6.春2-C 前田 麻紀
もう二年かぁ。
楽しかったな、高校生活。真奈とか、樹くんとか、ほんといっぱい友達できて。
それに今年は修学旅行。最大イベントじゃん。楽しみすぎるんだけど。
後輩も入るし、しっかりしなきゃ……って、うちじゃないね。私。
いや、できるかな? いやいや、やる!
校門をくぐると、掲示板前がざわざわしていた。
名前を追って――あ、真奈、はっけーん!
なんか、小さくガッツポーズしてる?
なにそれ、可愛いなぁもう。
「んー? 真奈? 今ちょっとニヤってしたでしょー?」
「え、違っ……! 私は別にっ」
はい出た、真奈の“嘘つけ顔”。
しかも耳まで赤いし。バレバレなんだよね、こういうの。
「はいはい。樹くん同じクラスでしょ?
嬉しそーバレバレー。好きなんでしょ?」
「す、好きっていうか……ちょっと、気になるだけで……って麻紀に関係ないでしょ!」
ふふ。ほんと、わかりやすい。
顔に “LOVE” って書いてるよ? 真奈。
いいなー、私にもそんな王子様こないかなぁ。
いきなり肩ぽんってされて、呼ばれて――
「おっ! 俺が何?」
……って、ちょうど真打登場!
「真奈、麻紀、また同じクラスだな。
二年もよろしく」
樹くんは相変わらず“少女漫画の彼氏枠”みたいに爽やか。
そりゃ真奈も惚れるよね。
カッコよくて優しいし、成績もいいし。
でも……なんだろ、私の好みとはちょっと違うんだよな。
(面白さ、足りなくない?)
いや、樹くんは樹くんで絶対モテるし完璧なんだけど。
なんかこう……気づいたら笑わせてくれる人とかさ、
想定外の角度から話しかけてくる人とか……そういうのいいよなー。
とか思ってたら、真奈の横でまた耳が赤い。
あーもう、尊いかよこの子。
――よし、二年も面白いこといっぱい起こりそう。
私の高校生活、もっともっと楽しくなる気しかしない。
「真奈〜、せっかくまた同じクラスなんだしさ。
はい! 開幕記念に写真撮ろっ!」
よし言えた!普段なら絶対こんな積極的にならないけど、
今日だけは私から行くの。
真奈のため……いや、正直に言うと半分は“自分のため”。
この空気、今年こそちゃんと乗りこなしたいんだ。
真奈が少し驚いた顔でこちらを見たけど、
みんなが「撮ろ撮ろー!」と集まってきて、
その勢いに飲まれるように輪が広がった。
「え、いま? このタイミングで……?」
「このタイミングがいいの! ほら、樹くんもー!」
呼ばれた樹が、
まるでずっとそこにいるのが当たり前みたいな顔で
すっと近づいてくる。
「写真? いいじゃんいいじゃん。
はい真奈、もっとこっち寄れって」
その一歩、肩の寄せ方。
あーーー真奈、それ絶対心臓止まったでしょ。
いいなぁ、私もああいう自然な距離の縮め方してほしいなぁ。
でも今日は真奈に花持たせる日!
よし、ナイス樹くん!完璧なタイミング!!
「はい並んだ並んだー!
じゃあ笑うよー? いち、にーの――さーん」
いけっ……と思った瞬間——
「……ぶっ!」
「え、なにこれ、やば……!」
「真奈、顔っ……!」
えっちょっと待って。
この空気、一瞬でバズる匂いするんだけど。
「え? なに? なにが……?」
真奈の戸惑い顔が可愛い。
いや、可愛いんだけど……うん、まあ事故ってる。
「えー何何!? 樹ーー!どうしたの? 見せてー!」
どこから沸いたの!?ってレベルで
弾丸みたいな男子が突っ込んできた。
千葉君?
あ、これが噂の“犬系男子”かぁ。
スマホをひょいっと奪ったかと思えば、
見た瞬間ひっくり返る勢いで笑ってる。
「真奈ちゃんどしたのこれー! あはははー!
えっ、はじめましてだっけ? 真奈ちゃんよろしくねー!
はい!これ俺のID!いつでも送ってねー!
可愛い子からの連絡は光速で返すよっ!」
……なにこの人!?
勢いだけで世界まわしてない!?
でも……
(なんか……底抜けに明るい……
その無邪気さ、ちょっとズルい……っ)
ちょっと心が揺れたの、バレたかな。
普段の私ならこんなの「絶対ムリ!」って切るのに。
「何この人ー! チャラっ!
ウケるー。 私にはくれないのー?
私は可愛くないからだめ?」
……言えた。
私、言えた!!
いつもなら飲み込む一言を、今日はちゃんと自分から外に出せた。
(うち、頑張ったよね……?
ねー、誰か“女の子として”見てくれるといいな……)
「千葉……! ハウス!!」
ぴしーーーっ!!
まるで犬のしつけ動画みたいに固まる千葉。
「てめーまたズカズカと人の心潰しに行くな。
初対面にID配ってんじゃねーよ。 犬かお前は」
希美ちゃん、かっこよ……。
この子ほんと、守りたい相手には容赦ないんだよなぁ。
(あ……なんだろ。
この二人、息ぴったりじゃん……)
ほんの少し胸がきゅっとした。
そういう“お似合い”を見せつけられると、
自分がどこに立っていいかわかんなくなる瞬間あるよね。
でも——
(でも今回は、私も……諦めたくない)
そう思えたのはきっと、
さっき千葉が私にまっすぐIDを出してきた時の、
あの人懐っこい笑顔を見たから。
こんな気持ち、生まれて初めてだよ。
(うちは……いや、私は。
私だって“誰かの特別”になれるのかな……)
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