」

 警備員が近づいてきた。

「報酬を受け取ってください」

 警備員は封筒を三つ、手渡した。

 中には、それぞれ十万円ずつ入っていた。

「ありがとうございます」

 三人は礼を言った。

「それと――」

 警備員は真剣な顔になった。

「あなたたち、政府に追われているでしょう」

「!」

 三人は警戒した。

「ど、どうして……」

「ニュースで見ましたよ。『堕天者管理局から脱走した三名の覚醒者』って」

 警備員はスマートフォンを見せた。

 画面には、結衣、紫苑、明日香の顔写真が映っていた。

『指名手配:堕天者三名――発見次第、通報してください』

「やばい……」

 結衣は青ざめた。

「でも、安心してください」

 警備員は微笑んだ。

「私は、通報しません」

「え……?」

「私も、政府のやり方には反対なんです。覚醒者を道具のように扱うなんて」

 警備員は封筒をもう一つ渡した。

「これ、偽造身分証です。これがあれば、しばらくは逃げられます」

「どうして、こんなことを……」

「私の娘も、覚醒者なんです。もし娘が、あなたたちのような状況になったら……誰かに助けてほしいと思って」

 警備員は優しく笑った。

「頑張ってください。応援してます」

「ありがとうございます……!」

 三人は深く頭を下げた。

「では、気をつけて」

 警備員は去っていった。

 三人は偽造身分証を確認した。

 名前も、生年月日も、全て偽物。

 でも、これがあれば、ホテルにも泊まれる。

「助かった……」

「本当に……」

「じゃあ、今夜はホテルに泊まろう。久しぶりのベッドだ」

 三人は近くのビジネスホテルに向かった。


 ホテルの部屋は、ツインルームだった。

 ベッドが二つ。

「どう寝る?」

 明日香が聞いた。

「私、一人で平気だよ」

「じゃあ、私と結衣が一緒に寝る」

 紫苑が当然のように言った。

「え、あ、うん……」

 結衣は顔を赤くした。

 明日香は二人を見て、ニヤニヤ笑った。

「二人とも、仲いいね」

「そ、そんなことないよ!」

「嘘つけ。絶対付き合ってるでしょ」

「え!?」

 結衣は驚いた。

 バレてる?

