Chapter #0002 The New Buddy / Segment 1 借金女王の勘定方法
商隊のみんなはコンプレットとマルゲリータの業量に慌てふためいたが、彼ら自身には業の変動はなかった。
商隊の鑑定員2人、コンプレット、マルゲリータで2つのワイバーンの骸を検分。ギルドの営業担当もリモートで参加。
コンプレットが倒したワイバーンの骸にはツユクサなどの花が積まれていた。
コンプレットは両手を合わせた。
「弔いですね。これだけの花をつむのには20秒はかかるでしょう。戦闘中に贅沢な時間の使い方、メロンさんは心優しきかたです」
そして軽く笑んだ。
(私にはできない非合理の優しさ、素敵だな……あら、ツユクサの上にかたつむり)
マルゲリータも両手を合わせた。
「ああ……あいつを攻撃しただけでめっちゃ業が深まったし、神レベルでいいヤツなんだろうな……割に合わん! 酷すぎる! あいつ全回復してたじゃん! そしたらウチらの業も元に戻れよ!」
さあああああ……柔らかな霧のような小雨が無数にささやく中、黄色く目だつ合羽を着た商隊の鑑定員たちが検査器係とモニター係に分かれて生体反応を測る。手慣れたチャキチャキした応答に、無機質なビープ音がときおり混ざる。巨体なので部分的に生体反応は残っているが、脳死と心肺停止はすぐに確定できた。
やはり2体目にも多くの花が手向けられていた。頭から胸まで割られたその骸の死は明白だったが、手続き上簡易な検分がなされた。すぐに商隊の鑑定員たちは脳死と心肺停止をギルドの営業担当に伝え、営業担当がギルドとその客先の総意として「戦闘終了」を宣言し、この場にいる全員が復唱し敬礼した。営業担当はリモートを切断したが、骸の本格的な解析と報酬の見積もり・擦り合わせなどはこれからが本番だ。東の空が少し明るくなっている。
マルゲリータは伸びをした。
「あー、皆さまお疲れさまでしたー! 隊に帰りましょー!」
コンプレットも伸びをした。
「お疲れさまでした~!」
4人が商隊に戻り、みんなでお互いをねぎらい無事を喜ぶ。ワイバーンが2つ、ドラゴンが1つ来たのに死者が一人もなし。しかも2つのワイバーンを撃退でなく討伐。二人は商隊の皆に相当の感謝をされ、賞賛を受けた。また、業の深化を二人が引き受けてくれたことに感謝する者がいる一方、彼女らの業の深さを忌み嫌う者もいた。とくにコンプレットは辛く当たられた。だが平気だった。
(まぁ、こうじゃなくっちゃ)
夜は去り、朝が来た。天は変わらず細やかな梅雨の雫を無数にこぼし続ける。
ワイバーンは獲物として強く、その骸は解体利用でき金銭的価値が高い。科学が魔法を取り込むよすがにもなる。コンプレットが倒したワイバーンはかなり原形をとどめていて史上初、非常に貴重で解体前に念入りにスキャンが行われた。その対価としてコンプレットは金貨750グラム、マルゲリータは金貨500グラムを得た。マルゲリータは300グラムをギルドからの借金返済にあてた。マルゲリータがバイクで記録したドラゴンとの戦闘ログはギルドが解析・価格鑑定中。マルゲリータはコンプレットにデータ報酬の半分を渡す約束をした。これらの金銭のやりとりは現金ではなく、ナカタ・キキンゾクのデジタル口座で行われる。
コンプレットはマルゲリータの推薦もありクラスSに昇進、マルゲリータに並んだ。
また、ドラゴンとの戦闘で業が異様に深まった現象は二人ともスマートウォッチがログを取っていて、今回は無料でお祓いできることになった。ギルドとしては報酬体系の改定を余儀なくされるできごとであるとともに、明確に『善なる者』であるモンスターの存在が示されたのは国家レベル、あるいは国境を越えるできごとだった。
翌日の朝9時に商隊は旅を再開。ボロボロの2車線道路の10台のトラックの車列を6台のバイクが警備する。元々運んでいた荷物が多いので、時間をかけて無理矢理1つのトラックを空けて2つのワイバーンの有用部を押し込んだ。全てのトラックには子猫を咥える親猫のイラストと社名が描かれている。コンプレットは足が地面に着く子供向けバイクで、マルゲリータは25kg神通レーザーシステムを搭載したオフロードバイクで、昼間は自動運転に任せて背もたれにもたれながら眠る。
