1章:対策班の仕事④


真っ白になった相沢さんと朝倉さんを横目に雑務を処理していると、たちばな副隊長と西園寺さいおんじさんが検察庁から戻ってきた。


「あ、橘副隊長、西園寺さん。お疲れ様です」

「ええ、お疲れ様」

「お疲れ様です。東雲くん」


挨拶を交わすと橘副隊長は、戻ったその足で月島つきしま隊長の元へと向かった。


「月島隊長。只今、検察庁から戻りました」

「あ、橘くんお疲れ様。それでどうだった向こうさんは?」

「はい。やはり異能者が関与した事件が近年増加している為に、人手が不足しているようです」

「あーやっぱりね~。検察側は火の車だと思ったいたけど、結構困っているみたいだね」

「ええ、そのようです。いずれユスティーツから人員を配備する必要があるかもしれません」


雑務をしながら、2人の会話に耳を傾ける。

どうやら検察側が人手不足に陥っているようだ。2人が話しているように、ここ数年で異能者による犯罪が増加傾向にあると言われていおり、さらには異能者自体の数も増加傾向だ。

異能者は生まれてくる際に異能を持って生まれくるパターンと、途中から異能に目覚めるパターンに別れ、今日捕まえた容疑者は突如異能に目覚めたパターンだ。突如異能に目覚めた人は、犯罪を起こしやすい傾向にある。

生まれながらにして異能を持っていれば教育はしやすいのだが、突発的な場合は難しく、本人の理性にまかせるしかない。だから、異能犯罪を抑止するのは非情に難しい。やはり、突如として力が与えられれば使いたくなってしまうのが人間なのだ。

さらに警察や検察を困らせるのは証拠だ。

一般人が事件を起こす場合は、必ず何かしらの痕跡を残す。火をつけるなら火をつける道具を。人は殺すなら殺す為の道具を用意する必要があり、そういったものが証拠品になりやすい。

しかし、異能者の場合は、何も使わなくても火をつけられ、人も殺すことができる。そうなると証拠の絶対数が減ってしまい、逮捕や立件が非常に難しくなる。だから、検察側は対応に追われてしまい、人手不足に陥っているという感じだ。


「(減らすことが出来ればいいんだけど……無理だろうな。そうなるとやっぱり僕は……)」

「……のめくん? 東雲くんってば!」

「え?」

「もう。さっきから声かけてるのに無視するなんて酷い……」


気づくと西園寺さんが横に来て、声をかけていたようだが、気づけなかった。

西園寺さんは、両手で顔覆って「酷い……」と呟く。

うっかり泣かせてしまったと思い慌てる。


「ごめんなさい! つい集中しちゃって!」


そう言うと、西園寺さんは顔から手をどけてニッコリと笑っていた。

どうやらウソ泣きだったようだ。


「冗談です。冗談」

「はぁ……ほんとに泣かれたかと思いましたよ」

「ふふ、東雲くんは優しいから、ついからかいたくなっちゃうのよ。ごめんね?」

「西園寺さんまで……そんなにからかいやすいのかな……僕って」

「違うわよ。東雲くんがいい人だから、ついみんな意地悪したくなっちゃうだけよ。悪い人だったら、そもそも話しかけもしないわ。だから、喜んでいいのよ」


西園寺さんはそう言うと、人差し指でこちらの額を軽く押す。

ほんと一つ一つの行動が魅力的な人だ。

普段から女性に接する機会が多くて助かった。

女性に耐性がない男なら、いちころだろう。


「それで何か用事でしょうか?」

「ええ、戻る途中で技術班の牙城がじょうさんにあなたを呼ぶようにと頼まれたの。だから、手が空いていたら技術班の元へ行ってもらっていいかしら?」

朱音あかねさんが僕に……?」

「ええ」


その名前を聞くと嫌な予感しかしない。

あの人が呼ぶということは、ろくでもない用事に違いない。


「はぁ……わかりました。今日の分の仕事は終わっているので今から行ってきます」

「よろしくね」


自分のデスクに戻っていく西園寺さんを見送り、重い腰をあげて技術班の元へと向かった。


◇◇


エレベーターに乗り、技術班の居室がある地下5階へと向かう。

技術班の居室は、警視庁の増設された地下5階に設置されており、そこで日夜、通信機器等のガジェットや捕縛用の武器などの開発整備を行っている。僕たちが使用している武器の作成やメンテナンスもすべてここで行っている。

