8.夏② 高田 真奈 × 高橋 樹
部屋中を歩き回って、私は両頬をぱんぱん叩いた。
心臓がずっと「ぼんっぼんっ」って跳ねてる。
じ…事件ですっ……。
どうしよー……。
さっきの通知がまだ画面に光ってる。
見るたび胃がねじれる。
通信アプリ
樹
『近い休みの日に、どこか空いているかな?
4人で海に行かない?BBQ貸出しあるみたいだし
BBQ代はこの前のお礼として俺が払うから。』
……海?
うそ。待って。海って、海?
焦りすぎて、気付いたら既読がついてた。
既読早すぎて、逆に怖い。
よし……落ち着け私。返事、返事……!
「行きます。雨でも行きます!!」
送った瞬間、叫びそうになる。
雨でも行きますって何。私。
すぐ返ってきた。
『いや、雨ならやめよ?』
「あ…そうですね。楽しみにしてます!」
『オッケー!俺も楽しみにしてるね。』
……これ、夢ですよね?
私の初恋、順調すぎない?
あーーどうしよっ、水着!
水着、お姉ちゃんに借りる?
いや胸のサイズ違いすぎる。
毎日牛乳飲んでるのに!効果ゼロ!
真奈姉
「なんか、悪代官みたいにニヤニヤしてると思ったら…
急にゴリラみたいにドラミングしてるんだけど。
動画撮らせてー」
真奈
「ゴ…ゴリラ!?ち…違うよ!
それより、お姉ちゃん!水着!水着!」
真奈姉
「水着だけ言われても普通わからないっての。
私だから分かるんだからね?
ほら、スマホ貸して。」
お姉ちゃんは容赦なく私のスマホを奪って、
通販サイトを高速でスクロールし始めた。
「んー。これは子供すぎる。
これは真奈が着るとチンチクリン。
おっ、これ露出多くもないし、
シフォンパレオでちょうどよくセクシーじゃない。
ポチーーー」
「ポチーーーまで声に出さなくていいからー!
ちょっと返して!」
「え?まだ待ってー。うん。ちょっとまだー。…ふふ。
よし!完璧!」
何が完璧なのか分からないけど、
お姉ちゃんが“ふふ”って笑うときは大体ろくなことがない。
「えー何したの?
え?2万?
お小遣い足りるかな……」
ピコン。
樹
『真奈ちゃんて結構攻めた水着着るんだね。
さすがお洒落さん!』
……終わった。
また終わった……。
通信アプリ
真奈
『海中止なるかも。ごめん。
私いまから毎日フルマラソンしてくる。』
麻紀
『ちょ!?えっ?なにいきなりw』
真奈
『お姉ちゃんがこれ、着てくって樹くんに。』
麻紀
『いいんじゃないの?真奈スタイル悪くないし、
これならお洒落だけどお腹まわりは少し隠れるから
座っても安心じゃん。』
真奈
『胸……牛乳飲んでくる。』
スマホを落としそうになりながら、私は叫んだ。
「お姉ちゃぁぁぁん!!」
玄関の鏡の前で、私は何度目かの深呼吸をした。
今日は海。樹くん、麻紀、千葉くんと、四人で海。
「にーーー。……顔赤いぞ真奈!今日は大人の雰囲気を出すのです真奈!」
自分を励ましながら頬を叩いていたら——背後から冷静な声。
「なに、一人コントしてんの。」
お姉ちゃんだ。
腕にいろいろ抱えて、当然のように私に押しつけてくる。
「ほら、これ持ってきな?たぶんあとで お姉ちゃん神!愛してる! って帰って来るから。着いたらみんなで確認。今は空けない。わかった?」
「え?……なんだろ? 西瓜とかなら重たいよ? …投げないで!割れるって!」
本当に投げてきた。受け止めたけど。
胸がドキドキして、夏の朝なのに体温だけが上がっていく。
今日は絶対忘れられない一日になる気がしていた。
⸻
海・到着
浜風の匂い。眩しい青。
集合場所に近づくと、声が飛んできた。
「おーきたきた。今回は俺らのが早かったねー!