商隊は昼12時ごろにウツノミヤに着いた。都市は幕府軍の重武装志願兵が守護しているが、機動性は低い。兵装に使われているテクノロジーもギルドのメンバーの5〜10年遅れだ。その代わり汎用性と量産性、火力・防御力に優れている。商隊が補給と荷物の積み替え、運転士の交代・引き継ぎする間、まずコンプレットとマルゲリータは業にかかわらず入湯できるギルドの銭湯で3夜入れなかった風呂だ。これはギルドのメンバーだけでは赤字になるので一般の客も受けいれている。業にかかわらず入れるので筋者に人気で、一般の銭湯と違い入れ墨も禁止されていない。
マルゲリータが洗い場で豪快に叫ぶ。
「うおぉー! ごくらくぅ~! かい~のが消えてく~ッ!」
コンプレットも上機嫌で体を洗いながら文部省唱歌「かたつむり」を鼻歌する。
二人とも42度ほどの熱めの湯につかる。
「ぎもちええ゛~! 拙者昇天しちゃうよ」
とマルゲリータが言うと、コンプレットはくすりと笑った。
お湯から上がってドライヤーの時間、マルゲリータがコンプレットの背中にドライヤーをあてた。
「お互いに背中を乾かしあってさ、遊べる時間を増やそうよ」
「ありがとうございます。そういたしましょう」
ドライヤーのあとは二人ともレンタルのバスタオルを巻いて、畳の女湯休憩所でくつろぐ。囲碁と将棋の用意がある。月刊の少女漫画誌が12冊書棚に置いてあるが、14年前のものだ。羊羹と煎茶で昼間っからチンチロリンをやっている女性3人組が先客である。
「銭湯ならコレだな」
マルゲリータはそう言って200ml瓶入りの低温殺菌牛乳をコンプレットに手渡した。
「いいんですか、こんな贅沢品。入湯料より高いのに」
小氷河期、哺乳類の肉や乳、鳥の肉や卵は贅沢品だ。
「ココじゃ普通さ。コンプレットどのは銀貨4グラムの牛乳がノイズになるようなシグナルの働きをしたよ。S/N比は10,000以上さ。ありがとう」
コンプレットはちょっと思った。
(えっ? 隊長ってちょっと経済感覚壊れてる?)
それは隠して言った。
「嬉しいです。ありがたく頂戴いたします」
マルゲリータが腰に手を当ててグビグビっと一気飲みしたので、コンプレットは追いつこうと焦って飲んで軽くむせた。
「おっ、一気飲みには慣れてないのかな? 何事も修行だよ」
そう言われたコンプレットは実年齢の半分くらいの子どものような笑みを浮かべた。
風呂を終えたら私服で自由行動だ。
コンプレットはノーブルな茶色い共布のジャケット・ベスト・ロングスカートの三つ揃い。白いブラウスの襟に紺色の大きな蝶結びのリボン、袖はプラチナとサファイアのカフスリンクス留め。白い無地のハイソックス。シンプルでエアのきいた上等な焦げ茶色の革靴。黒い羽根がついた濃紺のフェルト帽子を外でかぶり室内で脱ぐ。すべてオーダーもの。ボブカット、小柄、童顔なせいもあり尋常小学校高学年くらいに見えるが、名家の風格がある。とくに脱いだ帽子を胸にあてて背筋を伸ばして歩くさまは凛と美しく王侯貴族の子女かくあらんや。
マルゲリータはいわゆる着物。胸が豊かなのでその下にタオルを仕込んでいる。若草色の正絹の訪問着、赤と金の帯。長い髪に質素なかんざし。足袋とイ草の草履。
二人はギルドの八幡菩薩でお祓いをしてもらうことにした。ギルドが銭湯を経営するのは、仕事のあとにはつきもののお祓いの前に身を清めたいという要望に応える側面が大きい。
神主さんに業を徳で打ち消してもらうが、通常はかなりの高額で1の徳で1の業を相殺するのに金0.5グラムが必要だ。なお、この世界では神仏が習合したままだ。
マルゲリータが嬉しげにぼやいた。
「いやー、今回のコレを自腹で払えって言われたら、冒険者なんかやめたくなるね」
コンプレットは寂しそうに言った。
「徳と業をスマートウォッチで可視化、金銭で業を浄化……違和感しかありません」
マルゲリータは目を点にした。
「え? そこ疑問の余地あんの?」
お祓いのあと、マルゲリータは甘味処でコンプレットに餡蜜と煎茶を馳走しつつ言った。
「コンプレットどの、拙者はこの任務の後もあなたと組みたい。あなたは拙者より強い。拙者はクラスSSの誰にも負けないが、あなたには負ける」
ここのBGMは津軽三味線の生演奏だ。