セキュリティカードで扉のロックを外し中に入る。対策班のメンバーは、全員カードで入室できるようになっているので、備え付けのインターホンで呼びかける必要はない。

中に入ると技術班のデスクが並んでおり、目的の人物を探すが見当たらない。

しょうがないので、デスクワークをしている男の人に声をかけることにする。


「お仕事中にすいません」

「ん? あ~君は対策班の」

「はい。東雲です。牙城がじょうさんに呼ばれたのですが、どちらにいます?」

「牙城くん? 彼女なら奥の開発室にいると思うよ」

「ありがとうございます。助かります」


そう言うと、彼は手を軽く振って「気にしないで」と言って、仕事に戻った。

技術班の居室がある階層は、4つの部屋で構成されている。1つは今いるデスクルーム。2つ目は仮眠室。3つ目はテストルーム。そして最後の4つ目が目的の人物がいる開発室だ。その名の通り武器やガジェットの開発を行っている部屋であり、目的の人物もご自慢の異能を使って、ありとあらゆる物を開発している。


「(普通に開発しているだけなら問題はないんだけどな~……今日は何の実験に手伝わさるんだろ……)」


憂鬱な気分のまま開発室に入る。

中では何人かのスタッフが何か作業をしているが、またしても目的の人物が見当たらない。技術班は、10人程度の人達で構成されており、それほどスタッフは多くない。だから、すぐに見つかるはずなのだが見当たらない。


「あれ? いないよね……どこにいるんだろう?」

「ようやく。来たね少年!」

「わっ!?」


見当たらないので部屋から出ようとすると突然背後から声をかけられて、驚き前へとびのく。後ろを振り向くと目的の人物がケタケタと笑いながら突っ立っていた。


「ふむ。腰を抜かすかと思ったのだが、これは予想が外れたな……」

「も~、普通に話しかけられないんですか……?」

「ふふふ。すまないね。君の反応が見たくてね。ついやってしまうのだよ」


彼女は、手をポケットに入れながら笑う。

僕を驚かせ反応を楽しんでいるこの女性こそ、僕を呼んだ牙城がじょう 朱音あかねだ。

技術班に所属しており、自身の異能を生かして主に武器の開発を中心に行っている。彼女の異能は物質成形であり、どんな物質でも彼女の思うがままに成形できる。だから、使用者に合わせてあらゆる武器を作成しており、他の支部からも開発依頼を受けている。一応、技術班は各支部に設置されているし、同じ能力を持った人間もいる。しかし、同じ能力であっても強さが異なったりするので、わざわざ彼女に依頼をする人も多いのだ。


「まったく……。それで? 今日は何のようですか?」

「?」


彼女は、不思議そうに首を傾げる。

読んだ本人が疑問に思ってどうするんだ。


「西園寺さんに頼んだでしょ? 技術班に来るようにって」

「西園寺? 西園寺……ああ!。そうだったよ! 君を驚かせることに意識が向きすぎてすっかり失念していたよ」

「…………」

「いやいや。ほんとすまない。……そんな顔をするなって。じゃあ、早速だがこっちに来てくれ。君に試してもらいたいものがあるんだ」


そう言うと、彼女はこちらの背を押して前へと進ませる。

悪い人ではないんだが、マイペースすぎるのが難点だ。


◇◇


朱音さんに背を押されて、テストルームの中にある射撃試験場へとたどり着く。

テストルームは、様々な物をテストできるように区画分けがされている。例えば銃などの射撃武器をテストする場合は射撃試験場を。刀や槍などの近接武器のテストをする場合は、近接武器試験場を使用できるようになっている。

