【和風ダンジョン】化け屋敷〜猫又編〜
真綾
第1話 平穏な高校生活を歩みたい人生でした
「高校生にもなって、門限18時って早過ぎだろう……」
俺は通学路を走っていた。
入学して二か月が過ぎ、普段は誰にも話しかけられずに下校していたのだが、今日に限って先生にノートを集めるのを頼まれ、なぜかその流れで花壇の手入れを手伝うハメになった。
曰く「安倍くんが携わるものはいい流れになる」かららしい。間違いじゃない。隠していたはずの特性がバレている。力のない人間でも長年の勘が芽生える人間がいる。多分先生はそれだろう。
学校から自宅まで徒歩15分。学校おを出たのが17時30分過ぎだったから、何もなければ門限に間に合うはずだ。
本当は高校生になった暁にはバイトをしようと計画をしていた。早く家から出て独り立ちしたいので、そのための軍資金を貯めたかったのだ。このまま行くと計画倒れになりそうだから気をつけなければ。時間はあっという間に過ぎていく。油断していたら何も成し遂げられなくて人生が終わってしまう。
自宅までの道のりは右に左に何度か曲がる。学校の近くに住宅街があり、家からも近いため子どもの頃よく遊んだ公園が見えてきた。
6月も過ぎ、まだ空は明るいのに一人でうずくまっている男の子が見えてきた。男の子意外公園には誰もいなく、滑り台や鉄棒などが何かを語っているように見えた。
「家に、帰らないと、親父に怒られる……」
いや、高校受験があるから‼︎と言って懐いている妹の
自ら面倒ごとに足を突っ込む必要がないのに飛び込んでいって、更に面倒臭いことになってお父様に怒られるのまでがワンセットの兄様の面倒見のいいところが大好きなんですけど、晶は怒っていますよ?
後に晶に怒られたとしても逃げ切れると信じていたこの時の自分が憎かった。
「どうした?少年」
☆★☆
後悔という字は後に悔やむと書く。
学校帰りに毎日小学生くらいの子と公園で遊ぶこと一週間。今まで学校が終わってまっすぐ帰っていたのに、急に門限ギリギリに帰る俺を両親は咎めない。母さんはいつも以上にニコニコしているだけで、親父は無言。晶は何か言いたそうに視線を向けてくることが多くなったが、その視線が痛い。顔が整っていて日本人形のような黒髪は腰まで伸ばしており、身内の俺から見てもとても可愛い顔立ちをしている。そんな妹が目を見開き、表情は真顔。
呪われるんじゃないかって思ってしまう。
公園には二人きり。住宅街にある公園だが少年以外誰もいない。
高校の制服を着ているので、誰にも会わない方が好都合なのだが、馴染みのある静けさにどういたものかと悩んでしまう。
『お兄ちゃん?』
砂場で山を作っている手が止まっているのに気がついたのか、少年は俺の顔をしたから覗き込む。
「おいやめろ。俺のことは
『知らないヒトに名前を教えちゃダメなんじゃなかったっけ?個人情報って言うんだよ、お兄ちゃん』
思っていたよりも表情豊かで、声をかけたときは警戒されていたが、一週間も遊べば友達のように仲良くなった。
「大丈夫。俺は強いから名前位知られてもへっちゃらなんだ。だからいいか、俺のことを名前で呼ぶんだ」
『わかったよ、お兄ちゃん』
子どもの学習能力、いや覚える気がない場合の対処法が知りたい。
声をかけたときは一人でうずくまっていた。少年は自分のことを全く覚えておらず、公園にいたからとりあえず遊んで、楽しい記憶から何かしら見つけ出せたらと思っている。登校するときは姿を見かけない。力の弱い妖は身を隠すことを得意としている。だからこの少年も隠れているのだと思っているのだ。
俺以外の人間に見つかってしまったら容赦なく祓われてしまう可能性がある。
妖怪たちが自分の空間を作り悪さをする「化け屋敷」が出現するようになってからピリついている者の方が多いのだ。
「……
10歳離れた妹の晶は一族の中でも力の高い。生まれるときにその霊力の高さから鬼を呼び寄せそうになっていたのを父親と力を合わせて止めたのを昨日のように覚えている。
晶が生まれるときに力を根こそぎ無くした俺は「出来損ない」として妹と比べられている。生まれる前からの記憶を持っている晶は俺のことを命の恩人だと言っている。
俺だけじゃなくて親父も頑張ってたんだけどなぁ。
『お兄ちゃん、また何か考え事してる?』
「悪い、悪い。妹のこと考えてたんだ」
『僕と遊ぶよりも、妹と遊びたい?』
「いや、晶は修行で忙しいし大丈夫」
本当は大丈夫じゃない。
日本列島における結界は年々弱くなっている。そのせいで「化け屋敷」が増えているので血統で力を継承していく一族だけでなく、修行をしてある一定の「祓い」の力を見出せる人間も駆り出されている。
報酬がいいのも理由の一つだろうが、それは死と隣り合わせだからだ。
霊力がなくても化け屋敷には招き入れられてしまうこともあるし、少年のような弱い霊が厄を吸いすぎて、悪霊に変化してしまうこともある。
それを未然に防ぐのも我が家業、陰陽師の仕事の一つなのだが……。
俺は落ちこぼれだ。
確かに祓いの力はあるが、うまく使いこなせない。
