第3話

フェンストラは慌てて振り返った。扉は開いていた。そこに一人の人物が立っていた。若き傭兵は、その人物に驚愕の視線を向けた。


それは彼より少し年上の若い男だった。髪は濃いオレンジ色で、ミディアム丈、乱れている。額には、分厚い黒縁の眼鏡をかけていた。レンズは長方形で、白く光を反射していた。


上半身には黒く分厚いタートルネックのセーター。胸元には、銀の十字架をペンダントにしたネックレスがかかっていた。両手には黒いミトン。白いズボンに、暗色のシティシューズ。


彼は銀製の長い銃を構えていた。銃口からは煙が立ち上っていた。彼はそれを、明らかに死亡している若い女性の遺体へと向けていた。


長い死のような沈黙の後、フェンストラは口を開いた。


「何をした? 誰がお前に、彼女を殺す許可を与えた?」


その燃えるような視線は怒りを露わにしていた。しかし、彼は冷静さを保とうとしていた。


「悪いが、俺はお前の命を救ったところだ」


相手はそう答えながら、銃を下ろした。


「命を救った? 説明しろ」


射手は黒いスリングを銃に巻き付け、それを自分の胴に回して背中に固定した。そしてフェンストラに同情のこもった視線を向けた。それがさらにフェンストラを苛立たせ、彼は拳を強く握りしめた。


「誰かが、この女に呪いを施していた。彼女の体には、いつ爆発してもおかしくない魔法の爆弾が宿っていた」


「な……何だ?」


「残念だが、それを解除する唯一の方法は、撃ち殺すことだった」


フェンストラは男の目をまっすぐに見つめた。その視線を分析する。そして……そこには、一切の嘘は見当たらなかった。ほんの少し前に、あの女性が彼に向けていたのと同じ、誠実な眼差しだった。


「……くそ……」


「ここを離れた方がいい。警察がもうすぐ来る。ついて来い。話し合おう」


「……くそ!」


銃を持った男は、建物の階段を駆け下りていった。


フェンストラはすぐには動かなかった。若い女性へ視線を向ける。彼女の体は床に横たわり、血の海に沈んでいた。弾丸は彼女の頭を貫いていた。目はまだ開いていたが、そこに命はなかった。


彼は近づき、しゃがみ込み、ただ静かに手を伸ばして、彼女の瞼を閉じた。


「……ごめん。俺は……」


言葉の続きを見つけることができなかった。彼はただ立ち上がり、茫然とした表情のまま、半ば正気を取り戻し、アパートを駆け出した。


「……くそ!」


その叫び声が、建物の中に響き渡った。


数分後、処刑現場から離れた場所で、フェンストラは銃を持った男に追いついた。男は通りの角で彼を待っていた。


「今すぐ説明しろ。全部だ」


フェンストラは冷たく、強い口調でそう言い、男を睨みつけた。


男は周囲を見回し、誰も聞いていないか確認した。実際、ほとんど誰もいなかった。そこは、労働者地区の端にある、人気のない通りだった。


「話すことは多いが、簡潔に話そう。


まず、俺もお前と同じ、魔女狩りの傭兵だ――」


「どうして俺がそうだと分かる?」


「分かっているわけじゃない。推測だ。建物の階段を上っている時、壁の防音が悪くて、遠くからお前たちの会話が聞こえた。彼女が、お前に懇願しているのをな」


「チッ……思い出させるな」


「悪い。ただ、質問に答えただけだ。それに、お前は警官には見えなかった。だから、すぐに結論に至った」


「今はそこはどうでもいい……続けろ。遮って悪かった」


フェンストラは顔に手を当て、疲れ切った様子だった。


男は彼を一瞬、哀れむように見つめ、話を続けた。


「つまり、俺も魔女狩りの傭兵だ。


ここ数日、街で調査をしている。最近、現行犯で捕まる魔術の事件が異常に増えている。


調べてみると、そのほとんどの人間は、元々魔法の素質を持っていなかった。


彼らは誰かによって、魔法を使う力を与えられていた。能力を解放する呪いだ。その代償として、本人も知らぬまま、人間爆弾になる。呪いをかけた張本人が、望む時に起爆できる」


「……彼女も、その一人だったのか?」


男は頷いた。


「……あまりにも不公平だ……彼女は悪意からやっていたわけじゃない……罠にはめられたんだ……」


男はしばらくの間、フェンストラを観察していた。


「魔女狩りが、魔女に同情するなんて珍しい。たとえ善意で魔法を使った者でも、この仕事では許されないのが普通だ。」


フェンストラは黙っていた。視線を逸らしていた。


「俺もお前と同じ考えだ。だが……現実はこうだ」


フェンストラは理性的な態度を取り戻そうとした。


「他の“爆弾”を与えられた者たちは?」


「全員、今夜殺した。さっきの女が最後だった」


「……」


(同じ考えなら、こいつも哀れだ。俺より、もっと最悪の夜を過ごしたはずだ)