他にもあるが対策班が良く利用するのは、この2か所くらいなので他の試験場はあまり知らない。


「それで射撃試験場まで連れてきて、僕に何を手伝わさせようと言うんですか?」

「ふっふっふっ~。それはだね。……これだ!」


朱音さんは白衣のポケットから、ライターを取り出し、こちらに差し出す。

ライターを受け取り、手に持って確認する。見た目はコンビニに売っているような安物のライターにしか見えず、特に変わったところはない。

しかし朱音さんは、自信満々と言わんばかりにドヤ顔をしている。


「……外見上はただの安物のライターにしか見えないんですが……」

「甘い。甘すぎるよ、少年。これは非常に画期的な物なんだよ!」

「?」


そう言うと、朱音さんは射撃試験場にあるボタンを操作する。

すると、射撃レーンの先の標的が動き出し、少しこちらに近づいてくる。


「ほら、一度ホイール部分を回して、火をつけてごらん?」

「え。あ、はい」


朱音さんに言われるがままに火をつける。普通に火がついた。

しかしそれだけ。他に何も起きない。


「火がつきましたけど、これでどうするんですか……って、朱音さん? 何でそんなに離れているんですか?」


朱音さんに確認しようと彼女の方を見ると、何故か僕から距離をとっていた。


「あの? 朱音さん?」

「ほら、少年。早く的の方へ投げないとーーー」


そして両耳を押さえながら言う。満面の笑みを浮かべながら。


「爆発しちゃうよ?」

「!?」


咄嗟に射撃レーンにある標的の方へと投げる。

すると、けたたましい衝撃音と共に標的が爆発四散した。

その光景に啞然としていると、朱音さんは拍手をしながら近づいてきた。


「ブラボー! いや~見事に消し飛んだね! どうだね、少年!」

「どうだねって……そんなことより、爆発するならちゃんと言ってくださいよ!? 危うく僕が消し飛びかけましたよ!?」

「ん? ちゃんと私は言ったじゃないか。早く投げないと爆発するって」


たしかに言ってはいた。でも、事前にではなく直前でだ。


「直前に言ってどうするんですか!? 普通は事前に言うもんでしょ! 段差に気が付かず足を引っ掛けて転びそうな人に「段差に気をつけてね」って言っているようなもんですよ!」

「別にそれでも問題ないだろ? まだ転んでないんだから」

「そう言うことじゃないですよ! 知っているなら先に警告してくださいって話ですよ!」

「む~。君はほんと細かいな。そんな細かい事ばかり気にしているから、いつになっても男らしくならないのだよ」

「それとこれとは関係ないですよ! 常識の話としてです!」


朱音さんは、僕の態度に呆れた様子でため息をついた。

呆れているのはこっちの方だ。危うく死ぬところだったっていうのに、何故僕ではなく、朱音さんが呆れるのかが理解できない。


「(だから、嫌だったんだよ……。朱音さんのテストはいつも命懸けになるんだもん……)」


朱音さんに呼ばれる際は、いつもこんな感じである。

前回は電磁警棒のテストだった。相手に警棒を当てると電気ショックが走るのだが、あまりにも強力すぎて、テスト相手の相沢さんが壁まで吹き飛んだ。ただの電気ショックのはずなのに。(相沢さんは体が丈夫だったので、軽傷で済んでいた。)

もちろんそんなことがしょっちゅう起きるので、朱音さんのテストに好き好んで付き合う人なんて出てくるわけがない。だから、僕がいつも呼び出される。断ってもいいのだが、朱音さんには借りがあるので断れない。


