風に吹かれて。

 雨で洗われた芝生の、新緑のかおりが肺を満たす。何となくほろ苦いような、綻ぶほど甘いような、ふかふかと柔らかい空気で満ちていた。

「師匠、今日は何をしますか。」

 水気をはらんだ瞼を開ける。雨色の瞳に、たゆたう雲の影が重なる。

「今日は、自然と話してみましょう。」

 そう言って師匠は私の手を引き、雲の流れる空の下、青々とした森の中へと連れて行く。

「自然は話すのですか。」

「自然は話しますよ。」

 師匠は言った。夢見心地な儚い声で、春風の

「自然の声はどうやったら聞こえるのですか。」

 空に向かって手を伸ばす木立の中に、私の声は散らばった。

「耳を澄ませてごらんなさい。きっと応えてくれるでしょう。」

 風は影を揺らしながら、葉をなで、地をなで、空をなでて、天高くのぼっていく。青く澄んだ目が、風のその先を辿る。青いまなざしを、私はなぞる。

「答えてくれたのでしょうか。」

 師匠はそっと目をつむり、歌うように呟いた。

「ええ、応えてくれたのでしょう。」

 閉じた瞼の中にある、ビードロの色を思って、私は一つ息をはく。

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