マルゲリータの賞賛にコンプレットは子どもの笑みを浮かべた。
「よろしくお願いします、隊長。ギルドに貴女の右に武者ありません。貴女には背中を預ける価値があります。でも……なんでまだクラスSなんですか?」
そう言われるとマルゲリータはプルプルした。
「借金……ギルドに借りた金を返すまではクラスSという約束……金12キロ近い借金が残っている……」
コンプレットは声を上げた。
「120億円超え? いや、円などハイパーインフレでもはや商取引に使えない通貨ですが……なぜ?」
マルゲリータは涙目になった。
「ギルドのデキる巫女と好き放題して装備を研究、気づいたら金11キロかかってた……そこまでの成果を取り入れて装備を完成させたら更に4キロかかった。神通ソフトローンチの多目的誘導弾を神通ステルス配置まで可能にしたり、脆くないタングステン太刀とか、めっちゃ金かけたよ……で、借金は年利1割の利子で折半か、利子なしで全額か問われたから全額を選んだ。この1年で3キロ返した。研究の特許収入とかが1キロ近くあったから嬉しいけど、10年も経たずに陳腐化するかな……特許収入はあと5キロ分くらい」
コンプレットはくすりと笑った。
「それだけ開発してその程度の借金なのは逆に奇跡です。しかし丼勘定、いや浴槽で勘定するごとき豪快……ギルドは貴女に投資したと見るべきです。返す見込みがなければ貸しません。ましてや無利子などと」
マルゲリータは拳をプルプルさせながら涙をこぼした。
「違う……ハメられたんだ……拙者が強いしエンジニアとしても優れているからハメて抜けられないようにされた……ハタチまでにたくさん稼いで結婚するつもりだったのにもう無理ゲー……スルガの両親に孫抱かせたいのに!」
するとコンプレットは言いにくそうに言った。
「お金でお困りなのですか。解決は簡単なのですが……」
そう言うと、コンプレットは右手を差し出した。その右手の上できらめく金色の光が増えていく。
「地下のマントルから金原子を失敬しています。ですがコレ……要りますか?」
マルゲリータは突っ伏して頭を抱えた。
「のおおぉ……マジか……拙者より強いと思ったらこんな芸当まで……」
コンプレットは寂しそうに笑った。
「私と組むということは、本質的にはこういうことです」
マルゲリータはその声に寂しさが含まれると感じてコンプレットの顔を見た。
(平気の向こうに寂しさを感じる)
そして気さくに笑った。
「背中を守るバディはいらんのか? 拙者はいいバディをようやく見つけたと思ったのだがな。だが金はいらん。拙者の借金は拙者が返さないといけないものだよ」
コンプレットはあからさまに嬉しそうな顔をした。
「それは最高のお答えです。じゃぁ、これは消しちゃいますね」
コンプレットの手から金が消えた。マルゲリータは内心思った。
(ああ……金が……もったいない……もしかして拙者、めちゃくちゃバカなのでは……ギルドを辞める千載一遇のチャンスを)
でも、その気持ちは隠して毅然と言った。
「夢は、素敵なダンナと我が子は、自分で手に入れないとな」
コンプレットは雑談に乗ろうとした。
「結婚ですか……既にお相手がいらっしゃるんですか?」
しかしそう言った次の瞬間にマルゲリータが割とマジ声で叫んだ。
「ぐはあっ! できゃぴていてっど!」
マルゲリータは精神的ダメージを受けた! そしてテーブルに顔を伏せた。ばたり。
「よ……容赦ないですねコンプレットさん……拙者即死しちゃう……拙者はこんなムキムキマッチョ高身長ですので、男性からは女性に見えない気がします」
コンプレットはあっと右手で口を覆ったが、表情は驚きよりもあどけなさが強い。
突っ伏したマルゲリータは顔だけ横を向いて薄く目を開けて回想した。
「背が……背が低かった尋常小学校の頃はそんなことなかったんだけど、あの頃は色恋よりも木登りのほうが楽しかったし、男とか女とか気にしてなかった」
そして顔を上げて背筋を伸ばし、鼻息荒く言った。
「でも、拙者は頑張って探すんだ! お互いにラブラブできるダーリンを! そしてね……拙者、寿桂尼さんみたく優しいお母さんになるの……でも先に借金返さないと恋人なんか見つかる訳ねえから頑張るしかねーし」
マルゲリータは胸をはった。