「まあ、いいけどね。お似合いだし」

 明日香は笑った。

「私は応援してるから」

「あ、ありがとう……」

 結衣は恥ずかしさで顔が真っ赤になった。

 三人はシャワーを浴び、夕食を取った。

 コンビニで買った弁当だが、久しぶりのまともな食事だった。

「ふう、満腹……」

 明日香はベッドに寝転がった。

「私、もう寝るわ。疲れた」

「おやすみ」

「おやすみ」

 明日香はすぐに眠りについた。

 結衣と紫苑は、もう一つのベッドに入った。

 部屋の電気を消す。

 暗闇の中、二人は抱き合った。

「結衣……」

「ん?」

「今日、ありがとう。結衣のおかげで、勝てた」

「ううん、紫苑も頑張ったよ」

「でも、結衣の魔法がなかったら……私たち、死んでたかも」

 紫苑は結衣を強く抱きしめた。

「怖かった​​​​​​​​​​​​​​​​……結衣が倒れた時……」

「紫苑……」

「もう、失いたくない。結衣を」

 紫苑の声が震えていた。

 結衣は紫苑の頬に手を添えた。

「大丈夫。私、そう簡単には死なないから」

「約束して」

「約束する」

 二人は唇を重ねた。

 優しいキス。

 だが、徐々に深くなっていく。

「んっ……」

 紫苑の舌が、結衣の口内に入ってくる。

 結衣も応じる。

 二人の舌が絡み合う。

「結衣……触ってもいい?」

「うん……」

 紫苑の手が、結衣のパジャマの中に入った。

 柔らかい肌を撫でる。

「あっ……」

 結衣の体が震えた。

 敏感なところに触れられている。

「ここ、好きでしょ?」

「う、うん……」

「じゃあ、もっと……」

 紫苑の指が、巧みに動く。

 結衣は必死に声を抑えた。

 明日香が隣で寝ている。

 起こすわけにはいかない。

 でも――

「あ、んっ……紫苑……」

 快感が押し寄せてくる。

 我慢できない。

「いい、声出して。私しか聞いてないから」

 紫苑が耳元で囁いた。

 その言葉に、結衣の理性が崩れた。

「あっ、ああっ……紫苑……!」

 結衣の体が痙攣した。

 絶頂に達した。

「はあ、はあ……」

 結衣は荒い息をついた。

「すごく、可愛かったよ」

 紫苑が微笑んだ。

「今度は、私の番」

 結衣は紫苑を押し倒した。

「ちゃんと、お返しするから」

「結衣……」

 結衣の唇が、紫苑の体を這った。

 首筋。

 鎖骨。

 胸。

「んっ……あっ……」

 紫苑の声が、部屋に響く。

 結衣は丁寧に、紫苑の体を愛撫した。

 全身を。

 隅々まで。

「結衣……もう、限界……」

「まだダメ。もっと感じて」

 結衣の指が、紫苑の最も敏感な場所に触れた。

「あっ、ああああっ!」

 紫苑の体が激しく震えた。

 そして――

 力が抜けた。

「はあ、はあ……」

 紫苑は満足そうに微笑んだ。

「結衣……最高だった……」

「紫苑も」

 二人は抱き合った。

 汗ばんだ体を重ね合わせた。

「愛してる、結衣」

「私も、愛してる、紫苑」

 二人は深く口づけを交わし――

 やがて、眠りに落ちた。

 幸せな夢を見ながら。


 翌朝。

 三人は早めに起きて、ホテルをチェックアウトした。

「次、どこ行く?」

 明日香が聞いた。

「うーん……」

 結衣は地図を確認した。

「とりあえず、東京から離れよう。西の方に向かおうか」

「大阪?」

「そうだね。大阪なら、人も多いし、紛れやすい」

 三人は駅に向かった。

 新幹線のチケットを買おうとしたが――

「身分証明書を提示してください」

 窓口の係員が言った。

「あ、はい……」

 結衣は偽造身分証を出した。

 係員はしばらくそれを見てから――

「少々お待ちください」

 奥に引っ込んでしまった。

「やばい……」

 結衣は冷や汗をかいた。

 バレた?

「逃げよう」

 紫苑が小声で言った。

「今のうちに」

 三人は駅から離れようとした。

 だが――

「そこの三人、動くな!」

 背後から、声がした。

 振り返ると――

 警官が五人、拳銃を構えていた。

「手を上げろ! お前たちを、堕天者脱走の容疑で逮捕する!」

「くそっ……!」

 紫苑が剣を抜こうとした。

 だが、結衣が止めた。

「ダメ! ここで戦ったら、一般人が巻き込まれる!」

 駅には、大勢の人がいる。

 戦えば、確実に犠牲者が出る。

「じゃあ、どうするの!?」

「……逃げる」

 結衣は魔法を唱えた。

「闇よ、我らを包め――【暗黒の霧(ダークミスト)】!」

 黒い霧が、辺り一面に広がった。

 視界がゼロになる。

「今だ、走って!」

 三人は闇の中を走った。

 警官たちの怒号が背後から聞こえる。

 だが、霧で見えない。

 三人は駅から脱出し、路地裏に逃げ込んだ。

「はあ、はあ……」

 息が上がる。

「新幹線は無理だね……」

「じゃあ、どうやって移動する?」

「車を盗む?」

「ダメだよ、それは犯罪!」

「でも、もう犯罪者扱いされてるし……」

 三人は悩んだ。

 その時――

「困ってるようだね」

 声がした。

 振り向くと――

 黒いフードを被った人物が立っていた。

 性別不明。

 顔も見えない。

『鑑定』

『名前:不明――レベル:???――職業:???』

 また、鑑定が効かない。

「誰?」

 紫苑が警戒した。

「味方さ」

 フードの人物は手を上げた。

「敵意はない。ただ、君たちを助けたいだけだ」

「どうして?」

「理由は後で話す。今は、とにかく逃げないと」

 フードの人物は、路地の奥を指差した。

「あっちに、私の車がある。乗りな」

 三人は顔を見合わせた。

 信用していいのか?

