第四章「汚れ」
私は、最初からここにあったわけじゃない。
誰かが触れ、誰かが通り、誰かが落としたあとに、私は生まれた。
色は、決まっていない。
色は、私を創る人によって変わる。
だから、私はどんな色にもなれてしまう。
綺麗な色にも、汚い色にも。
私は、洗えば、薄くなる。擦れば、広がる。
放っておけば、乾いて、いつの間にか背景の1部と化す。
この庭は、よく私を生む。
水も、土も、迷いも、ためらいも。
私は、記録でもない。過去でもない。誰かの過ちでもない。
ただ、創られただけ。
人間は、私を見ると理由を探す。
どうしてこうなったのか。
誰が創ったのか。
でも、私は答えてあげない。
私だって、そんな目を向けられたら、傷付くんだよ。
蝶が落ちた場所にも、私は残る。
軽すぎて、形を保てなかったものの跡。
水が通った場所にも、私は残る。
それは、選ばれた痕跡ではなく、触れてしまった過ちの跡。
人間が近づいてくる。
足を止める。
一瞬だけ、私を見る。
それから、見なかったふりをする。
それが正解。
私を気にして立ち止まるほど、この人は、まだ生きている。
私は、完全には消えないけど、意味も持たない。
いつか雨が降れば、私は薄くなる。
でも、完全には無くならない。
それくらいが、丁度いい。
私は、汚れ。
汚れは最初から汚いものではない。
綺麗なものの、最後の姿だ。
私はまだ、そこにいた。
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