真奈ちゃん、麻紀ちゃん来てくれてありがとう」
樹くんの声、優しい。
私の心臓がまた走り出す。
麻紀が軽く手を振る。
「樹くん、お誘いありがとうね!
千葉くん……昨日寝れた?大丈夫?」
千葉くん、目の下にクマある。
「真奈ちゃーーん!麻紀ちゃんおはよーー!
おっ!おーー花火じゃん!しかもこれ高いやつじゃない?めっちゃ入ってる!
麻紀、心配無用!寝なくても俺は元気っ!」
あれ、二人の距離……近くない?
んー連絡取り合ってたのかな。
麻紀は一直線だから、まあ……ありえる。
私は慌てて袋を差し出す。
「樹くん誘ってくれてありがとうございますっ!
……これお姉ちゃんから!! みんなにーって渡されたのっ」
樹くんが目を丸くする。
「わ、ありがとう。気が利くね。
よし、遊びますかー! 女性陣は日焼け対策してからのがいいよ。
今日は紫外線強そうだしー」
うわ、水着……。
⸻
「麻紀、私やっぱこの服のままダイブする!
見せれない……って、麻紀!大胆っ! それ、露出多くない……?」
麻紀は胸を張った。
「普通のビキニだからー!露出とかじゃないしー。
ラッシュガード着たりもするから大丈夫だって!!
真奈、私たちもう立派な大人だよ?」
「高校生……大人? こどもすぎないとは思うけど……
小学校から見た目変わらないからわからないや」
私がめそめそ悩んでいる横で、麻紀はスマホを取り出して笑う。
「みんなで写真撮ろうね!
もちろんそのままダイブは禁止!
あー真奈!あのね、あとで千葉くんとのツーショットお願いしてもいい?
私も樹くんと真奈のツーショット頑張るから!」
「え? え……⁉︎」
午前中はまだ始まったばかりなのに、
私の心臓はもう今日だけで寿命を半分使った気がする。
でも、潮風は気持ちよくて。
青い海はどこまでも夏で。
樹くんの笑顔が眩しくて。
——あ、今日、絶対忘れられない日になる。
帰ってきてベッドに倒れた瞬間、スマホが光った。
今日撮った写真が無限に出てくる。
……結果。
お姉ちゃんは神です。愛してます。一生貢ぎます。
「これも、この写真も……へへん。あっこれ樹くんカッコイイー。楽しかったなー。あ、麻紀、ベタベタしすぎ。これは流石に気付かれるってば……」
「……あんた、スマホ音声入力なの?それより、どうだったの。」
わっ。背後に悪魔(神)降臨。
「え?神様。楽しかったでございます。ありがとうございますっ。背中ヒリヒリするからペチペチは優しめで……」
姉が少し優しい顔をしたあと、急に真面目になる。
「ふふ。それとね、あまりモタモタしてると幸せ逃すよ?樹くん絶対ライバル多いんだから。ほら、真奈っていつも私いなきゃ進まないんだから。私もそろそろ家出るんだし、ちゃんとしな?」
わかってるよ、そんなの。
だけど言われると胸がぎゅっとした。
「……あっ。半年留年お疲れ様です……いったぁ!蹴らないでよ!今日だけは許すけど!」
スマホが鳴った。
ピコン。
樹「今日はほんと楽しかった。またみんなで遊ぼうね!」
……終わった。
いや、終わってない。これは……嬉し死ぬ。
後ろから姉の冷静な声が刺さる。
「んー。ちょっと社交辞令っぽいけど。」
「そ……そんなことないよ!樹くん、いつも丁寧なんだよ?たまたまだよ今日は!」
声が裏返った。
画面を何度も読み返す。
“また” の二文字で心臓が忙しい。
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