第3話
噴き上がった水柱は、灼熱の太陽を浴びて虹の架け橋を作った。 それは絶望に沈んでいた荒野に、初めて訪れた「生命」の予感だった。
「わ、わああ……お水、お水ですわ! ではなく、お水です! ライド様!」
興奮のあまり、エルナが歓喜の声を上げる。 泥まみれだった彼女の顔が、噴水の飛沫で洗われ、本来の美しさが顔を覗かせていた。
「ふん、当然の結果だ。計算通りだよ」
俺は鼻を鳴らし、あえて傲慢な態度を崩さなかった。 内心では(やったあああ! 飲める! これでとりあえず脱水死のルートは回避したぞ!)と、小躍りしたい気分だったが、領主としての威厳(と、いつか断頭台に送られないためのカリスマ性)を保つのに必死だった。
彼は懐から、例の「血染めの記録帳」を取り出す。 パラパラと血に汚れたページをめくると、文字がじわじわと浮かび上がってきた。
【アカード領:復興状況】 水源: 確保。 次の課題: 住居、および食料生産体制の構築。 推奨スカウト対象: 「呪われた建築家」ハンス。 現在地: 隣接する領地の強制労働キャンプ。
(建築家ハンス……。記録帳によれば、奴は『悪魔の巣窟』のような禍々しい城ばかり建てるとして追放されるが、その実体は魔導力学を極めた天才だ。奴がいれば、この荒野を難攻不落の要塞都市に変えられる!)
「よし、エルナ、御者の爺さん。少し移動するぞ。この荒野に相応しい『家』を建てられる男を拾いに行く」
「は、はいっ! どこまでもついていきますわ、ライド様!」
純粋すぎるエルナの瞳が、眩しいほどに俺を直視する。 (……なんだか、ものすごく信頼されている気がする。これなら将来、彼女に蒸発させられる心配はないだろう。たぶん。おそらく)
†
俺たちが向かったのは、隣領の辺境にある劣悪な開拓村だった。 そこでは、一人の男が泥にまみれて石を運んでいた。
「おい、ハンス。またそんな奇妙な組み方をして! だからお前は『呪われている』と言われるんだ。まともに石畳も敷けんのか!」
村長らしき男が、ハンスという青年に鞭を振るおうとした瞬間。
「その手を止めろ。私の領民に傷をつけることは許さんぞ」
冷ややかな声と共に、俺が馬車から降り立った。 その背後には、護衛のふりをした「伝説の暗殺者」の爺さんと、無意識に凄まじい魔力を垂れ流しているエルナが控えている。
「あ、悪徳……いや、ライド・フォン・アルカード様!? なぜ、このような場所に……」
村長が震え上がる中、俺はハンスに歩み寄り、【鑑定眼】を発動させた。
【鑑定対象:ハンス】 評価: 無能な石工(迷信による評価) 真実: 【魔導建築の神子】。彼が組む石積みはすべて幾何学的に魔力の流れを制御しており、その建物は物理的な破壊はおろか、最上級の攻撃魔法すら跳ね返す。 現在の心境: 自分の理論を誰も理解してくれず、絶望している。
俺は、ハンスが組んでいた「奇妙な石積み」を指さした。
「……美しいな。地脈の歪みを計算し、重力を分散させる……この『対魔導構造』を理解できる者が、この国にまだいたとは」
ハンスが、弾かれたように顔を上げた。 「……わかるのですか? 私の、この……呪われた組み方が」
「呪いだと? 笑わせるな。これは『芸術』であり『科学』だ。ハンス、こんな掃き溜めで石を運んでいないで、俺の領地に『世界一安全な城』を建ててみないか?」
ハンスの目から、大粒の涙が溢れ出した。 「理解者が……。私の、本当の価値を見てくれる人が、いたなんて……」
†
一方、その頃。王都の謁見の間。
「……報告します! ライドが管理していた『王都大貯水池』の魔法封印が弱まり、水質が急激に悪化! 飲み水が不足し始めています!」
「……何だと!? あいつが『私物化』して魔力を注ぎ込んでいたのは、ただの嫌がらせではなかったのか!?」
第一王子が声を荒らげるが、あとの祭りである。 俺がいなくなったことで、彼が「悪徳」の皮を被って裏で支えていたインフラが、音を立てて崩れ始めていた。
しかし、当の俺はそんなことは知ったことではない。
「ハンス、エルナ。まずは拠点の中心に『俺の寝床』を最優先で作れ。あ、あと断頭台……いや、高い塔は作らなくていいからな! 絶対だぞ!」
命が惜しくてたまらない「悪徳領主」による、世界最強の領地作り。 その噂は、やがて世界中から「追放された天才たち」を呼び寄せることになる。
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断頭台送りにされる悪役領主「S級鑑定スキル」で破滅フラグを回避します! ~各地で追放された有能な人材を集め最強の領地作り~ 羽田遼亮 @neko-daisuki
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