第2話
フェンストラは、ナルトゥームの中でも、彼が犯したあの暗殺現場の路地よりも、さらに人里離れた地区を歩いていた。
通りの突き当たり、街灯の下に、一人の男が彼を待っていた。長い外套をまとい、ベレー帽の下に顔を隠している。
「アナトリーは死んだ」
フェンストラは相手の目の前まで来ると、簡潔で落ち着いた口調でそう告げた。腕を組み、何かを待つようにしていた。
「君のやり方は相変わらず効率的だ。君と仕事ができて嬉しいよ」
男は胸元のポケットから封筒を取り出し、フェンストラへ差し出した。フェンストラは人差し指と中指でそれを丁寧につまんだ。引き抜こうとしたが、男の握力がそれを遮った。ベレー帽の下から覗く視線が、彼を見据えていた。
「人でこれほど多くの魔法使いを始末できるなんて驚きだ。どんなやり方をしているのか、気になるところだな」
フェンストラは勢いよく封筒を引き抜き、男の手から奪い取った。
「仕事をしている限り、それ以外はあなた方の知ったことじゃない。他にも殺せる傭兵は山ほどいる。俺に構うくらいなら、そいつらを雇えばいい」
そう言いながら、フェンストラは封筒を開き、中の札束を確認した。
「詮索してすまない。君をこの調査に巻き込んだせいで、相当神経をすり減らしただろうからな」
フェンストラは無言で封筒をチュニックの下にしまった。男は続けた。
「アナトリー・エインル。魔術の研究に手を染めている疑いがあった。
そして、焼死体で発見された四人の若い少女殺害事件の容疑者でもあった……」
「罠にかけて始末するのは簡単だった。他に用件は? 今夜は随分と饒舌だな。それに、俺を気にしすぎている。休みたいんだ」
雨が強まる中、フェンストラの赤い瞳が依頼人を射抜いていた。
男は傘を開いた。フェンストラは距離を取ったままだった。
「実は、休む前に、もう一人片付けてほしい人物がいる」
男は一枚のカードを差し出した。そこには情報が書かれていた。フェンストラはそれを受け取り、目を通した。
「近隣住民に通報された女だ。魔女の疑いがある。確認して、事実なら……やることは分かっているな。今回はもっと簡単な仕事だ」
フェンストラは住所を記憶し、カードを袖の中にしまった。ため息をつく。
「簡単な仕事、だといいがな」
二十分ほど後、フェンストラは首都の労働者地区にある老朽化した建物の前に立っていた。カードに書かれていた住所だ。夜で、雨はすでに止んでいた。外には誰もいない。地面で眠り込む酔っ払いか、野良猫や野良犬がいるだけだった。遠くの酒場から、労働者たちが惨めな日常を忘れるために集まる騒音だけが聞こえていた。
フェンストラは建物に入り、階段を上った。古びた扉の前で立ち止まり、耳を当てる。中から、かすかに聞き取れる程度の呟きが聞こえた。
(呪文だ。間違いなく魔女だ)
考える間もなく、彼の足が古い扉を蹴破った。扉はあっさりと砕け散った。
彼は二十代ほどの若い女性の姿を目にした。古いワンピースを身にまとっている。割れた爪。乱れた髪。そして何よりも――その目。その必死な眼差し。
彼女は、彼女の悲しいアパートを構成するたった一つの部屋の中央で、テーブルの前に座っていた。その部屋は、できる限りきちんと手入れされていた。
彼女の前には、一切れのパンが置かれていた。それは奇妙だった。まるで、うまく作られていないかのようだった。テーブルの残りの部分には、羊皮紙が散乱していた。
若い女性は、フェンストラに虚ろな視線を向けた。彼の訪問に半ば驚いた様子だった。
「私を捕まえに来たの?
