第6話 超事調整委員会:寄技官の記録

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——視察記録——

執筆者:やどりき なぎ

 本記録は私、やどりきが見た現象をそのまま記しています。これは報告すべき事案であると私は強く思います。

 最大の問題として、エリアCの中央地区。本来の神奈川県伊勢原市に該当する地帯は、【—新神奈川開発プロジェクト—】の[照良重工式空間安定化装置]の中央オペレーター装置が設置されているはずです。私は、その地区に立ち入ろうとしました。しかし、あれはなんと言えばいいのか。[現実世界に発生したCのゲシュタルト崩壊現象]と言うのが一番正確でしょうか。同僚の綿貫わたぬきCottonコットンとしか呼べない現象など、明らかに現実を侵蝕していました。

 [照良重工式空間安定化装置]の中央オペレーター装置。私はそれに原因があると考えております。早急に照良てら重工に調査の手を入れるべきだと進言します。

——やどりき なぎ

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照御てるみ特命参事官。以上が私からの報告となります。受け取ってください」


 年齢・性別不明な黒髪の神使のような混沌者へ私は報告書を手渡す。私の出会いたくない人物その二に該当する人物だ。ちなみに、一人目は御溟先輩だ。


「ありがとう、やどりきさん。この報告は大切に扱います。しっかりと精査された上で、上は対応するでしょう」


 顔を見たいけども絶対に見たくない人物へとしっかり手渡された報告書に安堵する。正直、不確かな情報もあったが、今回は仕方ないと割り切るしかない。あれは、なんて記せばいいのだろうか。

 あんな体験をしたら、そりゃあ前任者は精神病院へ行くのは仕方ないだろう。あれは、恐ろしい。私はすぐに引き返せてよかった。綿貫わたぬきに助けられた形だ。そのうちに、お礼をしなくてはならないな。


「やあやあ、“やどりき技官”。無事、エリアCから生きて帰ってこれたのか。おめでたいことだ。私からもお祝いしないといけないなー」


 委員会の廊下にて。そう、こいつが会いたくない人物その一だ。出会ってしまった。霞が関をフラフラと彷徨う悪魔め。


「知ってましたね、御溟みめい先輩。エリアCの惨状を」


 フハっと笑いをこぼす白髪幼女? 可愛くない、この悪魔め。


「知っていた? そんな確証があるのかい、君は。『情報というのは正確でなければならない。』……この君の心情をまた曲げるのかい? さっきの報告書のように」


 だから、会いたくないのだ。

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新神奈川開発プロジェクトの進行と懸念 壊れたガラスペン @deck-

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