その使いこなせない感覚を親父に話しても「うん、頑張れぇ」としか言われない。晶に対して厳しすぎる修行をしている気もしたが、後継者として認められているから仕方のないことなのだ。
長子が一族を率いるとは限らない。実力社会のため、力のあるやつがやればいいのだ。
『今日のお兄ちゃん、やっぱり変だよ』
「少年は、他人のことを心配できるいい子なんだな」
わしゃわしゃと頭を撫でる。
公園で少年と会うときは結界を張っている。あの世とこの世の境目を万が一普通の人が見てしまったら、その人の均衡が崩れる。
視えない人は一生視えなくていい。表裏一体のこの世界の真実は複雑怪奇で、視えている自分ですら不可思議でならないのだ。
嬉しそうに頭を撫で回されている少年。どうして一人でここにいるのか、基本的に弱い霊とは会わない俺とどうしても会っているのか。
均衡を崩してしまえば学校帰りに寄り道しなくていい。晶に怒られる心配もなくなる。
「っと、おいおいおい」
平穏は自分の予定とは裏腹に突然終わる。
ザワザワと、草木さえも揺れるはずがない俺の張った結界の中で、音がする。
誰も入り込まないように、この子の憂いが晴れるために時間を割いているというのに。
俺がわざわざ正規の手順で除霊をしようとしたのに。
魂に傷がつかないように、来世こそは楽しい人生を歩んで欲しい願をこめたというのに。
晶が俺のことを優しいと評価し、親父にはだから当主には据えられないと言われた理由。晶は身内以外には容赦がない。
『ヤット、ミツケタ』
それは、悪霊と呼ばれるモノ。
形を保つことができない存在で、ただ思念の塊で人間だったのか、一人の人格なのか何も分からないモノ。
「いや、あの子と遊ぶための結界のバランスが本当に難しい……」
『霊力ヨコセ。強クナル』
「俺の霊力美味しくないよ?」
妖狐の力は美味しくない。
いや、かの有名な妖狐の血だ。そんじょそこらの弱い霊が受け止められるほどの霊力のわけがない。
『お兄ちゃん怖いよ』
俺の腰にしがみつく少年には目もくれず、形を保つことのできないモヤは化け屋敷まで構えるほどの力もなく、ただ、突き動かされているのは何の執着からか。
「大丈夫、俺が守るよ」
そのためにそばにいたんだから。
俺が成仏をちゃんとさせると決めたのだから、途中で放り出したりはしない。
『強クナル、強クナル……』
生前強さにこだわる何かがあったのだろう。強さと優しさは紙一重だと教えられていた。俺にはその強さが足りないのだけど。
少年の魂を一緒に祓うわけにもいかない。
「少年、離れていてくれ」
『分かった』
離れた少年に結界を張る。
「時間かかるのは嫌なので、サクッと仕留めちゃうけど、来世ではどうぞお幸せに」
『何ヲ言ッテイル?』
モヤの周囲に炎が立ち上る。
落ちこぼれだとしても安部の血が流れているおかげで、浄化の炎を出すことは容易い。
『アアアア』
「熱いかもしれないけど、すぐ終わるし、これが一番苦しくないんだ」
輪廻転生の道に行く前に穢れを落としておけばその分生まれ変わりやすい。
ただ祓うだけでは苦しんでいる姿を見て、少年が成仏を嫌がるかもしれないと思った。
『クソ、クソ、クソォォォォ』
断末魔にしてはあまりにお粗末な思念の塊であるモヤは少しの焦げ臭さだけを残して姿を消した。
『お兄ちゃん』
駆け寄ってきた少年の顔は不安そうで、俺は傷ができていないか確認する意味も込めて頭を撫でた。
「大丈夫。怪我ないか?」
『うん。僕のせい?』
モヤがいたあたりに視線を向ける少年。
「違う、あいつは力を欲していたから狙いは俺だな」
『……僕,お家に帰る。そうしたらお兄ちゃんのこと傷つけずに済むもんね』
「少年?」
名前をまだ聞いていなかった。縁が結ばれていなければ生まれ変わった後に見つけ出すことはできない。
『お兄ちゃん、遊んでくれてありがとう。僕嬉しかった。優しいお兄ちゃんに見合う人になりたい』
「なれるよ」
『ありがとう……』
その言葉と共に少年は姿を消した。
俺が力を使ったことは多分、バレている。
家に帰ったらお小言かなぁ。むやみやたらに能力を使うなと言われているが、まあいいか。
ピロロロン♪
メッセージアプリの着信音。俺は携帯を手に取る。
18時01分
ーお兄様、いつお帰りになるんですか?
「やべ、走って帰らないと‼」
陰陽師として一仕事をしたはずなのに、どうしてツイてないんだ‼
☆★☆
初めて優しくされた。生きていたときは、誰も僕の声を聞いてくれなかったし、見向きもしてくれなかった。
ずっとずっと、不思議だった。
みんな同じ人間のはずなのに、どうして僕だけダメなのって思っていた。
お兄ちゃんは優しかった。
一人で遊んでいる僕を見つけてくれた。
すっごく強いお兄ちゃん。
守ってくれた。
でも、妹がいるって言ってたな?
いなくなったら僕を弟にしてくれるかな?
それとも強くなったらずっとそばにいることができるかなぁ。
でも僕は子どもだ。なんの力もなくて、非力だ。
ニャァ。
ああそうか、僕より弱いモノを倒して力を蓄えればいいんだ。
お兄ちゃんのそばにいたい。
独りはもう、嫌だよ。
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