第七話

「橘、だと!?まさか…いや、そんなはずは!!」




取り巻きの一人が驚愕の表情とともに、そんなつぶやきを漏らす。が、驚いていたのは彼だけじゃない。ボンボン少年も、他の取り巻きも、ひいてはクラスメイトたちまでもが、僕のほうを見て驚きの表情を浮かべていた。




なんだ?この展開は。はっ!!もしかしてアレができるんじゃないか?いわゆる強者ムーブってやつが(愚者の極み)!!まぁやらないげとさ。そういうのには憧れるよ?でもさ、今の僕がそれをやったらボンボン少年たちと一緒だろう?




親の七光りで威張れるほど、僕は若くないからね。いや、六歳児がなにを言ってるんだって思った?精神は大人だから、ね?




さて、話を戻そう。この状況、どうすればいいのだろうか?ボンボン少年と取り巻きくんたちは呆然としちゃってるし、クラスメイトたちは見守りモードに入ってるし…名前を明かすのは失敗だったかな?




どうするべきか考えていると、黒髪黒眼の少年がパチパチと手を叩いて場に入ってくる。そう、黒髪黒眼の少年が。黒髪黒眼だよ!?めずらしくない?




だいたいの子どもが黒髪黒眼じゃないと思ってたよ。えっ?ボンボン少年は違うのかって?あっ、そうじゃん。それに取り巻きくんたちも黒髪黒眼だし…。あー、うん。まぁ意識して見てなかったから、しょうがないね。




釘時彰人くぎときあきとくん、君の負けだよ。橘さまの忠告は正しい。そして君のやっていることは間違っている。橘さまの言うことに従ったほうがいいんじゃないのかな?」




ボンボン少年…釘時彰人くんは自身の背後でそんなことを告げている存在の顔を見ようと振り返る。そしてみるみるうちに、苦々しげな表情に変化していった。




天代聖也あましろせいやッ…。ちっ、気分が悪い。お前たち、戻るぞ。」




なんだか因縁がありそうな二人である。話は変わるけど、我が家がかなりの影響力を持つことを理解したよ。今後は身の振り方を気をつけないとね。はぁ、ろくなことになる気がしないなぁ。




釘時くんとその取り巻きは自分たちの席に戻る。って、はっ!?なんかすごい固まってるんだけど。釘時くんを中心とした取り巻きの陣形が作られちゃってるね?




これはあれだね。確実に賄賂もらっちゃってるね。いや、別に責めてるわけじゃないんだよ?たださ、それで社交性が育つとは思えないやよね。そう、ほんとに責めてるわけじゃない。あくまで心配してるだけなんだ。決して話せる相手が多いからって、妬んでいるわけじゃないよ。




✚✚✚




あのボンボン少年が起こした大事件からどれくらいの時が経過したと思う?1年?違うね。5年?全然違う。10年?ほんっとーに愚かだね…3分くらいだよ。あれから3分の時が経過したのさ。




えっ?びっくりさせるなって?はい、すみません。あの後、釘時くんとその取り巻きたちが隣の席の女子に絡んだりすることはなかった。自分たちの席で仲良く話している。




天代くんとかいう男子生徒も自分の席で、静かに読書をしている。あんなことをしてしまったけど、たぶん気にしていないと思う…たぶん。なにをしたのかって?まぁうん、ね?




釘時くんたちが自分の席に戻った後、天代くんにペコリってされたから、満面の笑みを浮かべてあげたわけよ。それが彼には魅力的すぎたみたい(自惚れ乙)で、顔を赤くしちゃったんだ。いやぁ、純粋な子どもを弄ぶのは愉しいね。




それは冗談として、気まずく思ってないといいんだけど(諸悪の根源)。だけど考えるだけ無駄か。今は別のこと…そうだね、横から向けられる視線への対処法を考えるとしようか。




助けた(と断言していいかはわからないが)黒髪碧眼の美少女が、こちらをジッと見つめてくる。今日はなかなか注目される日だね。先ほど集めた注目の視線と違うところがあるとするなら、彼女の視線が僕を値踏みするようなものではないということだろうか?




どっちであろうとも、恥ずかしいと感じることに違いはないのだぎ。担任よ、早く来てくれたまえ。でないと僕が恥ずかしい思いをすることになってしまう。いや、もうしてるか。




ガラガラガラと音を立てて、教室の扉が開かれた。入ってきたのは一人の女性教師。おそらく彼女が僕たちの担任になるのだろう。先生が来たことに気づいた生徒たちは、席に座り姿勢を正す。いくら六歳児だからといっても、この学校に入れてる時点である程度の教育はされているのだろう。




「私は砂賀葉香さがようか。これから1年間、みんなの担任を務めさせてもらうわ。呼び方は砂賀先生でも、葉香先生でも何でもいいわよ。」




ベテランとまではいかないが、ある程度は子どもの扱いに慣れていそうな印象が見受けられる先生だ。その優しそうな雰囲気からか、すでに心を許してそうな子もいそうだね。




僕は心を許したのかって?あり得ないね。まだどんな性格かも分かってないのに、心を許せるわけないでしょ。世界的大企業のCEOの息子で、さらにこの圧倒的に整った容姿だよ?下手に気を許したりしたら、誘拐事件みたいな展開に繋がるかもしれないじゃん。




だから人柄が信用できると判断するまで、絶対に心を許さない。それが今の僕にできる唯一の身の安全の確保のやり方だ。とはいっても気を許していないということを、隅々からアピールしたりはしない。




そんなことをして余計な火種を生み出すのは、僕としても本望じゃないからね。営業スマイルみたいに表面上では笑顔を浮かべ、裏面では全身全霊とまではいかないけどある程度は警戒する。




ただの子どもには大きな負担かもしれないけど、何度も言うが僕の精神は大人だ。だからそれくらいのことは造作もないのである。というか大人なのにできなかったら、それこそ社会で生きていけないと思う。




関わりたくない人と関わらなきゃいけない時に、身体中から不機嫌オーラを出したら問題だろう?処世術の一つだよ。まぁ難しい話はこれくらいにしておこう。これから楽しい楽しい学園生活が始まるんだから。




この先待っているであろう未来に、いまにも心が躍り出しそうになる。それを抑えきれず、僕はうっすらと笑みを浮かべた。




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