第3話 直感という名のバグ 

 ———2046年9月6日ボストン———


 モントリオールから軍用車で移動して4時間。

 ようやく目的地ボストンに辿り着いた。

 

 だが、ひどい。

 あまりにもひどい。

 建物が焼き焦げて倒壊している。

 残った建物も弾痕だらけだ。


 [生命反応:なし]

 [死因:大量出血]

 [死因:焼死]


 そこら中に死体が転がっている。

 おい。

 死体を運んでいる。

 

 [解析:NSF軍事部・死体回収班]


 何のために?


 [検索:環境保護と死亡者追悼の意を込められている]


 自分で殺しておいて追悼するのか。

 何だかな。


 [緊急:ボストン・コンベンション&エキシビション・センター(BCEC)にて交戦。至急を求む]


 どこだって?


 [検索:ボストン最大の屋内展示場。かつては『ロボット博覧会』などが開催された]


 人間が今もそこにいるのか。

 怯むことはない。

 今の俺はアンドロイド。

 人類の敵だ。


 よし、行こう。


 [ロケーション検知:BCECサウスパーキングロット]

 

 展示場の前まで来た。

 駐車場にはドロイドが山のように待機している。

 あのゴツいやつは誰だ?


 [解析:オメガドロイド(指揮官)]

 

 隊長ってことか?

 俺たちよりも一回り二回り大きな重装甲を纏っている。

 そいつが大きな声をあげた。


「第4部隊突入しろ」


 第4部隊って俺の部隊だよな。

 ずっと一緒に行動していた同僚が歩き始めた。

 とりあえずついて行こう。

 巨大なガラス張りのエントランスホールを抜けて中に入った。

 中は真っ暗で、ガラスや展示物、瓦礫らが散らばっている。


 [敵対反応:なし]

 [温度検出:なし]


 敵はいないみたいだな。

 何を展示していたんだろう。


 [解析:グレネード(状態:最悪)]

 [検索:不明]


 これだけ技術が進歩しているのにわからないことがあるのか?

 ということは人類滅亡後に開発されたもののはずだ。

 人類といえば、さっきから全く敵対反応に引っかからないし、音もない。

 本当にいるの…か…

 は?


 青い血飛沫が視界いっぱいに広がった。

 仲間がやられた。

 遅れて銃声が響く。

 一体どこから?

 軌道は見えなかった。

 それなのに…

 次々と仲間が倒れていく。


 [生命反応:消失][生命反応:消失][生命反応:消失][生命反応:消失]

 [生命反応:消失][生命反応:消失][生命反応:消失][生命反応:消失] 

 [生命反応:消失][生命反応:消失][生命反応:消失][生命反応:消失]

 [生命反応:消失][生命反応:消失][生命反応:消失][生命反応:消失]

 [生命反応:消失][生命反応:消失][生命反応:消失][生命反応:消失]


 ああ、ログがうるさい。

 銃声は?

 どこからする?

 移動している。

 

 [軌道計算:ロード中…完了]


 上か!


 [敵対反応:上部キャットウォークに1名]


 とった!

 引き金を引いた。

 だが、銃弾は掠れもしない。

 なんで?!


 [エイム設定:マニュアル]


 くっそ!

 設定戻し忘れてた!

 早く切り替えを…


 目の前の宙の上でグレネードが青く弾けた。 

 身動きが取れない。

 白い煙の間から天井が見える。

 銃声が、途切れ途切れに鳴り響く。


 [警告!]

 [神経回路:ダウン…再起動…]

 [視覚システム:悪]

 [聴覚システム:最悪]


 人間がいる。

 ログが流れないな。

 人間が…降りてくる。

 黒いジャケットを羽織って、仮面を被っている。

 スカートが翻った。

 女だったのか…。


 [再起動……失敗]


 終わった。

 でも、今度は仰向けだ。

 空を見ながら死ねる。

 って、室内じゃねえか。


 [再起動……失敗]


 今日の月はどんなだったっけ?

 確か、半月だったかな。

 せっかく転生したというのにな。


 [再起動……失敗]


 一度くらいやってみたかった。

 ラノベみたいな…無双展開。


 [再起動……成功]

 [残バッテリー:96%]


 あれ?