「心も体も資本だし、ちゃんと美味いメシ食って楽しく過ごさにゃならんのさ。いま体脂肪率が18%とかだけど、母になるにはこれより下げたくない」
コンプレットは胸をなで下ろして優しく言った。
「寿桂尼さんですか。戦国大名の今川義元公のお母様ですね。素敵な夢です。健康についても理解が深い……それにしてもマルゲリータさんがお召しになっている訪問着、素敵です。貴女はいと美しく、胸も豊かで、敷居高きのみです。いつか良き殿方があらわれます」
コンプレットは少し暗い顔になってため息をついた。声も低くよどむ。
「私のごとく小柄、まな板を好む殿方にロクな者はいませぬ。敷居低きは辛きです」
マルゲリータは「えっ?」と息をもらした。
「もしかして……モテるのかコンプレットどの」
コンプレットは肩をすくめてみせた。
「面倒くさい程度に。舐められてます」
「うう……恋愛面でも拙者の負け気味……拙者はモテないナオン、MNNだよ」
「色恋に興味なし。私は生涯独身です」
「えっ? なんで?」
「殿方に触られると虫酸が走ります……っていうか……ちょ……ちょっと男の人に触られるのって怖くて……そ……それで肩ポンした兄弟子の手をバシッと払いのけちゃったこともあったり……気づいたら『私に手を触れるな』って叫んでました。場が凍りました……お師匠様だけ大爆笑してましたが」
とつぜんコンプレットはしおらしい表情になってモジモジした。
マルゲリータは目を点にした。
「ええええ~! 落差はげしすぎる! なんでそんなに無駄に繊細なの? 私に手を触れるなって怖すぎ、男嫌いかよ? っていうかそのモジモジのギャップを見たら男はたまらんだろ! うう……拙者よりも武力が高い女子に恋愛偏差値でも完敗した……しくしく……」
マルゲリータは両手で顔を覆ってさめざめと泣きだした。
コンプレットはため息をついた。
「殿方好くこと無きまま悟りしゆえ、もはや殿方好くことあり申さん」
しばし、二人とも無言。
店内で生演奏されている津軽三味線がものすごい加速感でクライマックスを演じ、静寂に転じたあとに派手な見得を切って終わった。
5秒ほど余韻が楽しまれたあと、店内の客がまばらな拍手をした。
コンプレットも拍手をした。
「隊長、奏者に敬意を」
そう言われたマルゲリータは正気に返って拍手をした。
マルゲリータは大きくため息をついた。
「あーあ……コンプレットどのは強く、金持ちだ。そしてモテるナオン、MNだ。でも人生を楽しんでない」
コンプレットは合掌した。
「人生は楽しくてよし苦しくてよし。生くるを求めず、死ぬるを求めず、生くるを厭わず、死ぬるを厭わず……殿方に虫唾が走るのも怖いのも、うっかり手を払いのけるのも、またまた弱き己の等身大。嬉しく寂しく楽しく苦し」
「それが悟りか。変な肝練れだなぁ。あ、ちなみに拙者の座右の銘は『武者は犬ともいえ、畜生ともいえ、勝つことが本にて候』だ」
「葉隠や武蔵でなく、名将の朝倉宗滴に武者の手本見いだす……ご興味があるのは個人の武ではないのですね。そういえば寿桂尼さんも内政外政に活躍し四代の当主を支えた今川の柱のようなお方」
マルゲリータは右手を差し出した。
「寿桂尼さんも宗滴も知っているのか……嬉しいな。ねえ、ニンゲンって本当にいたと思う?」
コンプレットは微笑んだ。
「いたっていうか、スケール十分の一の並行世界にまだいると思いますよ」
マルゲリータはあからさまな笑顔になった。
「あんた夢もあるな! 一生友達でいてくれ! 握手してくれる? 払いのけないでね?」
コンプレットは華やかに笑った。
「一生友達……嬉しいです」
二人は握手した。マルゲリータの握力が強すぎてコンプレットは少し痛かったが、彼女はそれをありのままに愉しんだ。
マルゲリータは既に冷めた煎茶を飲み干した。
「お互いに餡蜜も煎茶も片付いた。〆の焙じ茶と行くか」
コンプレットは合掌した。
「ありがとうございます」
追加注文で店員さんが持ってきてくれた熱い焙じ茶をすすりながらコンプレットは言った。
「しかし、スルガのご出身……では」
「うん。南の国のライオン丸のお膳立てで独立地帯だ。地元では共和国と呼んでるけど、南の軍がいるからそう見えるだけ。だが、独立にはこの国の白ギツネが噛んでいる気がする」
