12.夏② 橋本 静 × 斎藤 直人
— 通信アプリ—
静は布団の上でスマホをいじりながら、
わざと通知が来る前に打って送る。
静「直人。」
直人「なに?」
静「明日デート♡カメラもってきてね。」
画面の向こうで、直人が眉をひそめているのがわかる。
いつもこのテンポだ。
直人「今度は名古屋じゃなくて沖縄か?笑」
静「沖縄もいいけど、隣町の夏祭。だからデートだって。」
“どうせうるだろ”と言われるのも想定の範囲。
直人「どうせうるだろ?」
静「うん♡次はねーこんなんどう?」
画像を送る。
怒られるのわかっててやっている。
直人「却下。そこまで身体見せるのは流石に怒る」
静「えーーーーー!!じゃあソリッド長いけどこれならどう?洋風な浴衣的な。うるっぽくない?」
少し黙ったあと、直人の返事。
直人「それであれのメンテは終わったの?なきゃ行けないぞ俺」
静「終わってるけどー、明日はあれ禁止。たぶんクラスの子いるもの。いいの?あいつ彼女いる…なるよ?」
言った瞬間、少しだけ胸が熱くなる。
変な意地を張った気がした。
直人「あーーー。了解。じゃあ明日な」
静「うん♡デートはデートだからね?うるだけが理由じゃないんだからね。明日は甘えたいんだから!」
直人「ういー」
静「つめたっ!!」
送ったあと、スマホを落として天井を見る。
“甘えたい”なんて、普段は絶対言わないのに。
⸻
◆ 夏祭会場前
人が多い。
祭だから当然だけど、
こういう場所に来るといつも最初だけ背筋が伸びる。
太鼓の音が遠くに聞こえる。
叩くチャンスがあれば今日が初舞台なのに、
変に写り込んで加工地獄になるのは避けたい。
「待った?」
振り返ると直人。
わざと、すこしだけ眉を寄せる。
静「待ちました!もうかれこれ12時間位ですかね。」
直人「嘘つけ。とりあえず待たせてごめんよ。これで許せ。」
差し出された瓶を見て、心の中で素直に喜ぶ。
限定キャラバージョンのサイダー。
こういうところだけ本当に気が利く。
静「まぁ。いいでしょう。あれ?直人あの二人って」
視線の先には、浴衣姿の男女。
距離感がいい。
直人「あー。樹?と豊嶋か。あいつら付き合ってんのか?」
静「さあ?聞いたことないですけど、樹くんはあからさまにアピってましたもんねー」
樹が何かを落とした。
財布。
(見えたなら拾うべきでしょう。)
静「あの…落としましたよ。ほら、とったげて」
直人「お、おう。ほら、金なんか落とすなよ。祭会場気が緩むかも知れんが危ないから気をつけろ」
樹「ありがとうございます。忠告ありがとうございます、大人の意見はちゃんと参考にしますね」
言い方が妙に丁寧すぎて、
私と直人は思わず顔を見合わせた。
「「ぷっ」」
直人「お…おう! ガキにしてはなかなか礼儀正しいな。じゃあ俺ら行くわ。」
(さて。デートです。)
サイダーが手の中で冷たかった。
楽しかったのです。
今日の私は、間違いなく“うる”としても、静としても満足していたのです。映えも完璧、フォロワーも増えましたし、直人の写真の腕もやっぱり一流。あぁもう……完全勝利、です。
人混みのざわざわが少し遠くに感じるくらい、身体は限界でしたけど。
花火まで時間があるなら、少し座りたいな……と思った瞬間。
直人「疲れただろ? 花火まで少し時間ある。足かしてやるから横になっとけ」
え?そんな……人が多いところで?
直人がこんなこと言うなんて、珍しすぎるんですよ。
静「あらー珍しい! こんな人多いのにそんな甘えていいんですか? 明日は槍が降ってくるかもしれませんねー。直人のせいで。あははは」
直人「言っとけ。まぁ昨日は…冷たくしちゃったみたいだしな。甘えていいんだぞ。いつでも、俺は味方だ。」
……はぁ。ずるいのです、そういうの。
こういう時だけ急に大人っぽいこと言うから、心臓に悪いのです。
静「あははーなんですかーそれ! 私敵なんていないのに…でもありがと♡ ねー直人?」
直人「ん? チュウはしないぞ。」
静「ちっ。ばれましたかー。大好きですよ?」
ほんと、こう言うとすぐ照れるくせに。
直人「あぁ。伝わってるから大丈夫だ。疑ったことなんかない…んとな。俺もだ。」
……え?今なんて?
ちょっと待ってください。そんな流れでした?
静「なにが、、俺もだ? わかりませんねーー。」
直人「このやろ……好きだ!!!」
……大声。
いや、まさか……ここで、それ?
周り、見てますよ? スマホ向けてる人もいますよ??
静「わっ! びっくりしましたー♡ そんなみんなに宣言したかったのですね? みんな見てますよ?」
直人「……あぁ。静取られたくないからな,,,」
やめてください、そういう照れ隠しみたいな本音を混ぜるの。
ずるい、ほんとずるい。
静「疑ったことなんかないって言ってたのになー あはははー」
口では笑ってあげましたけど、
……胸のあたりが、いつもよりずっと温かいのです。
花火が上がる前のこの時間。
ざわざわした空気の中で、隣に直人がいるだけで、なんだか全部うまくいく気がしたのです。
今日は、うるじゃなくて“静”としての、完璧なデートだったのですよ。
青春って綺麗じゃなきゃダメですか?〜未完成の詩〜 物書狸。 @monokaki-tanuki
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