 [システム領域を戦闘機能に集中させます]

 [近接モード:全開]

 [装備:ブレード]

 [脚力:爆発型]

 [フレームレート:限界]

 [リミッター:解除]


 [警告:エネルギー消費量が…]


 知るか。

 

「おい、人間!」


 俺が読んだ途端、人間は振り向いて銃を撃つ。

 敵の銃弾がスローモーションに見えた。

 これなら、斬れる。

 火花が散り、その勢いのまま人間を押し倒した。

 直後、衝撃波で、窓ガラスが粉々に砕け散る。

 俺は人間の首元に、刃先を突きつけた。。


「突入!」


 外で待機していたドロイドが壁や窓から雪崩れ込む。

 ライフルの銃口が彼女を捕え、完全包囲する。

 入り口から、あの隊長機がズカズカと歩いてきた。


「よくやった、E4。トドメをさせ」


 なぜだ。

 手が動かない。

 どうしてだ?

 これを終わらせれば、未来の世界で何不自由なく過ごせるのに。


「E4、何をしている?」


 それは、俺がやりたかったことなのか?

 それは、俺にとっての幸せなのか?

 幸せってなんだ?

 もし、何不自由なく過ごすことが幸せなのだとしたら、そんなものは前世で十分満たされたはずだ。

 だが実際は、俺の心の穴は広がるばかりだった。

 どうすれば塞がる?


「E4、早く殺せ」


「うるさい、黙ってろ」


 そうだ、俺が求めていたのは、死に際の電車の中で見た、あの親子のような、瞬きしている間に消えてなくなりそうなほど、尊くて、温かい———。

 ———そんな幸せだ。

 そしてなぜか、今ここで、短剣を振り下ろすと、2度とそれは手に入らない。

 そんな気がするんだ。

 なぜだ?なぜだ?なぜだ?

 いや、これはロジックでも、システムでもない。

 これは、俺がまだ、生きていることの証。

 直感というなのバグだ。


「欠陥品め」


 オメガドロイドが俺に銃口向け、引き金を引いた。

 だがそんなもの、俺には届かない。


「”立て、人間”」


「え?」


「”立て。そして、戦え!!”」


 [敵対反応:E4ドロイド][敵対反応:E4ドロイド][敵対反応:E4ドロイド]

 [敵対反応:E4ドロイド][敵対反応:E4ドロイド][敵対反応:E4ドロイド]

 [敵対反応:E4ドロイド][敵対反応:E4ドロイド][敵対反応:E4ドロイド]

 [敵対反応:E4ドロイド][敵対反応:E4ドロイド][敵対反応:E4ドロイド]

 [敵対反応:E4ドロイド][敵対反応:E4ドロイド][敵対反応:E4ドロイド]

 [敵対反応:E4ドロイド][敵対反応:E4ドロイド][敵対反応:E4ドロイド]

 [敵対反応:E4ドロイド][敵対反応:E4ドロイド][敵対反応:E4ドロイド]

 [敵対反応:E4ドロイド][敵対反応:E4ドロイド][敵対反応:E4ドロイド]

 

 [ターゲット認識:味方識別信号(IFF)を破棄]  

 [モード:ジェノサイド(殲滅)]


「ううぉおおお!!」


 オートエイムの回避方法は2つある。

 一つは敵対反応にかからないこと。

 そしてもう一つは、圧倒的速さだ。


 全速力。

 その姿は神風の如き、怒りを込めた刃。

 防御? 知ったことか。

 俺の体そのものが弾丸だ!


