第4話 新神奈川にて:社員・座間の記録

 新神奈川と呼ばれる地域。そこの一部に特区というものがある。我が社である照良てら重工が政府より任された特区だ。


座間ざま、“しずめ”はちゃんと機能しているか?」


 上司にそう訊かれることも多い。そんなにも心配なら、自分の足で見にくればいいのにな。そんなことすら言えない自分に腹が立つ。

 そもそも、異常が出たなら、中央に連絡がいくはずだ。それがないのなら大丈夫だろう。

 特区内はまさに最先端の都市といった具合だ。モノレールが巡回し、歩車完全分離道路による事故の削減。特区中心部を起点とする警備体制。ここはまさに照良てら重工がやりたいことが詰め込まれている理想都市だ。

 特区の位置は横浜市の緑区辺りのはずだ。


「あれ、そういえばどうなった? あれだよ、あれ。幽霊騒ぎ」


 屋上で休憩中に同僚が楽しそうに話しかけてくる。どこから差しているかもわからない光源により昼間並に明るい空。大幻洋とはこういう場所なのか、と改めて実感する。

 さて、同僚の話に戻るが、まあ、こんな特区でも起きるのだ。幽霊騒ぎが。


「あれくらい、官公庁が対処してくれるだろ?」


 自分がそう言うと、それもそうか、みたいな顔をして、少しがっかりした表情になる。幽霊ごときに何を期待しているのだろうか。あんなもの、特に害もないだろうに。


「そういや、映画見たか? あの話題の」


 話題の? どれだ。色々ありすぎる。


「いいや、見てないな。そもそも特区を出ないからな」


 自分はあまり特区を出ない。独り身だし、実家は上のが見てくれてるから。


「もったいねーな。あれは見とくべきだぞ」


 そこまで言われると少し興味が出てくる。が、そんな暇はない。そもそも最寄りの映画館までは特区を、新神奈川を出なければいけない。


「そうかい。なら、今度感想でも聞かせてくれよ」


「おうとも、良い感想をまとめてきてやるよ」


 というか、こいつは暇なのか? 仕事をしろ、仕事を。


「そういや、エリアCって知ってるか?」


 また、話題を変えやがった。やはり暇なのだろうか。


「エリアC? どっかで聞いたかもなー。それがどうしたって?」


 エリアC、どっかで聞いたな。どこだったかな?


「あっいや。上の連中が新神奈川だ、エリアCだ、なんだかんだって言ってたから。座間ざまなら、なんか知ってっかな? って思ってなー」


「残念、覚えてねーや。また、思い出したら教えるわ」


 腕時計を見ると、休憩時間の終わりが迫ってきていた。さて、トイレに行ったら、仕事に戻るとするか。

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