スクール 2

「学校ァどォだ」

酒瓶に口をつけ、親のようなことをポツリと死神は呟いた。

「……別に。普通」

「白ウサギに聞ィても良ィんだが」

青い隻眼を流す死神に、マリーは視線を揺らした。

彼にとっては、その仕草一つで十分だった。

大きく一つ、酒臭いため息をこぼして、喉を長い指先で撫でる。

「辞めるか」

「辞めない」

真っ直ぐに、彼女は一つ目を見据えた。

死神は、つまらなさそうに「そォかい」と言うと、顔を離して煙草に火をつけた。

マリーはキュッと口をつぐんだ。

ここで、何があったか言ってしまうのは簡単だった。が、そんなことをしては、何が起きるかは火を見るより明らかである。逃げ出すだけなら簡単であるが、ベルにも申し訳ない。何より、死神に失望されることが嫌だった。

死神は、それをジッと見て、面白くなさそうに音を立てて瓶を置いた。それから、ぐっと大きく伸びをして、地下に消える。

マリーは、毛布に潜り込んで小さくため息をついた。

次に目を開けた時には、朝であった。

死神の長い指で喉を撫でられ、「無茶ァすンな」と低い声で囁かれる。そして、トンと背中を押されて教会のドアを、いつもと同じように恐る恐る開けた。

そんなマリーを待っていたのは、目を輝かせた少年少女達だった。

「な、何」

怯む彼女に、一拍置いて歓声が上がる。

「何今の!」

「かっこいい人〜!」

「ねぇ、二階に行きましょ、まだ見えるかも」

少女達に引っ張られるようにして、マリーは2階の窓から顔を出す。並んだ団子のような顔を見て、聞こえていたのだろう。ジッとこちらを見つめる死神は、彼女に目を合わせてフ、と唇の端だけで笑って見せた。

きゃあっ!と黄色い歓声が沸く。

「かっこい〜!」

いくつもの声が重なる。

マリーは、パチパチ瞬きをして、首を傾げた。

あまりにも、彼女が知っている「かっこいい」とはかけ離れていたからである。

「そう、なのかな」

「そうだよ!」

「こっちに来なよ、あの人のこと教えてよ」

騒がしく教室に連れ戻され、机をピッタリとくっつけて、額がぶつかりそうなほどに距離が近くなる。

態度の急すぎる変化に吐きそうだった。

今、喉が潰れて、エドと同じようになれれば、どれだけ幸いだろうか。けれど、あの死神は、自分自身ではなく、この声を一番に愛しているのだろう。

マリーは、小さな手で、自分の喉を撫でた。

時計にチラリと目をやる。

死神の仕事がもうすぐ始まる時間であった。

「いた、マリー」

「白ウサギ」

聴き慣れてしまった優しい声に、マリーははホッと息を吐く。

「サプライズ、興味ない?」

ベルはしゃがみ込んで目を合わせ、悪戯好きの子供のように笑って見せた。

「ある!」

「オーケイ、そう来なくちゃ。授業が終わったら、残ってて」

パチンとウインクをひとつ。

「先生、なんの話?」

「ないしょ!ほら、席に戻って!」

手を叩くベルは、すでに大人の顔をしていた。

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