第8話
「アハハ! 盲目同士で何ができる! まとめて潰せ!」
氷室の嘲笑とともに、5組の連中が鉄パイプを振り上げ一斉に躍りかかる。
「大剛、右! 三歩進んで――そのまま大外刈り!」
ケンジの鋭い声が響く。
大剛は迷うことなく地を蹴った。視界は真っ暗だが、ケンジの声が道標(ガイド)となって脳内に戦場の地図を描き出す。
「おおおっ!」
踏み込んだ先には、鉄パイプを振り下ろそうとしていた男。大剛の巨大な腕がその胸ぐらを捉え、コンクリートへ叩きつけた。
「次は左後方! 掴んでそのまま後ろへ投げろ!」
「応っ!」
背後から忍び寄った二人組を、大剛はノールックで抱え上げ、豪快な裏投げで壁に叩き伏せる。
「……な、なんだと!?」
氷室が顔を引きつらせる。目を潰されたはずの大剛が、まるで全方位が見えているかのように正確な動きで、5組の兵(つわもの)たちを次々と「柔道」の犠牲に変えていく。
「最後だ! 正面五歩……氷室だ! 思い切りぶちかませ!」
ケンジの叫びに合わせ、大剛が突進する。
「て、めぇ……ふざけんな!」
氷室は慌ててポケットから二つ目の「目潰し」を取り出そうとするが、それよりもケンジの指示を受けた大剛の踏み込みの方が速かった。
「……守るって言ったはずだ。俺の仲間を汚ねえ手で触るなッ!」
大剛の巨体が氷室の懐を完全に捉えた。
「ガハッ……!?」
柔道の基本にして究極の投げ技、一本背負い。
氷室の体は宙を舞い、重力に従ってアスファルトへ激しく叩きつけられた。メリケンサックを嵌めた拳が虚しく地面を叩き、氷室は白目を向いて沈黙した。
「……はぁ、はぁ。……やったか、ケンジ」
「ああ、完璧だ。大剛」
二人はボロボロになりながらも、拳を合わせた。130位と131位。最底辺だった二人が、95位の壁を「連携」で突破した瞬間だった。
「……汚いね。実に美しくない」
路地裏の奥から現れたのは、白を基調とした改造制服に身を包んだ、モデルのように端正な少年――5組のヘッド、**有馬 隼人(ありま はやと)**だった。
「トモ……こいつは?」
トモが震える指でスマホの画面を突き出す。
【阿修羅・ランキング速報】
全校62位:有馬 隼人(5組ヘッド)
スタイル:テコンドー
「62位……!? 氷室とは、住む世界が違いすぎる……!」
トモの絶望的な叫びが響く中、有馬は静かに膝を上げた。一切の無駄がない、神速の予備動作。
「――舞え」
有馬の体が独楽のように回転した。目にも止まらぬ**旋風脚(トルリョチャギ)**が放たれる。
「眼」で軌道を捉えたはずのケンジだったが、その速さは認識の限界を超えていた。
ドォォォン!!
「が……はっ!?」
ケンジを庇って前に出た大剛の巨体が、たった一撃の蹴りで数メートル後方のゴミ捨て場まで吹き飛ばされた。ガードした腕の骨が軋み、大剛の巨体が力なく崩れる。
「大剛!!」
「……安心しなよ。次は君の番だ、130位」
有馬は着地した勢いのまま、次なる処刑の蹴りを放とうと軸足を回した。
(勝てない……。今の僕たちじゃ、かすりもしない!)
ケンジの「眼」が、死の結末を映し出す。有馬の脚がケンジの首筋を刈り取るまで、あと0.5秒。
「二人とも、これを食らえッ!!」
後方で震えていたトモが、叫びながら何かを地面に叩きつけた。
直後、パシュゥゥゥッ! という激しい音とともに、路地裏が真っ白な煙に包まれる。トモが自作していた、超高濃度の発煙筒だ。
「……っ、小癪な真似を」
有馬の声が煙の向こうで不機嫌そうに響く。
「ケンジ、大剛! 立ってくれ! ここで死ぬ気か!?」
煙の中に飛び込んできたトモが、ケンジの襟首を掴み、大剛の肩を担ごうと必死に喚く。
「……クソっ……動け、僕の足……!」
ケンジは朦朧とする意識を振り切り、動かない大剛の腕を自分の肩に回した。
「逃げるぞ……! 絶対に、生きてここを出るんだ!」
三人は煙に紛れ、迷路のような路地裏を必死に駆け抜けた。背後から有馬の冷徹な気配が迫る恐怖に震えながら、ひたすら夜の街へと逃げ込んだ。
翌日。4組の秘密の溜まり場である廃ビルに、ボロボロの三人が集まっていた。
大剛の左腕は包帯で吊られ、ケンジの全身も打撲だらけだ。
「……62位。あんな化け物が、まだ上に61人もいるのかよ」
ケンジが悔しさに唇を噛み締める。
「今のままじゃ、1組に辿り着く前に5組に消される。……ケンジ、大剛。提案がある」
トモが地図を広げた。そこには学校から遠く離れた山奥の、放棄された修練場が記されている。
「一週間、ここへ行くぞ。俺の持ってる全ランカーのデータ、そして大剛の封印された柔道の再構築……。何よりケンジ、お前の『眼』を実戦で使える武器にするための、俺流の**『地獄の合宿』**だ」
「……いいぜ。このままじゃ終われない。あの眼鏡の野郎に、落とし前をつけなきゃな」
大剛が不敵に笑う。
「行こう、トモ。次に有馬の前に立つ時は……僕たちが、あいつを絶望させる番だ」
最底辺の反撃は、終わらない。
さらなる高みへ昇るため、4組の三人は学園を一時離れ、修練の地へと足を踏み入れる。
スクールジャイアントキリング @rakunosukedao
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