第2話 能ある鷹はなんとやら
昔からある家だから無駄に広い。学校が近くにあるため土地開発の話があったと聞いている。それでも「土地の守り」も任されているために気が付けば地元の人には「守り主様」と言われていたりする。
江戸時代ごろに土地を襲った災厄から守ったのが由来らしい。
「おかえりなさいませ、ぼっちゃま」
安倍家に仕えている
家政婦のような仕事をしている老婆に逆らうと嫌いな食材がこっそりと食事に入れられるという実体験もあるので基本的に逆らわない。
宮塚家の一族は結界に秀でているため門番の役割も果たしている。本来は家政婦の仕事をしなくていいのだが、宮は変わり者だった。まぁ仕事で家を空けることが多い母さんの代わりに家事をしてくれているのは助かる。
「ぼっちゃまはやめろ」
気配を消して家の中に入ってきたはずなのに。当然の如く玄関前で待っている。
「……晶様はお怒りですし、旦那様は今晩の修行の内容を考えておいでですが、いかがいたしましょうか?」
「どちらにも会いたくないが、親父から挨拶してくるか」
宮は俺から鞄を受け取る。着替えて向かうべきなのかもしれないが門限を破ってしまったため
☆★☆
「それと、ぼっちゃま」
廊下を歩き出したぼっちゃまには声が届いていないと思う。それでも言葉をかけたくなった。
まだ若く未熟なぼっちゃま。本来の力ならば貴方が当主となるはずだったのに、その強すぎる力のせいで不自由を強いられている、可哀想な方。
器がしっかりすれば力をお返しできるのに。彼は今の状況に満足している。
いや、当主になるつもりがないのだ。有り余る力を使ったのは晶様が生まれるとき。あの時術式は美しく、鳥肌がたった。
ああ、長く生きていてよかったと。
「急いでおいでだったのか
この後晶様がどれほど心配されているか、その裏返しで怒られていることを本人は知らない。
本来の二割ほどの力しか使えず、少しでも強い妖怪に出会えば命の保証がない。
使役を迎えていないぼっちゃま。二割ほどの力でも誰かしら迎えることはできるというのに、本人はそれをしないのだ。
「ばあやがお守りできるのも、限界があります」
この肉体が尽き果ててしまったら、さて次の器をどうしようか。
宮塚家初代の私にしか安倍家に仕えることができない呪いをかけた初代様。
初めの頃は恨んだが、今は楽しく過ごしている。
妖狐の血を色濃く継いでいる貴方様を、心から敬愛しております。
彼の方に似た、瞳がばあやは大好きなのだ。
☆★☆
親父がいつもいるのは家の最奥の間だ。その奥にも襖が続いており、修行空間へと繋がっている。
自分の家、化け屋敷じゃね?と思ってしまうことがあるが、妖狐の血を継いでいるのだ。ご先祖様がそういった屋敷を作っていたとしても不思議ではない。
襖の前にはいつも親父の使役が控えているのだが、今日は姿がない。
「ただいま戻りました」
「……
入りたくない!と駄々をこねられる雰囲気ではないので俺は大人しく部屋の中に入った。
厳粛な父。母さんとは恋愛結婚だと聞いているのだが、俺はそれは嘘だと思っている。いつも眉間に皺を寄せているような男と、年齢不詳の美少女のような母とが恋に落ちたのか。
俺もいつか親父みたいな厳つい男になってしまうのか?と親父を見るたびに思ってしまう。
「何を言われるか、想像つくか?」
十畳ほどの広さの部屋の中央に親父がいて、その正面に座布団が置いてあったので座る。
「子どもの霊と遊んでいたことでしょうか?」
俺なりの除霊の段取りだったのだ。強い力を使わなくても祓えることを証明したいし、何より子どもの魂に傷を付けたくなかった。
「……それは別に問題ない。あるとすればどうして結界の中に侵入者を許したのか、それに限る。力が弱くとも、結界についてはお前に教えてきたはずだ。普段から、腑抜けているからいけないんだと、周囲に言わせる隙を作るな」