それとも……処刑しに?」
フェンストラは、きしみながら半ば壊れかけている扉を、静かに閉めた。そしてゆっくりと一歩踏み出し、若い女性に近づいた。彼はテーブルの上の羊皮紙とパンを観察し、それから、相変わらず落ち着いた口調で言った。
「隠れようともしないんだな。
そんなことを言えば、自分で自分を告発しているようなものだ」
「……そうね……」
彼女はそう言い、目を伏せ、虚空を見つめた。フェンストラはその場に立ち尽くしたまま、部屋全体を見回した。赤い瞳が、一枚の写真に留まった。そこには、この若い女性が、小さな少女を腕に抱いて写っていた。
「子どもがいるのか?」
「……ええ。正確には、いました。
でも……生活環境を理由に、親権を取り上げられたの」
「そうか。
てっきり、そんな制度はもう存在しないと思っていた。
路上をさまよう子どもたちを、あれほど見かけるからな」
「あなたも……とても若く見えるわ……」
「それは関係ない。
君は魔女として告発されている。
俺の前でそれを否定しなかった。
そして、このテーブルの上の羊皮紙――
それが魔術の産物であることも分かる。
結果がどうなるかは、理解しているはずだ」
フェンストラの口調は、相変わらず冷たかった。感情を隠そうとしていた。しかし、それでも、声の奥に何かが混じっていた。何かが彼を乱していた。この場の空気は、いつもと違っていた。
「これが……
私が魔法でできたことなの」
彼女は手の仕草で、目の前の歪なパンを示した。
「……食べ物を、具現化しようとしているのか?」
「夫は、私と娘を置いて出て行きました。
一つだけの仕事では、生活を支えるには足りなかった。
娘のために、できる限りのことはしたの。
でも……結局、親権を奪われて、孤児院に入れられたわ。
あの子は、きっと……そっちの方が幸せよ」
フェンストラは黙って聞いていた。彼はスカーフで顔の下半分を覆った。部屋の中に、重苦しい沈黙が流れた。若い女性は続けた。
「それから……
絶望して、危険だと分かっていながら、魔法に手を出したの。
無から食べ物を生み出す術式があると知って……
それで……
始めたの……
娘はもういなかったから、魔法を使っても危険にさらすことはない。
代償を払うのは、私一人でいい」
フェンストラは緊張していた。
それでも、できるだけ冷静に――今はほとんど慰めるような口調で、彼は尋ねた。
「食べ物を作れるようになって、
娘を取り戻し、自分たちを養おうとしている……そういうことか?」
若い女性は言葉では答えなかった。
だが、涙が頬を伝って流れ落ちた。
「どうか……
見逃してください……」
フェンストラの胸が締め付けられた。
彼は拳を強く握りしめた。
(簡単な仕事だと……?
今までは、他の犯罪も疑われている魔女だけを始末してきた……
どうして、俺がこんなものと向き合わなければならない?
くそ……)
若い女性は、フェンストラが震えるのを見ていた。
濡れた目を瞬かせながら、これ以上何も言えずにいた。
フェンストラはさらに拳を握り、眉をひそめた。
(どうした、フェンストラ?
今まで殺してきた連中が、本当に他の罪を犯していたと、誰が保証できる?
もし……騙されていたとしたら?
その場合、なぜ俺は彼女を見逃す必要がある?
もしこの女が嘘をついていたら?
裏で、恐ろしいことをしているとしたら?
くそ……
くそ……
フェンストラ……)
彼は顔を上げ、女の目を真っ直ぐに見つめた。
(くそ……
死を望む敵よりも、この視線の方が耐え難い……
あまりにも……
真実味がありすぎる……)
「魔法を使っているのに……他の使い手を殺すのか?」
アナトリーの言葉が、雷のように彼の脳裏に蘇った。
そして、若い女性が再び口を開いた。
「お願いします……
娘に、もう一度会いたいんです……」
「……分かった!」
フェンストラはスカーフから顔を上げ、手で顔をなぞった。苛立ったように息を吐く。
(たった一度くらい、任務を放り出してもいいだろ……
別の雇い主を探せばいいだけだ)
「まずは引っ越すことを勧める。
君は通報されたから、俺はここに来た。
金なら持っている。渡そう。
ここを出るには十分な額だ」
「ほ……本当に?」
女の瞳に、かすかな光が宿った。
「ああ。
君が娘に会えるよう、手助けする。
もう二度と魔法には手を出すな」
「信じられない……
本当なの……?」
「ああ、約束する。
そうだ、俺はフェンストラだ。
君は?
名前は何という?」
若い女は、生き返ったかのようだった。
椅子から立ち上がる。
「私は、ア――」
銃声が響いた。
女の頭が後ろへ弾かれた。
血しぶきが飛び散った。
「……え?」
フェンストラの口から漏れたのは、ただその一言だけだった。
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