Chapter #0001 First Battle with "Good" Enemy / Segment 2 名乗り・アド(脇役1)

カラフト大陸の『神』の居城にて。

「神よ、貴女の大切なしもべを2つ取られて、老いぼれメロンがのうのうと帰ってまいりました」


ドラゴンは始終を神に報告した。


ドラゴンよりもはるかに小さくか弱いそれは、第一次成長期が終わる前の人間に似た姿だった。だが、人間よりやや抽象的な姿で、例えばほうれい線や鼻の下の線がなく、耳が尖っていた。


「ああメロン、あなただけでも帰ってきてくれてよかった。ありがとう」


子どものような声の彼女は土下座姿のドラゴンの頭を愛しむように撫でて涙を流した。


「ありがたき幸せ」


ドラゴンもまた涙した。そして、玉座にぬかずくドラゴンの背後では、無数のモンスターたちが涙していた。神の愛に胸を打たれ、神と己と皆の使命の悲しさに泣いていた。


「メロン、あなたにお願いがあります」


彼女は決して命令しない。あるのはお願いと、それを叶えたい自由意志だけだ。


「はっ、何なりと」


「いまやりたいことに素直にチャレンジしてください」


ドラゴンはひるんだ。


「いや……それは……我が姉ナシはそれで個体完成し『世界に干渉しない存在』に成り果てたのです」


彼女は言った。

「でも……好きな子に負けっぱなしは嫌なのでしょう?」


ドラゴンはハッとして胸に手を当てた。


そして別れ際のコンプレットの笑顔を思いだし、今また同じ表情になった。


「やはり神にはかないませぬ。コンプレット殿に敵として惚れ申した、また遊びとうございます! ちと悟ってきます……また背中を押していただきましたな」


神は誰よりも無垢な笑みを浮かべ、ドラゴンの大きな指を小さな両手で包んで頬ずりした。


「それしかできませんから」


そして神が玉座の背後のいと高きに視線を移すと、ドラゴンが、そしてすべてのモンスターが同じものを見つめた。神が両手を合わせて祈ると、皆祈った。


玉座の背後には光と闇がリズミカルに混交する球、この物質世界を作りし『プラトンのデミウルゴス』の似姿があった。


物質世界は魂の牢獄、デミウルゴスは悪しき偽神と語られる場合もあるが、モンスターたちは受肉し物質世界に生きることに感謝をしていた。

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