男は踵を返し、歩き出した。


「歩きながら話そう。少しは気が紛れる。寝る前に、考え事を減らせる」


フェンストラは一瞬迷ったが、直感的に彼の後を追った。


しばらくして、二人は徒歩でナルトゥームの裕福な地区に到着していた。二人は無言で歩いた。フェンストラは考えに沈み、言葉を発することができなかった。


銃を持つ男は、あえて沈黙を保っていた。周囲を注意深く聞き、常に人の気配を探っていた。だが、誰もいなかった。


外はすでに深夜だった。空は深い黒に染まり、灰色の雲がまばらに浮かんでいた。この地区のゴシックで暗い様式は、闇とよく調和していた。街灯と、住人のいる建物の窓から漏れる光だけが、かすかな明かりだった。地面はまだ湿っていた。


銃を持つ男が、ついに沈黙を破った。


「ところで、俺はトミョカだ。お前は?」


「フェンストラ。よろしく」


「よろしく。フェンストラ、一つ聞きたいことがある……」


「その前に、俺から一ついいか?」


トミョカは頷いた。


「この呪いをかけた張本人は、分かっているのか?」


「まだだ。調査を続けている。だが、必ず見つける。奴は街のどこかにいる」


「じゃあ、どうやって、爆弾を仕込まれた人間を特定できた?」


トミョカは口元に笑みを浮かべた。質問が二つになったことが可笑しかったのだ。


「……その件については、秘密にさせてくれ」


「いい。問題ない。

互いに、秘めた方法があるものだ」


長い沈黙が流れ、二人の足音だけが響いた。


「じゃあ……俺の質問をしてもいいか? はは」


「……あ、ああ。すまない、また遮ってしまった」


「気にするな。


フェンストラ。失礼でなければ答えてほしい。


俺たちは、厄介な仕事をしている。姿を見せない依頼人のために、警察より先に、魔法使いとして告発された人間を殺す。


危険で、面倒で、当局からも嫌われる。だが、報酬はいい。


だが……お前は、なぜ魔女を狩っている?

金のためか? それとも、個人的な理由があるのか?」


フェンストラは長い間、黙っていた。


(信じられない……初めて聞かれた。)


「……ええと……俺は……」


(誰かと、こんな普通の会話をするのは初めてだ。

いつも、殺しを依頼する相手としか話さない。

そして……殺す相手と少し話すだけだ。


だが……


今こそ、誰かに心を開く時なのか?

ほんの数分前まで、赤の他人だったトミョカに?

こうして、人との繋がりは始まるのか?)


トミョカは、フェンストラが考えすぎている様子を見ていた。


「無理に答えなくていい。

俺も、自分の調査については曖昧なままだ」


「いや……大丈夫だ。答える。


確かに、金のためでもある。だが……


正直に言うと、俺の状況は少し特殊なんだ」


その瞬間、フェンストラは体が強張るのを感じた。服の下の茨が、まるで言葉に反応するかのように、彼を締め付けた。


「どういう意味だ?」


「実は……俺は……」


(言うべきか……?)


フェンストラとトミオカは横断歩道の前で立ち止まり、馬車が通り過ぎるのを待った。


しばらくして、フェンストラは再び口を開いた。


「実は……」


「すみません、そこのお二人」


黒いスーツを着た、身なりの良い男が二人に声をかけた。トミオカのそばで立ち止まる。トミオカは、彼の接近に気づかなかったことに驚いた様子だった。


「葉巻に火をつけるものを、お持ちではありませんか?

不注意で、ライターを失くしてしまいまして」


「運がいいですね、旦那」


トミオカは白いズボンのポケットに手を入れ、ライターを取り出した。そして、男の歯に挟まれた葉巻に直接火をつけた。


何かがおかしかった。


そう、空気が一瞬で変わった。


フェンストラはそれを感じ取った。トミオカも同じだった。


二人の感覚が研ぎ澄まされた。


トミオカは、葉巻に火をつけている男へ鋭い視線を向け、わずかな不審な動きにも反応できるよう身構えた。


フェンストラの赤い瞳が、周囲を素早く見渡した。


何もない。


すぐに。


彼は右へと視線を向けた。


そして、それを見た。


この不安の正体。


かろうじて、一つの影を捉えた。

長い黒髪に覆われた顔。


だが、唇は見えた。動いていた。


トミオカの鋭い聴覚が、それを捉えた。


聞かずとも、フェンストラは直感した。


魔法の詠唱だ。


すべては一瞬だった。


フェンストラは、ライターを持つトミオカの手を、力任せに叩いた。


ライターが宙を舞った。


そして、爆発した。

まるで、本物の爆弾のように。


フェンストラとトミオカの耳は、激しい耳鳴りに襲われた。


だが、気を抜く暇はなかった。


フェンストラは身を低くした。


トミオカは振り向き、同時に背中の銃を掴み、肩に構えた。


装填し、そして――


パン! パン!


銃声が空気を裂いた。


弾丸は、長い黒髪の影の頭蓋を貫いた。


フェンストラは両手を地面につき、体を宙に放り投げるようにして、両脚で葉巻の男の顎を激しく蹴り上げた。男はスーツの内側から刃物を抜こうとしていた。


男は地面に叩きつけられた。葉巻が地面を転がった。


長髪の影は、額に二発の弾丸を受けていた。それでも倒れなかった。首を大きく後ろに反らし、再び元に戻した。まだ、生きていた。


戦いは、まだ始まったばかりだった。

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魂の棘 紫陽 @shiyonosora

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