組んず解れつ
島野助之進の方角へと火花が飛び散る。それを彼は寸でのところで身を翻し回避したのち、周りの取り巻きの者の後ろへと飛び込んだ。その口元に、『失敬!』という言葉が迸る。
『どわあ!!』と彼をとりかこみ太刀をもって立ちはだかっていた彼らは煮えたぎった油のように慌て、飛んでくる火花を避けるが間に合わない。ボシュウという音ともに、脂ぎった肉体に火がともる。
『おのれ!図ったな!』とは取り巻きのひとりのセリフである。しかし、島野助之進からしてみれば、図ったのはそちらの方であろうという反論が持ち上がる。彼は間違っていない。
『おぬしら、日ごろの行いが良くないのだ。』とは岡持ち砲の持ち主のセリフであるが、しかしこの男も乱暴なものだ。
『致し方なし!出あえ!姑息な手になどおじけづくな!たとえこの身燃えようとも果敢に挑むのだ!』と誰かが叫び、わらわらと島野助之進に向かって進み出る。
『呑気な愚鈍どもじゃ。成敗!』と彼はつぶやき、能書きの多い雑多なその男たちを脇差の抜刀術で一刀両断。一気に5名ほど切り伏せた。
『ややッ!せっかくの肉の壁を斬り捨てるとはお主たわけたものじゃ!』とは岡持ち砲改め火筒の者の言葉である。この男、周りの男がどうなろうと関係ない、ただ敵を切り伏せられればいいという心持である。なるほど、彼は気が触れているのだ。
『武士の名に恥じぬよう、一対一で戦っては如何か。それともお主、気が違うたか?』と島野助之進は質問するが、狂人に問うても仕方はあるまい。
『儂には明日はない。そのため、何をしてもええんじゃあ!』と火砲者はその砲台を胸元に下ろし、抱えたまま、突進してきた。つまりは、火柱をできるだけ至近距離で浴びせたいという狂気である。
『落ち着かれい!』と叫びつつ男の脳天を飛び越えて一太刀をきらめかせた島野助之進。切れ味鋭い刃は当たったか?
『貴様…。逃げ足だけは早いものよのう。逃げていては、埒があかんぞえええ…?』と言った火砲者は言葉とは裏腹に足をよろめかせ、その後口をあんぐりあけ、ぱくぱくと空気を食むような動きを見せた。
なるほど、脳天を太刀筋は捉えたらしい、時間経過とともに攻撃の影響は広がっている。『あたたたたた…うおっとたっと…。』と言葉にならない音を発し、よろめいている。
『よいか、お主の脳天の大事な部分を切り伏せた。そなたはもはや、平衡感覚を保てはせん。卑怯な武器を使った罰じゃ。じっくり死ね。』と島野助之進は言い切った。
『だだだだ。おおおおお。』とまだ火砲男はよろめいている。手に持った火砲の方向が乱れる。そして、胸にある火種用の火打石が時々摺れる。
そして。
火砲にはついに火が点き、その砲口は男の方を向いた。そして火を噴く。
ドーンという音とともに、男は倶利伽羅峠の谷に落ちて行った。
『ふう…。ってなんで俺はこんな口調で喋れるんだ?!』と島野助之進は思わず口走った。その意識はゲームクリアとともに別の場所へと飛ばされる。
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