 でも――

 選択肢がない。

「……わかった」

 結衣は頷いた。

 三人は、フードの人物についていった。


 車は、黒いバンだった。

「乗って」

 三人は後部座席に座った。

 フードの人物が運転席に座る。

 エンジンがかかった。

 車は、静かに走り出した。

「どこに行くの?」

 結衣が聞いた。

「安全な場所さ」

 フードの人物は答えた。

「君たちは今、政府に追われている。このままじゃ、捕まるのは時間の問題だ」

「……知ってるの? 私たちのこと」

「ああ。噂は聞いてる。堕天者管理局を脱走した三人組」

 フードの人物は、バックミラー越しに三人を見た。

「特に、紫苑。君は有名だ」

「私が?」

「ああ。魔剣使いの堕天者。極めて稀な存在」

「あなた、一体……」

「私は、『解放戦線』のメンバーだ」

「解放戦線?」

「覚醒者の自由を求める、レジスタンス組織さ」

 フードの人物は説明した。

「私たちは、政府の覚醒者支配に反対している。覚醒者は、道具じゃない。一人の人間だ」

「……」

「君たちのような、逃亡者を保護し、支援している」

「どうして、そんなことを?」

「私たちも、かつては追われる身だったからさ」

 フードの人物は、フードを脱いだ。

 現れたのは――

 若い女性の顔だった。

 二十代後半くらい。

 短い黒髪。

 鋭い目。

 だが、どこか優しい雰囲気もある。

「私は、神崎冴子。よろしく」

『鑑定』

 今度は成功した。

『名前:神崎冴子――レベル45――職業:暗殺者』

 レベル45!

「すごいレベル……」

「ありがとう。長く戦ってきたからね」

 冴子は笑った。

「君たちも、これから長い戦いになるだろう。でも、一人じゃない。私たちがいる」

「……ありがとう」

 結衣は素直に感謝した。

「本当に、助かります」

「どういたしまして」

 車は、市街地を抜け、山道に入った。

「私たちのアジトは、山の中にある。そこなら、政府の目も届かない」

「アジトって、何人いるの?」

「今は、二十人くらいかな。でも、増えてる。政府の暴挙に反対する覚醒者は多いから」

「そうなんだ……」

 結衣は窓の外を見た。

 緑豊かな山々。

 平和な風景。

 でも、世界は変わってしまった。

 覚醒者と非覚醒者の対立。

 政府による管理と支配。

 自由を求める戦い。

「私たちは、これからどうなるんだろう……」

 結衣は呟いた。

「わからない」

 紫苑が答えた。

「でも、一緒にいれば、何とかなる」

 紫苑は結衣の手を握った。

「私たち、強くなったから」

「うん……」

 結衣は紫苑の手を握り返した。

 温かかった。

 この人がいれば、どんな困難も乗り越えられる。

 そう信じていた。

 車は、さらに山奥へと進んでいった。


 一時間ほど走ると、車は古びた建物の前に停まった。

 廃校のような建物。

 二階建て。

 窓は割れ、壁は苔むしている。

「ここが、アジト?」

「見た目は悪いけど、中は快適だよ」

 冴子は車を降りた。

 三人も続く。

 建物の中に入ると――

 意外と整備されていた。

 廊下は清潔で、電気もついている。

「おお、冴子、帰ったか」

 一人の男性が近づいてきた。

 四十代くらい。

 がっしりした体格。

『名前:山本太郎――レベル38――職業:戦士』

「ただいま。新しい仲間を連れてきた」

「お、三人も?」

 山本は三人を見た。

「若いな。学生か?」

「はい……」

 結衣が答えた。

「そうか。辛かっただろう」

 山本は優しく笑った。

「ここでは、安心していいぞ。誰も君たちを責めない」

「ありがとうございます……」

「さ、案内するよ」

 冴子に連れられて、三人は建物の中を見て回った。

 食堂。

 訓練場。

 寝室。

 全てが揃っていた。

「ここで、しばらく過ごすといい。訓練もできるし、仲間も増える」

「……お世話になります」

 三人は深く頭を下げた。

「気にしないで。困った時はお互い様」

 冴子は三人に部屋の鍵を渡した。

「三人で一部屋。狭いけど、我慢してね」

「大丈夫です。ありがとうございます」

 三人は部屋に入った。

 六畳ほどの狭い部屋。

 ベッドが三つ、並んでいる。

「ここが、私たちの新しい家か……」

 結衣は部屋を見回した。

 決して快適とは言えない。

 でも――

「悪くないね」

 明日香が笑った。

「三人一緒だし」

「そうだね」

 紫苑も笑った。

「これから、ここで頑張ろう」

「うん!」

 三人は手を重ねた。

 新しい生活が、始まる。

 政府との戦い。

 自由を求める戦い。

 そして――

 結衣と紫苑の、愛の物語。

 これからも、続いていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る