「わかっています」
俺のことを理解して甘やかしてくれているのは知っている。母さんが「癒しの巫女」として各地で化け屋敷の被害にあった一般人の心を癒していることを理解している。
「……お前の意思を汲んでいるつもりだ。晶が無事に生まれたのは清春が尽力を尽くしたから。その事実を公にするつもりはないのか?言えば大抵の悪口はふさぐことができるんだが」
「俺は影にいたい人間んです。あの時の怪我のせいで力は思うように使えません」
嘘だ。むしろ晶が生まれるときに力の使い方を熟知したんだ。一歩間違えればどちらも死ぬほど状況だったから。
「そうか。だったら今日の修行は厳しいぞ」
「俺を跡取りから外すってことは考えていないんですか?」
当主候補は晶だと明言をしていない。周囲が勝手に騒いでいることだと、親父が言っていた。食えない親父だと自分の父親に対して思ってしまう。
「子どもたちを平等に扱うというのが、我が家の家訓だ。力があろうがなかろうが、それは関係ない。真実を言うつもりのない者がそれ以上口に出すことは許さない」
「分かりました」
「そこは『なら、当主になるために、周囲を黙らせます』ではないのか?」
「晶を支えると決めているのです」
「その頑固さは誰に似たんだか」
「誉め言葉として受け取っておきます」
「晶のところに顔を出したのか?」
「これからです。一番に当主のところに顔を出しました」
「そうか。なら早く行ってやれ」
☆★☆
「兄様、遅いですわ」
「ごめん」
「くんくん……知らない
どっちだ。慌てて帰ってきたから匂いを消すのを忘れていたかもしれない。
「これには深いわけがあってだな」
「知っていますわ。ここ一週間帰りが遅かった理由も、その原因がこの霊力だということも」
「俺ってやっぱり駄目なんかな」
「何を言っているんですの?私の兄様がダメなはずないんですのよ。兄様をいじめる奴は私が消してあげますわ」
本当にやりかねない。
学校の友達がいるのか聞いたときに「舎弟ですか?」と真顔で言ってきたのを今でも覚えている。歳の離れた妹はとても可愛い。
俺が当主になりたくないのも知っている。俺の本来の力を理解されていないことに激怒しているのだ。だから時折「お兄様を当主にすればいいのでは?」と言い始めることもある。
「私の命は兄様に助けられました。だから私は恩返しをしたいのです。でも私と遊ばないで他の霊と仲良くしているのは許しません」
「……晶、力のある人間は弱い者を守らなきゃいけないんだ」
「知っておりますわ」
「今回の件も……」
「ええ。十分理解した上でどういて手っ取り早い解決策を選ばなかったのか、私と遊んでくれなかったのかを怒っているんです」
「ほら、俺、母さんに似て癒しの力の方が強いだろう?祓うよりもいいかなって」
「兄様の力の使い方はとても綺麗なんです」
今日の晶はご機嫌斜めだ。当主である親父に先に挨拶をしたことを怒っているわけではなさそうだ。
「兄様が祓うところ、美しいんですもん。見たいじゃないですか」
「ただ燃やしてるだけだぞ?」
今日のヤツに関しては時間もなかったからパパッと燃やして終わらせたと記憶している。
「晶だけだよ、俺の炎のことを綺麗だというのは」
「何をいっているんですの?兄様の炎は一番綺麗なんです。それを解らない奴らを懲らしめますわ」
「やめてくれ」
「今日、遊んでもらえなかった分は、後日きっちりお願いしますわね」
「ああ」
安易に約束をするべきではなかったのだ。
晶の修行に付き合う羽目になるとはこのときは想像していなかった。
【和風ダンジョン】化け屋敷〜猫又編〜 真綾 @masagow
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