「……はぁ~。それで消し飛んだライターは何だったんですか?」

「よくぞ聞いてくれたな、少年! 」


朱音さんは、待っていましたと言わんばかりに腰に手を当てて胸を張る。

彼女の体のラインが強調されるので少し卑猥に見える。


「これはだね、ただのライターに見えるかもしれないが違うのだよ!」

「……どう違うんですか?」

「それはだね。ライターに見えるが小型の爆弾なんだよ! どうだね! 凄いだろ!」

「……」


そんなことを自信満々に言われても困る。

だって爆発するのだから爆弾なのは当たり前だ。


「……そんなことはさっきの爆発を見ればわかりますよ。 それだけなんですか……?」

「ん? ああ、これだけだ。爆弾なんだから爆発以外に機能なんてあるわけないだろう? 少年、君はバカなのかね?」

「……」


天才とバカは紙一重とよく言うが、まったくその通りだと思う。なぜ、頭が良いのにまともなことを考えられないのか。なぜ、神は彼女に常識を与えてくれなかったのか。


「……まあ、いいでしょう」

「?」

「それで、このライター型の爆弾は何に使うんですか? テロでも起こすつもりですか?」

「テロ? 何をバカなこと言っているのかね。治安を守る側がテロを起こしてどうする。それにテロなんて善良な市民を巻き込むことはしてはいけないだろ。そんな常識も君は忘れてしまっているのかね?」

「……(ああ、神よ。僕はまた罪を犯すかもしれません……)」


朱音さんは、再び呆れたようにため息をついた。


「常識が欠落している少年に教えてあげよう。これは犯人を気絶させて捕まえる為の道具さ! 素晴らしいだろ!」

「……気絶ですか? 死ぬの間違えじゃなくて?」

「ああ、当たり前だろ? 犯人を殺してどうするんだ? 少年……さっきから君はちょっと常識がなさすぎないかね……」

「(ああ、神よ。もうダメかもしれません。罪深き僕をどうかお許しください)」


怒りに肩を震わせる。


「……朱音さん……もう我慢できないかもしれません……」

「我慢? ……っ!? もしやこの素晴らしき発明をした私に欲情でもしてしまったのかい? それは困るな……。君に抱かれるのは嫌ではないが、まだ昼間だ。それにここは職場だぞ? こんな場所でするなんて……君はそういうプレイが好きなのかね?」


朱音さんは、顔を赤らめながら自らの体を抱きしめる。

どうやら、卑猥なことを我慢できないと誤解しているようだ。


「……そうですね。この場でもかまいませんね。ちょっとしゃがんでもらえますか?」

「ほ、本気か!? 嫌ではないとは言ったが……さ、流石に恥ずかしいぞ。でも、君が希望するならしょうがないな……では……いたっ!?」


目の前でしゃがみ込みこちらのズボンに手をかけようとしてくる彼女のこめかみを両手でぐりぐりと締め付ける、


「痛い! や、やめるんだ少年!」


彼女は痛がり、拳を引き離そうとするが離れない。


「ど、どうしてだ! 気持ちよくして欲しかったんじゃないのか!?」

「……ええ、とても気持ちがいいですよ。心がスッキリとしてきます」

「ち、違う! そうじゃなくて、もっと物理的に……ぎゃー!?」


また変なことを言おうとしたので、力を強める。


「しょ、少年!? もしかして使のか!?」

「力ってなんでしょうか? 僕は探知系の異能しかもっていないので、ただの筋力ですよ? 日々鍛えているので見かけ以上に力があるんですよ。……それに……」

「え?」


ぐりぐりするのをやめる。そして涙目になりながらこめかみを押さえている彼女の耳元に顔を近づけて言う。


「……それ以上は言わない約束ですよ? 朱音?」

「っ!?」


耳元から顔を離す。


「わかりましたか、朱音さん?」


そう言うと、朱音さんは何度も頷く。

危うくバレるところであった。


「ふぅ~わかってくれて良かったです」

「……すまなかったな、少年。少々調子にのりすぎたようだ」

「いえ、朱音さんの個性ですから別にかまいませんよ」

「ふふっ。やっぱり君は優しいな。これだからしまうんだよ。まったく罪な男だよ。君は」


朱音さんはやれやれと立ち上がる。


「ともかくです。これでは犯人に対して被害が大きくなってしまうので、もう少し火力を抑えるとかしてください。いいですね?」

「ああ、わかったよ。もっと改良するよ」


どうやら納得してくれたようだ。

時計を確認すると、大分長居をしてしまっていたのか、結構な時間が経っていた。


「それじゃあ、戻りますけどいいですか?」

「ああ、もう君にテストしてもらえたので十分だ。また

「はい。


朱音さんに別れを告げ、部屋を出た。




























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