第3話 6月11日 (水) 21時25分 モブ山モブ男

 僕が投げた瓶に当たった広田は、白目を剥いてその場にバタンと倒れる。


 高山は一瞬何が起こったか分からないようで、ポカンとしたが、すぐに瓶を投げた僕に気がつき。


 「テメェ!何もんだ!俺らがネメシスだって知ってんのか!てめぇ、俺らの仲間に殺されるぞ」


 おうおう、なんかキャンキャン吠えてるなぁ。自分じゃなくて仲間が殺すって、こんな時でもネメシスの看板に頼ってるとこが小物だよな。


 残念だったな高山、いつもの僕だったらビビってたかもしれないが、ここは夢の中なんだよ!


 「死ぬのはてめぇだ!高山!!」


 ゲームやってる時の僕は口が悪いし、喧嘩っぱやいから気をつけな!


 怒りで我を忘れこちらに走り寄ってくる高山に、


    貯め↑+ K(弱キック)!

    『ライジングタックル!』


 高山はもろにくらって頭を地面に強かに打ち付けた。


「イッテェ!」


 そのまま僕は高山に馬乗りになる。


 「ははは、まだまだこんなもんじゃないぜぇ!高山、お前は俺を6発殴った!だから俺も同じだけ殴るぜ!!」


 「はぁ?何言ってやがる!テメェなんか知らね……」


       ↓+P(弱パンチ)

       『下パンチ』


 そう言った高山の事などお構いなしに、僕は高山を殴り続けた………

      ↓+P、↓+P、↓+P


 「そうだ、広田の分も入れるとあと14発か。蹴られた分も入れると………20発超えるな」


 「ほ、ほんと、やめろ!」


 最初はジタバタ抵抗してこっちに殴り返してきた。


 「下からのパンチが効くわけないだろ?発生フレームの差を考えろよ(笑)こっちは有利フレーム継続中なんだよ!!」


 そういやこのゲーム、痛覚は無いのかな?まぁなんか振動は感じる。

 一度殴るのをやめてステータを見ると、少しHPが減っている


   [  HP 358  ]


 ああ、一応ダメージ判定になってるのか。

 あぁ大したダメージじゃない。僕はさらに高山を殴りつける。


 「勘違いすんなよ。俺は普段ハメ技なんて卑怯な真似しないんだ。でもな、高山………お前には別だ!!!


   下パンチ!下パンチ!下パンチ!

   下パンチ!下パンチ!下パンチィィィィ!!


最初のうちは、


 「お、おい、ふざけんな!」

 「俺にこんなことして、どうなるか!」

 「ネメシスが黙っちゃいないぞ!」


 などと言っていたがすぐに、


 「も、も、やめて………」


と言ってベソをかき出した。まだ10発以上残っていたが、急速に気持ちが冷めてしまう。


 「………つまんねぇ雑魚狩りだったな、帰ろ」


 それに、これ以上殴ったら死んじゃうかもしれんしな。これプレイヤーキルにペナルティある系のゲームかもしれんし。


 「あ、そういえば」


 僕は高山広田両方のポケットから携帯と財布を取り出した。


 財布からは日中盗られた一万円を取り返して。


 「これは返してもらうからねー。あ、あと携帯は、あ、クソ、ロックかかってて画像けせねぇ!………しゃーない、ぶっ壊しとくか」


 2人の携帯を踏みつけてバキバキにしていたところで、遠くからサイレンの音が聞こえた。


 ああ、警察ね、このゲームグラセフみたいに警察あるのか?そりゃそうか、ほとんど一般世界と変わらないもんな。


 「捕まるとペナルティあるかもな」


 僕はとりあえず、さっきの路地裏まで戻る事にした。何だか少しずつサイレンの音が近づいている気がする。


 「ここに隠れてても見つかっちゃうかな?」


 路地裏にたどり着い僕は面白い物を見つけ驚いた。

 なんと僕がリスポーンした位置に、光の柱みたいな物ができている。


 「はぁ、なるほどね。良かった、これで逃げ切れるわ」


 僕は完全に状況を把握し光の柱を触る。すると目の前にウインドウが現れ、説明文が浮かぶ。


   セーブしてログアウトしますか? YES NO

   (ログアウトすると8時間経過するまで再ログインできません)


なるほど、いかにもゲームである。

 でもこの場合のログアウトとはどうなるんだろうと少し思案していたが、


 「こっちか?」


という声が聞こえた。


 「ああ、駄目だ。あんまり時間なさそうだ」

 

 僕は深く考えるのをやめた。


 「まぁどうせ夢だしな!」



 ログアウトしますか? YES NO


 僕はYESの文字に指で触れた。

 すると、まるで体重が無くなったかのように、ふわりと身体が浮き上がるような感覚になる。さらに僕の体は眩い光に飲み込まれ、次の瞬間、意識は深い闇の中に飲み込まれていった。


6月12日 (木) 午前6時48分 鈴木亜樹斗


 「いっっ!」


 朝起きてすぐ、体に強い痛みを感じた。


 「そりゃそうだ、昨日あれだけ殴られたんだもんな」


 せっかくいい夢を見れたのに、急に現実に引き戻されてしまった。そして現実に引き戻されると同時に、左手にカサリと何かが触れたのに気がついた。


 「ん?」


 指先に触れた布団の中にあるものを確かめてみた僕は驚愕した。


 「い、いちまん、えん!?」

 

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