第4話 じいやの陰謀

「……ひとまず」


 僕は手を叩いた。


「全員、ケガはないな?」


「うん。大丈夫」


「え、ええ……問題ありませんわ」


 よし。

 部屋はボロボロだけど、人は無事。


「じゃあ、次。状況を整理しよう――この部屋は、もう住めない」


「だよね……」


 悠真もさすがに否定しなかった。


「で、エレオノーラさん」


 視線を向けると、彼女は少し申し訳なさそうに首を横に振る。


「帰る場所は……ありませんわ。

 わたくし、異世界から来ましたもの」


「うん、ですよね」


「つまり」


 指を一本立てる。


「エレオノーラさんは、住む場所がない」


 もう一本。


「佐藤くんも、この部屋では暮らせない」


 そして――心の中で三本目。


 そして何より。

 このふたりを、これ以上近づけてはいけない。


 危ない。

 さっきの流れは本当に危なかった。


 弱ってる女の子×優しい男。

 この組み合わせは世界を滅ぼす。


「……よし」


 僕はスマホを取り出した。


「じいやに連絡する」


 短縮番号1番。

 ワンコールで繋がる。


『はい。じいやでございます』


 僕は端的にじいやに状況の説明をし、結論を伝える。


「なので、佐藤さんは僕の家に。 エレオノーラさんには住まいの手配を。大至急で頼む」


『かしこまりました』


「え?」


 悠真が目を丸くする。


「え、鳳城くんの家?」


「そう。空き部屋あるし、今夜はそこが一番安全だよ」


 冷静。

 論理的。

 完璧な言い訳。


(心の声)

 同棲!! 同棲!!

 ずっと憧れてたやつ!!

 エレオノーラ、グッジョブ!!

 君の魔法、最高の一撃だ!!


 もちろん、顔には出さない。


『承知いたしました。では――』


 スマホ越しのじいやの声が、ほんの少しだけ弾んだ。


『お探ししましたが……エレオノーラ様が、今すぐ使用できるお部屋が見つかりませんでした』


「……え?」


 反射的に声が出た。


『年末ということもあり、条件に合う物件がすべて埋まっておりまして』


 いや、待って。


 僕、さっきからずっと電話してたよね?


 探してないよね?


 今この通話中、一歩も動いてないよね?


『よって』


 じいやは間を置き、満を持して続ける。


『六本木の鳳城キャッスルレジデンスで、まとめてお住まいになるのが最善かと』


「……まとめて?」


『はい。移動も管理も楽でございます』


 悠真とエレオノーラが、同時にこちらを見る。


 僕は一瞬、思考が止まった。


 三人で同居。

 ……いや、まずい。


 いや、でも――


(悠真と同じ屋根の下……!)


 そこまで考えたところで、横から声が入る。


「……あのさ」


 悠真だ。


「鳳城くんが無理しなくても、ボクの実家にって手もあると思うんだけど……」


「え?」


「ちょっと狭いけど、エレオノーラさんも一緒に――」


 ――ダメだ。


 その選択肢は、

 ダメだ。


 悠真の実家。

 家族。

 地元。

 安心感。


 そこにエレオノーラが入ったら、

 好感度イベントが連続発生する未来しか見えない。


「だ、だめだ!!」


 思わず声を張り上げてしまった。

 二人が驚いてこちらを見る。


「それは……非効率だ」


 必死に理屈を探す。


「移動距離、生活導線、セキュリティ……総合的に考えて最善ではない」


「そ、そうかな?」


「そうだ。だから――」


 僕はスマホを握りしめたまま、言い切った。


「三人で、僕の家に住もう」


 言ってしまった。


 悠真が一瞬きょとんとしてから、苦笑する。


「まぁ、それがいいか」


 エレオノーラも、深く頭を下げた。


「本当に……ありがとうございますわ」


(……やった)


 心の奥で、小さくガッツポーズ。


 悠真と同じ屋根の下。

 これ以上ない口実。

 エレオノーラは……まあ、想定外だけど。


『では、すぐに準備を整えます』


 じいやの声が、どこか満足そうに聞こえた。


 ……絶対、最初からこの展開狙ってたよね?


 こうして僕は、憧れの同棲と、予想外の同居人を同時に手に入れることになった。


 ――恋は、油断するとすぐ増える。





――――――――――――――――


お読みいただきありがとうございます、久澄くずみゆうです。


じいや、何を考えているんでしょうね?

隼人は夢に近づいたのか遠のいたのか。大変そうですね。


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次回、「完璧な自己処理」。 お楽しみに!

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