第2話 「画面の向こうから来るもの」
配信を切ったはずのスマホが、まだ温かかった。
あかりは机に置かれたそれを見下ろしながら、ゆっくり息を吐く。
「……さっきの、やっぱ変だったよね」
「うん。絶対、バグじゃない」
れいなは教室の後方を見たまま、視線を動かさない。
黒板、掃除用具入れ、カーテンの影。
どれも“普通”なのに、何かが足りない気がした。
――いるはずのものが、隠れている。
スマホが、勝手に震えた。
「え、ちょ、配信切ったよね?」
画面が点灯する。
配信アプリは開いていない。
それなのに、カメラ映像だけが表示されていた。
コメント欄は、ない。
代わりに、画面の奥が、ゆっくりと歪み始める。
「……れいな、見ないで」
あかりの声は震えていた。
だが、れいなは目を逸らせなかった。
教室の映像の中で、
“影”が、明らかに形を持ち始めていた。
腕。
いや、腕のようなもの。
関節の位置がおかしい。
影なのに、こちらを掴もうとしている。
「……来る」
れいながそう呟いた瞬間、
スマホのスピーカーから、低い音が漏れた。
――ズ、ズズ……。
教室の空気が、重く沈む。
床に落ちた影が、現実の床を這う。
「やだ……これ、出てくる……!」
あかりが後ずさる。
影の“腕”が、机の脚に絡みついた。
その瞬間――
「下がれ!」
聞き慣れない、男の声。
同時に、画面の中から、光が走った。
金属音。
影が、弾かれる。
教室と、画面の境界が、完全に崩れた。
「……配信、始まってないよね」
れいなの問いに、
誰も答えなかった。
代わりに、
“何か”が、確かにそこにいた。
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