1章:対策班の仕事⑤

技術班での用事を済ませ、エレベーターに乗りこみ、支部のある10階のボタンを押す。


「はぁ……疲れた……」


他には誰も乗っていないので、大きくため息をつく。


「もう少しだけ常識を身につけてくれるといいんだけどな~……」


先ほどのやり取りを思い出しながら呟く。

普段は優しく面倒見も良いのだが、こと研究のことになるとマッドサイエンティストになってしまうのが残念なところだ。

そんなことを考えていると、1階でエレベーターが止まった。どうやら誰かが乗り込んでくるようだ。

ボタン側へと体を寄せ、乗り込めるスペースを開ける。

チンと言う音と共にエレベーターの扉が開くと大柄でガタイのいい男性と小柄で中学生くらいの女の子が乗り込んでくる。


「ん?なんだ。東雲じゃないか」

「あれ、霧島さん? それと雨宮さんまで」

「ども」


ふと顔を見ると、同じ対策班のメンバーだった。


「今戻ったんですか?」

「ああ、少し手間取ってしまってな。こんな時間になってしまった」

「……手間取ったんじゃなくて、霧島先輩が道に迷ったせいです」

「おい、 雨宮! 別に俺は道に迷ってなんかないぞ! 雨宮に外の景色を楽しんでもらうために、わざわざ遠回りしたんだ」

「……言い訳なんてキモイです」

「なっ!?」

「あはは……」


大柄でガタイのいい男性は、キモイと言われうなだれている。

この男性は、霧島きりしま 剛三郎ごうざぶろう。普段から僕に筋トレを進めてくる暑苦しい人だ。霧島さんは対策班の中でも月島つきしま隊長の次に年齢が高い。

元々は警察官であったが、4年前に異能に目覚めたことをきっかけに対策班に所属することになった。彼の異能は肉体強化であるのだが、元々の趣味が筋トレであったこともあり、当初は異能が発現したことに気がつかなかったらしい。

性格は豪快で大雑把であり、情に厚く信頼のおける人なのだが、なにぶん暑苦しい。

そして小柄で中学生くらいの女の子が、雨宮あまみや 美桜みおん

雨宮さんは、僕や藤宮さんよりも若い13歳でありながら、対策班に所属している。なので、僕たちよりも頭がよく、藤宮さん以上のエリートだ。

彼女も異能者であり、僕と同じ探知系の異能の持ち主だ。僕の異能は現場の痕跡から人を追うことができる能力であるが、彼女の場合は、痕跡から持ち主の情報など特定できる能力を持っている。なので現場にはあまり出ることはなく、基本は現場から持ち帰った遺留物や証拠品を元に捜査を行っている。

性格は、まだ13歳といこともあり大人しいが結構な毒舌である。今見たく霧島さんがよく被害者になっている。ただ、相手を嫌っているとかではないようで霧島さんのことも信頼はしているらしい。


「雨宮さん。ストレートに言うとまた霧島さんが泣いちゃうから、オブラートに包もうね」

「無理です」

「雨宮……。というか東雲。オブラートにってなんだ。オブラートにって。東雲も俺のことキモイと思っているのか!?」

「いえ、そんなことありませんよ? 僕は霧島さんのこと尊敬してますから」

「東雲……お前ってやつは……」


霧島さんは泣いているのか腕で目元を隠している。扱いやすくて助かる。

そんな様子を見てか、雨宮さんはため息をつく。


「はぁ……お世辞なのに喜んじゃって……」

「雨宮ー!」

「あはは……相変わらず兄妹みたいで仲がいいですね」

「よくないです」「どこがだ!」


2人揃って否定される。ほんと兄妹みたいだ。

そんなことをしていると10階に着いたので、3人揃ってエレベーターを降りる。


「じゃあ、俺は月島隊長に報告をしてくるから、雨宮はいつものように報告書の作成を頼むぞ」

「またですか?」

「だって、俺が作るとミスばかりでたちばな副隊長に突き返されてしまう。だから頼む。また外でお菓子を奢ってやるから」

「む~……わかりました。必ずですよ?」

「ああ!もちろんだ!」


そう言うと、2人はそれぞれに別れた。

お菓子でやってくれるなんて、ほんと中学生らしくて可愛らしい。


「(相沢さんの場合は、女の子を初回するだからな~……)」


相沢さんの場合は、何でも女性関連になるので困る。


「(普通の男なら喜ぶんだろうけど……に興味がないからな~)」


霧島さんあたりなら喜ぶだろうが、僕からすると迷惑でしかない。

よっぽど霧島さんのようにお菓子の方がありがたいもんだ。

そう思いつつ自分のデスクに戻ると相沢さんは復活してパソコンに向かって作業していた。それも泣きながら。


「……どうしたんですか? 相沢さん。涙なんか流して」

「うるせぇ! 今は喋りかけるな! 橘副隊長に今日中にって仕事を頼まれてんだ!」

「そうですか……」


相沢さんは、こっちに目を向けることなく必死に手を動かしている。きっと橘副隊長にこっぴどく絞られて、罰として何か仕事を振られたのだろう。

まあ、自業自得なのでしょうがない。


「……手伝いませんからね?」

「わかってるよ!? いいからお前は時間になったらさっさと帰れ!」


今の時刻は16時30分。ここの定時は17時30分。あと1時間だった。

今日は他に作業もないので、定時には退勤出来そうだ。


「わかりました。今日は定時で退勤させてもらいますね」

「ああ! そうしろ! くそ~……今日は飲み会を18時に入れてたのにこれじゃあ間に合わねぇぞ……」

「またですか? 今度は何処の子なんですか?」

「今日はな、某有名な外資系企業で働くウーマン達だ。言わばエリートだよ。エリート! ここ最近は大学生が多かったからな。ちょっと趣向を変えたんだ」

「……そうですか。良かったですね」


相沢さんは、相手の女性達を想像しているのか、仕事の手を止め腕を組みながらニヤニヤしている。ちょっとキモイ。


「まぁ、18時までに終わることを祈ってますから頑張ってください」

「ああ! 任せとけ! 彼女たちのことを考えてたら力が湧いてきたぜ! 今の俺ならいける! いけるぜ、東雲!」

「(ほんと欲望に素直な人だよ……)」


そんなことを考えながら定時になるまで雑務をこなした。

相沢さんは、驚異的スピードで仕事を終わらせて僕と同じく定時で颯爽と退勤していった。

















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