第7話

路地裏。5組の連中は十人近く。対するこちらはケンジ、大剛、トモの三人。

「ケンジ、大剛! 氷室は112位だ。今まで倒したチンピラとは格が違うぞ。それに5組の連中は、集団での連携が得意だ!」

トモが後方から叫ぶ。


「わかってる……。大剛、あんたは無理に手を出すな。僕がやる」

ケンジが前に出ます。修行で鍛えた「眼」が、氷室の予備動作を追いました。


しかし、氷室は速かった。

「遅いんだよ、130位!」

鋭いミドルキックがケンジの脇腹を抉ります。さらに左右からの連携。5組の連中が、ケンジの死角から次々と拳を放ちます。

「くっ……!」

避けても避けても、次の一撃が来る。数に翻弄され、ケンジの体が地面に膝をつきそうになったその時。


「……やっぱり、俺には見てるだけなんて無理だ」

大剛の足音が、地響きのように響きました。

「佐藤。お前はさっき、自分のために準備をしたって言ったな。……俺も、決めたよ」

大剛がゆっくりと腰を落とし、独特の構えを取ります。

それは空手の構えでも、喧嘩の構えでもない。

重心を低く保ち、相手の懐へ潜り込むための、**「柔道」**の構えでした。

「壊すための暴力じゃねえ。……俺の仲間を、お前らみたいな汚ねえ奴から守るために、俺はこの力を使う!」

大剛の巨体が、弾丸のように氷室へ向かって飛び出しました。


氷室は、猫背でふらふらと歩き、常にポケットに手を突っ込んだまま、獲物を値踏みするように薄笑いを浮かべている。

「……なぁ、大剛。お前、本当にバカだよな。正々堂々なんて言葉、この荒金(あらこう)じゃ死語なんだよ」

氷室が指を鳴らした瞬間、周囲を囲んでいた5組の連中が一斉に地面に手を伸ばした。彼らが掴んだのは、路地裏に転がるガラス瓶や、工事現場の残骸である鉄パイプだった。


「10対1。……これが5組の『喧嘩』だ。やれ」

氷室の号令とともに、5組の連中が容赦なく襲いかかってくる。

「眼」を全開にしたケンジは、飛んでくる空き瓶の軌道を読み、間一髪で回避し続けた。だが、多方向からの同時攻撃に、反撃の隙が全く見つからない。


「……っ、こいつら……!」

「ケンジ、下がれ!」

大剛が前に出ようとしたその時、氷室が不気味に笑い、ポケットから何かを投げつけた。

「……食らえよ、131位」


バサッ!

「ぐあぁっ!? 目が、目がぁ!」

投げつけられたのは、砂に唐辛子の粉を混ぜたものだった。

大剛は視界を奪われ、その場にうずくまる。氷室はそれを見逃さず、隠し持っていたメリケンサックを拳に嵌め、無防備な大剛の脇腹を容赦なく殴りつけた。


「アハハ! どんなにガタイが良くても、見えなきゃただの肉塊だよなぁ!」

「大剛!!」

ケンジが助けに入ろうとするが、5組の連中に進路を塞がれる。


「おいおい、130位。余所見してていいのか? お前の『綺麗な眼』も、すぐに真っ赤に染めてやるよ」

氷室は逃げ惑うケンジを追い詰め、汚い手口で一人ずつ潰していくことを楽しんでいる。トモは震えながらスマホで応援を呼ぼうとするが、5組の一人にスマホを叩き落とされた。


「……卑怯……なんて、レベルじゃない……」

ケンジの怒りが、恐怖を上回った。

大剛は視界を失いながらも、必死に手を伸ばし、ケンジを庇おうとしている。その姿を見て、ケンジは確信した。

(この人は、本当に僕たちのために傷つこうとしてる……。なら、僕がこの人の『眼』になる!)


「大剛、聞こえる!? 僕が合図を出すから、その通りに動いて!」

大剛は血と砂で汚れた顔を上げ、短く、だが力強く応えた。

「……ああ。お前に預ける。命令(合図)をくれ、ヘッド!」


500位台からの這い上がり組。

「光」を失った最強の矛(大剛)と、「光」を読み切る最高の眼(ケンジ)。

二人の、そして4組の真の反撃がここから始まる

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