百合の夢見る世界の先で

滝川 海老郎

百合の夢見る世界の先で

 いつもこの悪夢を見る。

 正夢、だとは思っていない。

 こんな未来、受け入れられない。


 それは私ハルと、恋人のミユキの二人が、強敵に負けてミユキが死んでしまうシーンでいつも終わっている。


「ミユキ! ミユキ!」

「ハルちゃん、ごめんね」

「いいから、絶対に、死なせない」

「私はもう、無理かも……」

「そんな、ミユキ」

「じゃあね、ばいばい」



 ハッとして目が覚める。

 まだ、自宅の二階だ。目覚まし時計は午前4時15分。

 カレンダーの日付は4月15日。

 ライトは小さな常夜灯がついていて、部屋をぼんやりと照らしている。

 小さなテレビにパソコン、机に椅子、そしてミユキとのツーショット写真。


「ふぅ、普通に家じゃん」


 誰にでもなく、そういう。

 いつも見る悪夢は明晰夢、つまり夢だと分かり切っているのに、妙なリアリティがあって私はドキドキとしていた。

 まだ私たちは付き合ってはいない。

 そして、二人とも生きているはずだ。


 安心した私は再び眠りについた。



 そうして朝のバタバタでミユキが迎えに来る。

 こんなに幸せなことはない。

 ちゃんと生きていてうれしい。


「おはよう、ハルちゃん」

「ミユキ、うれしい」


 私が目に涙を浮かべて、ミユキに抱き着くと背中をよしよししてくれる。

 そのまましばらく抱き合ってミユキニウムを補充したら学校へと向かう。

 セーラー服を着て、ミニスカートをはいて。

 今日も普通の女子高生だ。見た目的には。


 学校に行くまでニヤニヤして二人で登校して、学校では席が離れていてしょんぼりする。

 それでも放課後になれば、また二人っきりになれる。


 そうやって今日も、幸せを享受しようとしたその時。


「え、なに、こ、れ」

「え、まさか、異世界転移」

「転移ってそんなばかな」

「でも、ほら、この光」


 そういってる間に吸い込まれていく。

 私とミユキは異世界に転送されてしまったのだ。


「どうしよう。ミユキ、死んじゃだめ」

「私は、普通に生きてるけど?」

「そうじゃないの、でも、まあ、いいや」

「もうハルちゃんは甘えんぼなんだから」

「えへへ」


 頭をグリグリすると、だんだん落ち着いてきた。

 この世界は間違いなく、あの夢の中の世界だ。

 本当に、正夢だったのだろうか。

 でもそうだとしたら、私たちの運命は引き裂かれて、ミユキが死んでしまう。

 そんなの許せない。


「ミユキ、冒険者ギルドいこう。どんどん強くなって勝つんだ」

「どうしたの? 急にやる気になって」

「他に選択肢はないわ」

「まあ、やる気になったのならいいか」


 そういうんじゃないんだよ。

 でもこれを説明できない。怖いから。


 こうして私たちは冒険を始めた。

 スライムは弱くて、気合い負けだった。

 これならホーンラビットは楽勝だ。

 次の戦場を駆けまわる私に、ミユキがあきれ顔でついてくる。


「もう、ハルちゃんはしょうがないなぁ」

「ささ、次の戦闘だよ」

「もうー」


 こうしてだんだん強くなっていく実感があった。

 そして、次はゴブリン。


「ていやぁ」

「うりゃあ」


 二人で剣で戦う。

 魔法はよくわからなくて、使っていない。

 適性があるかも不明だった。


 ゴブリンは知能が少しだけ高く、武器を扱うので、ラビットより明確に強い。

 私たちは多少苦戦しつつも、戦闘を繰り返し、体に覚えさせていった。


「勝ったわ」

「うん、ハルちゃん、いいこいいこ」

「えへへ」


 こうして次第に強い魔物とも戦闘を繰り広げていく日々を送った。

 そんなある日、教会へと足を運んだのだ。


「ハルさんは黒魔法が、ミユキさんが白魔法が得意ですね」

「そうなんですか?」

「そうなんだ、やった」


 私は無条件に喜んだ。

 今まで、剣だけだったのに、魔法が使えるならラッキーと思ったのだ。


「えいやー。ファイヤー」