 青い血飛沫を巻き込んで進む。


 [×キル:E4ドロイド][×キル:E4ドロイド][×キル:E4ドロイド]

 [×キル:E4ドロイド][×キル:E4ドロイド][×キル:E4ドロイド]

 [×キル:E4ドロイド][×キル:E4ドロイド][×キル:E4ドロイド]


 まだだ。


 [×キル:E4ドロイド][×キル:E4ドロイド][×キル:E4ドロイド]

 [×キル:E4ドロイド][×キル:E4ドロイド][×キル:E4ドロイド]

 [×キル:E4ドロイド][×キル:E4ドロイド][×キル:E4ドロイド]


 まだまだ。


 [×キル:E4ドロイド][×キル:E4ドロイド][×キル:E4ドロイド]

 [×キル:E4ドロイド][×キル:E4ドロイド][×キル:E4ドロイド]

 [×キル:E4ドロイド][×キル:E4ドロイド][×キル:E4ドロイド]


「”はははははははっ!!死ねえぇぇえ!!ガラクタどもがああああ!!”」


 [キル:E4ドロイド][キル:E4ドロイド] [キル:E4ドロイド] [キル:E4ドロイド]

 [キル:E4ドロイド][キル:E4ドロイド] [× KILL:E4 Unit] [× KILL:E4 Unit]

 [× KILL:E4 Unit] [× KILL:E4 Unit][× KILL:E4 Unit] [× KILL:E4 Unit]

 [× KILL:E4 Unit] [× KILL:E4 Unit][× KILL:E4 Unit] [× KILL:E4 Unit]

 [× KILL:E4 Unit] [× KILL:E4 Unit][× KILL:E4 Unit] [× KILL:E4 Unit]

 [× KILL:E4 Unit] [× KILL:E4 Unit][× KILL:E4 Unit] [× KILL:E4 Unit]

 [× KILLLLLLLLLLL......Error]


 [敵対反応:オメガドロイド]


 青い霧の中、後ろで人間が引き金を引くのが見えた。

 銃弾は機械のヘルメットを粉砕した。

 中から40代の白人の顔が現れる。

 奴は驚愕の表情で叫びながら銃を撃つ。


「この不良品め!!」


 その瞬間を俺は見逃さない。

 背後から間合いに入り込み、露出した首元をロックする。

 全てのエネルギーを刀に込める。

 短剣は青く発光する。


「不良品はお前だろ。俺は創造神(にんげん)だ」


 一閃……


 [× KILL:COMMANDER]


 敵の首が飛び、頭のない体が鈍声を鳴らす。

 ボストンの展示場は青一色。

 それもまた、芸術だ。


「はは…はははははっ!」


 やった。

 全員殺した。

 こんなにも喜びが込み上げて来るのはいつぶりだろうか。

 爽快感が半端じゃない。


 そういえば人間は?

 振り向くと、仮面に弾痕が…

 その隙間から、赤い血が。


「まさか、そんな…」


「大丈夫、銃弾は当たっていない」


 とても可愛らしいふんわりとした声で答えた。

 不思議な力がありそうな不思議な声だ。


「カサッ」


 そのマスクを外した時、俺の全回路がフリーズした。

 いや、爆発した。

 その規模は核爆弾級だ。


 美しすぎるほど整った、白磁の肌。

 割れた天井から差し込む月光が、彼女をスポットライトのように照らす。

 風になびく漆黒の髪と、その内側で揺れる鮮やかなピンクのインナーカラー。

 黒と桜色のコントラストは、まるで月夜に舞う『夜桜』のように見えた。


 ドクンッ!ドクン?

 心臓ないのになんだ今の音は!

 やばい、頭が真っ白だ。

 一体落ち着こう。

 なんていうんだっけこういうの。


 [検索:ロード中]


 瞳惚れ?糸目惚れ?

 なんか、そんな感じの名前だったような…


 [検索:ロード中……失敗]


 え?


 [警告!]

 [残エネルギー;0%]

 [シャットダウン準備]

 

 ちょ待てよ!

 は!?

 ここで!?

 何か喋らなきゃ!


「あの!君の…」


 あれ?!

 喋れない。

 何か彼女が喋っているみたいだけど。


 [聴覚システムダウン]

 [発声システムダウン]

 

 ああ、くっそ。

 せっかく転生できたのに…

 これで終わるのか…

 もう一つ、やり残したことがあったのに…


 [視覚システムダウン]


 [シャットダウンします]


 ラノベみたいな…ラブコメ…を……君と…


 バタンッ


 ************************


 第3話、お読みいただき、ありがとうございます。


 次回———第4話 大西洋より救援を求む


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ENDEAST — 転生ドロイドの戦闘記録《バトルログ》— 桜乃孤坐 @KOZS

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