第2記録:カルチナッツ ―収穫される共生―
この世界には、自ら狩りを行わず、育て、食べられることで繁栄する生物が存在します。それがカルチナッツです。
カルチナッツは一定の周期で、硬いカプセル状の構造体を周囲へと発射します。カプセルは落下すると地面に定着し、まるで植物のように根を張ります。殻は非常に硬く、小型の捕食者では破壊できません。しかし内部には、多くの生物を強く引き寄せる高栄養の成分と匂いが満ちています。
その匂いに誘われ、小動物や虫、時には肉食性の生物までもがカプセル内部へと入り込みます。カプセルは成長とともに、ゆっくりと入口を狭めていきます。初期の段階では出入りが可能ですが、内部の生物が増え、栄養循環が安定してくるにつれて、入口は次第に閉じていきます。
完全に成長した頃には、外へ通じる隙間は失われ、中から脱出することはできません。閉じ込められた内部は、殻越しに陽光を取り込み、根から吸い上げた養分を循環させることで、生物の繁殖に最適な環境となります。そこでは捕食も争いも起こらず、ただ命だけが増え続けます。
やがてカプセルは成熟し、外見は大きく重く、栄養に満ちた「実」へと変化します。この段階になると、カルチナッツ本体が再び現れます。カルチナッツは成熟したカプセルを自ら捕食し、硬い殻ごと噛み砕いて、内部で増えきった生物と栄養を余すことなく取り込みます。
そして、再び新たなカプセルを発射します。この循環によって、カルチナッツは狩りも争いも行わず、他種の生物を「育てる」ことで命をつないでいるのです。
集められ、守られ、増やされ、最後に収穫される。それでもなお、カプセルの中で生きる生物にとって、そこは外界より安全で豊かな場所なのかもしれません。
カルチナッツは今日もまた、静かにカプセルを放ちます。成長の先に、出口が存在しないことを知りながら。
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異世界生物記 @half-celeb
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