「えいえい」

「あう、ダメージ食らった」

「いきますよ。ヒール」


 ミユキのヒールは的確で、私を癒してくれていた。

 私は前衛ポジションに収まり、攻撃担当、回復はミユキがやってくれる。

 こうして役割が明確になって、余裕だと思っていたのだ。


 そんなある日。


「つ、強い……」


 それはキング・スケルトン戦だった。

 私は競り負け、後ろに押されてしまう。

 その隙に、スケルトンはミユキに手を出して、剣を振りかざしていた。


「だ、だめ!」

「うわああ、ああ」


 ミユキが血を流しながら倒れていく。

 私は、そう、魔法は攻撃魔法しか使えない。


「えええええいいいやああああ」


 全力で切りかかり、なんとか倒したのだけど、ミユキはぐったりと地面に横たわる」


「ミユキ! ミユキ!」

「ハルちゃん、ごめんね」

「いいから、絶対に、死なせない」

「私はもう、無理かも……」

「そんな、ミユキ」

「じゃあね、ばいばい」


 あの日見た夢だ。

 そんな!


「ああああああああああああああああ」


 次の瞬間、私はぱちりと目を開ける。

 まだ、自宅の二階だ。目覚まし時計は午前4時15分。

 カレンダーの日付は4月15日。


「あ、れ、戻ってる……」


 タイムリープなのだろうか。

 そうしてそわそわして朝を迎えた。


「ふぁああ」

「もう、ハルちゃん、寝不足?」

「うん、まあ。おはよう」

「おはようございます。学校行きますよ」

「うんっ」


 こうして私は生活を再開できるのかも、と思ったのだけど。

 やはり夕方。


 魔法陣が発生し、私たちを吸い込んでいく。


「くそぉお、魔法陣」

「異世界、転移?」

「そう、転移だよ」


 また異世界の生活が始まった。

 今度こそは、こんどこそ……。

 私は決意を胸に、今度はどうしたら二人とも生き残れるか、考えだした。

 しばらくは同じように進めていたのだけど、それではダメだ。


「そうだ。魔法だ」

「魔法がどうかしたの?」

「教会行こう?」

「いいよ?」


 二人で教会に行く。


「ハルさんは黒魔法が、ミユキさんが白魔法が得意ですね」

「そうなんですか?」

「うん。でも私、白魔法も覚えたい」

「よくばりだねぇ、ハルちゃん」

「いいの、ぜったい覚えるもん」


 私は来る日も、来る日も、ヒールの練習を続けた。

 もちろん普通の戦闘は前回同様にこなしていく。


 そんなある日。


「ヒール」


 ついに、魔法が発動したのだ。


「やった! やったよ、ミユキ!」

「おめでとう! でもヒールなら私が使えるよ?」

「それじゃだめなの。いいのよ」

「そうなんだ」


 ミユキはよく分かっていないような顔で、それでも祝福してくれた。

 そうして戦い続けること何日もして。


「つ、強い……」


 それはキング・スケルトン戦だった。またやってきたのだ。

 私は競り負け、後ろに押されてしまう。

 その隙に、スケルトンはミユキに手を出して、剣を振りかざしていた。


「だ、だめ!」

「うわああ、ああ」


 ミユキが血を流しながら倒れていく。


「ううわあああああ、いけえええええ」


 またしてもミユキがやられてしまい、なんとかカウンターを叩きこんで、スケルトンを倒す。

 そしてミユキに歩み寄る。


「ごめんね、私。ハルちゃん」

「いいんだよ。私だってヒール使えるから」

「そういえば、そうだったね」

「ヒール! いっけえええええ」


 こうしてしばらくして、ミユキが目を覚ました。


「起きた!」

「ハルちゃん」

「ミユキ、ミユキ、ミユキ、私のミユキ」

「そうだよー。ミユキだよぉ」

「よかった!」


 こうして、危機を乗り越え、二人で再び立てることができた。

 そう、二人は一緒だ。

 いついかなるときも。


 これからも二人で乗り越えていくと、誓い合った。

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