「ジェノベーゼ丞相ですね。私の兄弟子というか……どう呼ぶべきなのか……」
「なんだそりゃ」
「賢者アイス様の弟子という意味では先輩なんですが、あの方は男でも女でもないんです」
「えっ? どういうこと?」
「ジェノベーゼ丞相はいちど個体完成したので性器も排泄器も無いです」
マルゲリータは腕を組んだ。
「なるほど……そういうことか、完全に理解した(わけわからん)」
会食ののち二人で再度ギルドに顔を出し、コンプレットは冒険者カードをクラスSに更新。
マルゲリータはドラゴンに関するデータ代として1キログラムの金貨を受け取り、200グラムを借金返済にあて、300グラムを手元資金に追加し、500グラムをコンプレットに手渡した。
対ドラゴン戦ということで、使用された砲弾一発あたり100グラムの補助も決まった。
今回出現したドラゴンは今までに使われたことがない寒冷魔法を使い、自らを『魔王の側近の一人メロン』と自称した上に、攻撃しただけで異様な業の深化が見られた。また、攻撃した冒険者の業の深化に顕著な差があった。
ギルドは一般的なドラゴンのデータを持っていなかったが、メロンのデータを幕府の防衛軍に照会したところあちらは持っていなかったので、ギルドは一般的なドラゴンのデータ+金5キログラムを軍から受けとったとのこと。
それを聞いたマルゲリータは思った。
(ログの版権を手放さなければ現場の手取りはこんなもんだ……同意してくれたコンプレットどのには投資の心得がある)
感傷に浸る間もなくマルゲリータはギルドの整備室でツナギに着替え装備点検と整備。
「実弾撃ったのは高かった。レーザーは祈祷してもらっても10発打ってようやく金1グラムなのに、ジャベリン・プラスは1発で金150グラム、祈祷してもらうとさらに10グラム。補助を引いて今回は60グラム5発、300グラム。1年遊んで暮らせる、ドラゴン相手の仕方なき投資、儲けは金200グラム……今回は拙者にとっても初めてのデカいヤマだったとはいえ、冒険者やってると金銭感覚壊れるな」
酷い道を走らせた愛車を丁寧に点検・整備する。
「まぁ、そもそもこの小氷河期のご時世に甘味なんか食うのはどうかしてる。接待とはいえ二人分で銀貨100グラムかかった。つまり金貨1グラム。銀貨1枚に困って飢えて死ぬ者も居るのに拙者は贅沢三昧。借金まみれでも手元に自由になる金は山ほどある。利子なき借金などなきも同然。我ながらいい御身分」
ジャベリン・プラスはギルドの高度兵装として採用されていて、ウツノミヤで3発だけ補給できた。丁寧にクッション格納に収める。
「さて、レーザーはどうかな」
ギルド演習場でチェックモードの試し打ちしたが、システムは異常を検知しなかった。なお、この25kg・10kJレーザーシステムはギルドでは一般的な兵装で部品も入手しやすいが、射手と白兵担当は求められる技術が異質すぎて別人が担当することが多い。なお、このレーザーの高出力・軽重量は、神通キャパシタと神通冷却によるところが大きい。
「こいつが無事でよかった……これとAKMとグレネードランチャー、84mm誘導弾、とどめのカタナでドラゴン以外は討伐できる。さあ、そろそろ着替えて焼き肉、焼き肉! 一人で食べるか、コンプレットどのを誘うか……」
優秀な冒険者の多くはマルゲリータのように自分の装備は自分で整備できるエンジニアである。整備はギルド任せの冒険者も多いが、クラスは低い傾向にある。なお、ギルドのクラスはSS-S-A-B-C-N-Xの7種類で、Nは戦場に出ない事務方で正社員、Xは経営層だ。
二人は割り勘で食べ放題の焼き肉を楽しんだ。マルゲリータが食べた量は小食のコンプレットの5倍以上で、店主が泣きながら「もう食べ終わってください」と止めにきたが、マルゲリータは店主に儲けが出る額をちゃんと聞いて少し上乗せて、2倍の勘定を払うことで解決した。
商隊はウツノミヤを出てから2日かけて無事に目的地に到着、センダイからエドまでの4000km弱の商隊の旅、6日の間に敵襲は一度きりだった。二人は次の任務までウエノのギルドが経営する冒険者の宿に泊まることにした。
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