第4話 プレシャス☆マホ参上!

「⁉・・・何?今の音?」

「そんな!もうここまで悪の魔物が進出してきたというのか?」

 麻保がワンドを手放すとフェスはそれを持って外の様子を窺う。衝撃のあった場所では緑色の炎がゴウゴウと燃え上がり青い煙がモクモクと空を覆っていく様が広がっている。

「間違いない!あれは魔物の炎だ!大変だ!まだここには魔法少女が少ないのに!」

「ねえ!どうなっているの⁉たしか魔物の攻撃は現実世界では事象の歪みとして周りには見えないはずよね?」

「そうさ!本来なら異次元の穴から流れる大いなる魔法が干渉してマジカルパワーは物理現象に置き換えられる。だけど、大いなる魔法が枯渇している今の世界ではマジカルパワーや魔物の姿に気付く一般人も少なくない!」

「え?じゃあ皆にバレちゃうってこと?」

「こうしちゃいられない!早く正義君に合流しないと!・・・グエッ⁉」

 飛び立とうとするフェスを再び麻保が引き止める。

「申し訳ないけど今キミの駄々に付き合っている場合じゃあ。」

「・・・のよ。」

「え?」

「あっちは旦那と正義が向かっていた方向なのよ!」

 はっとしたフェスは涙ぐみながら悲愴の訴えをする麻保を見ると、彼女の頭にゆっくりと手を置いて優しく撫でていく。

「気付かなくてすまない。正義くんたちが無事かを僕が見てくるからキミは二人に連絡を。」

「・・・やるわ。私がプレシャス☆マホになって魔物をぶっ飛ばしてやる!」

 そう言って麻保は魔法のステッキを持つフェスの手を握り、変身の呪文を叫ぶ。


「マジカルチェンジ!ドリームメタモルフォーゼ!」

 魔法のステッキが輝きだし麻保の体は魔法の光に包まれる。エプロン姿からあられもない姿になると徐々に光が弱まっていき、麻保は胸元が開いたフリフリのドレスに身を包みティアラのような冠を被った姿が露わになっていく。

「プリティー魔法戦士!プレシャス☆マホ参上!」

 キラキラと光の粒子が舞い決め台詞と決めポーズを取る主婦の姿がそこにあった。


「うわっ!キッツ!」

 麻保は変身後の衣装が小さいままであることに不満を漏らす。

「ん?太ったのかい?」

「違うわよ!きっとドレスが魔法少女時代のままだから今の大きくなった私に合わないの!」

「いやでも、サイズ的にはそのまま大きくなるはず・・・。」

「さっさと行くわよ!待っていなさい怪物め!」

 麻保はヘルメットを持ち出して家の傍らに置いておいたバイクに跨ると、猛スピードで現場に向かっていく。フェスはそれを見て呆気にとられていた。

「麻保、一体これまでどんな人生を歩んできたのか。」

 我に返ったフェスは慌ててプレシャス☆マホの後を追っていく。



ドッカ――――ン‼

「ダリイ――――ワ――――‼」

 一方その頃、爆発が起こった場所ではデカい蛙のような魔物が町を破壊の限りを尽くしていく。

「うわあ――‼化け物だ―――!」

「ちくしょう!なんでこんなことに!」

「皆さま、係員が誘導しますので落ち着いて行動してください!」

 怪物が現れた駅の周りでは通勤ラッシュのサラリーマン達がパニックになって蠢いており、駅のスタッフが平静を装いながら無我夢中で誘導していった。怪物の周りには警備員が盾のような物で応戦している。

「ご覧ください!突如現れた怪物によって町は大混乱!さらに怪物の口からは炎のようなモノを吐き出し辺りを滅茶苦茶にしています!」

 どこからともなく陽キャ感が漂うYO!tuberが動画を回しながらリポーターのような現場実況をしている姿も見える。

「ウェ~イ‼布里駅近くで起きた爆発とともに怪物が姿を現すと周囲を火の海にしていきます。警備員たちが懸命に怪物の侵攻を抑えていますねー!・・・おや?あれは何でしょう⁉」

 YO!tuber目にしたものは可愛らしいドレスを着たうら若き少女2人がワンドを掲げて怪物に向かっていく姿であった。

「アレは⁉・・・魔法少女だ!」

「やったー!」

 目撃したおっさんの中には歓喜の声が上がる。

「食らいなさい!フレイムアロー!」

「打ち倒せ!ライトニングシュート!」

 炎の矢と稲妻の蹴りの魔法で2人の少女が攻撃するが怪物の体には然程ダメージになっていないようだった。

「ダリイ――ワ――!」

「キャア―――――――――‼」

 怪物の大きな長い舌で薙ぎ払われると少女達は吹き飛ばされてしまう。

「ああ!貴重な魔法少女が!」

「うわあああああ!」

「なんということでしょう!不思議な技を使う2人の少女が怪物に攻撃を仕掛けましたがあえなく吹っ飛ばされてしまったー!女の子たち~危ないから下がって~。」

 YO!tuberが2人の魔法少女の心配をしている最中、衝撃で立ち上る煙の中でムクリとその2人は立ち上がった。

「ケホケホッ!マジカルパワーが無かったら危なかった。」

「マジカルパワーで身体強化されているといっても全然勝てる気がしない!どうなってんのよ‼」

 その途端、少女の影からカナリアのような妖精が出てきて忠告する。

「だから!君たちは魔物と戦えるだけのマジカルパワーをまだ持っていない!あの怪物を人がいない場所まで誘導してトラップにかけてマジカルゲートに送還するんだ!チチル☆ヒバリ&チチル☆チドリ!それが君たちには関の山だ。」

「・・・だけど、そんなの。」

 少女の1人が妖精の言葉に唇を噛みながら呻く。

「そんなの悔しいじゃない!皆を守れる力があるのに真っ向から立ち向かえないなんて!」

「ヒバリ・・・。」

 もう1人の少女チチル☆チドリが涙をこらえながら、チチル☆ヒバリの肩に手を置く。

「今はできることをやりましょう!アイツにこれ以上好き勝手やらせない!」

 それに応えるようにチチル☆ヒバリは頷き、二人の少女は立ち上がって怪物を睨みつける。

「ウオオオ―――!女の子たちは無事だ!」

「やったー!」

 おっさん達が安堵の叫びが沸くと、2人の魔法少女は魔物に指を差して言い放つ。

「覚悟しなさい!邪悪な魂よ!」

「アンタの好きにはさせないわ!」

 2人が大見えを切っていざ向かわんとすると、


「お待ちなさ―――い‼」

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