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第一話「始まる学園生活」
東京。それは彼にとっては初めての空気だった。
「此処が東京!今日から学園生活が始まる!」
駒走水樹(こまばしり みずき)は気合いを入れて言った。
水樹はTSC学園に通うことになった中三。TSC学園だと中等部3年。TSC学園とはトウキョウスポーツセンター学園とも呼ばれる日本屈指のスポーツ校。
学園のモットーは「生徒の意見を尊重する」。この学園に行くためには筆記もそれなりに必要だが何より重要なのが運動系。並では合格も難しい。しかし、面接でやる気があれば並以下でも入学できる可能性はある。
「それにしてもTSC学園デカっ!流石だな~」
門の大きさに興奮していると門に立っている人が話しかけてきた。
「あ、こんにちは。新入生の方ですか?『人コース』はあちらになります。」
「あ、ありがとうございます。」
「(そう言えば『人コース』と『ウマビトコース』ってのがあるんだっけ。)」
この世界には二つの種族が共生している。それが人間とウマビトである。ウマビトは人間に似ているが何処か違う種族。美しさと速度を兼ね備えているからウマビトと呼ばれる。
TSC学園はそんな人とウマビトが一緒に学園生活出来る学校。ただ、身体能力の差がある為、あらかじめ『人コース』と『ウマビトコース』に分けられる。
人がウマビトに勝つのは不可能。という暗黙の了解がこの世界にはある。ただTSC学園では別で...?
「取り敢えず向かおう。」
──ワアアアア!
すると何処からか熱狂が聞こえる。
「な、何だ!?もしかして」
TSC学園には二大イベントがある。それが「Regular races」と「定期スポーツ学園大会」である。
「Regular races」はTSC学園のメインイベント。このイベントは毎回盛り上がる。レースの条件も様々であり、草、土、砂など色々ある。
一方、「定期スポーツ学園大会」は様々なスポーツの大会の総称である。レースが苦手な人はこちらに出ることも多い。
因みにどちらのイベントにも『人部門』と『ウマビト部門』がある。流石に体格差があるのか『人部門』にウマビトが出るのはルール違反とされる。ただ、『ウマビト部門』に人間が出るのはありとされる。ただほぼ勝つのは不可能。
「Regular races!しかも今回は入学記念・進学記念レースで午前からやってるんだ!」
「距離は1500m、部門は『ウマビト部門』、天気は晴れ。よし、行ってみよう。」
そう言った水樹はレース場の観客席に向かった。
「......ふう。今日も楽しく。」
「──あ。あなたは?」
観客席に着いた水樹は謎の女性の生徒に話しかけられる。ただその姿は人間では無かった。ウマビトだ。
「俺は駒走水樹(こまばしり みずき)。貴方は?」
「わたしは速水風花(はやみず ふうか)。ウマビト。あなたなら聞いたことあるかも。」
風花は水樹と同じ中等部3年。だが水樹とは違い、中等部1年の時からTSC学園の生徒である。性格は静かでクール。だが根は優しい。実は意外と流行に詳しい。一人称は「わたし」、二人称は「あなた」。走り方はずっと前に立ち続ける「逃亡型」。
「所であなた、レースには出ないの?『ウマビト部門』だからあなたも出られるよ。」
だが水樹は苦笑いした。
「ああ。俺は人間だから。速水さんの相手にはなれないし、それに」
「──認めたくないけど...ウマビトと人間の差って大きいしさ。」
水樹には嫌いな人がいた。いつも近くに居る存在。それは自分の父親である。名ランナーの血を受け継いだ父はいつも水樹にこう言っていた。
『血統が大事だ。才能よりも。』
『ならば努力出来ないお前がどうやって俺を超えれると?』
その言葉は水樹にとっては「誇り」では無くただの「圧」だった。
だからこそ水樹は望んだ、TSC学園という屈指のスポーツ校に入学することを。
「(あの時、おめえは珍しくまともな事を言った。)」
「(最もあの時はおめえの言う事なんて理解してこなかったけどさ、今なら理解出来る気がする。)」
「(ましてや目の前に居る速水さんみたいな強そうな相手だとさ。)」
「.............そう。やはり言いたくないけど...人間とウマビトの差は大きいのね。教官が言ってたけど。」
事実でしかない。前述したとおり、人間がウマビトに勝てた例は殆ど無い。
「それじゃあわたしはレースに向かうから。あなたも見てくれたら、嬉しい。」
「ああ。見ておくよ。」
そう言った風花は楽しそうな足取りでレース場に向かって言った。
「さて、どんなレースかな。」
レース場にて──
「さあ!今年もやって参りました!『Regular races~入学記念・進学記念レース』!」
元気な声がマイク越しに響き渡る。
「実況は私、如月はやか(きさらぎ はやか)が務めます!」
はやかは中等部1年の人間の女性。元気で明るい性格。身体能力は人間の中ではそれなりにある。
一人称は「私」、二人称は「貴方」。走り方は性格に似合わず、「後方型」(最初は後ろで待機し最後で勝負をかける走り方。)
「さて今回のレースの一番注目は誰でしょうか!」
「人コースでは土井疾風(つちい はやて)が一番注目されています!」
疾風は中等部1年の人間の男性。生徒会副会長。常識人で苦労人。
一人称は「私」、二人称は「お前」(先輩や先生の前では「貴方」)。
走り方は前目に付ける「先行型」と最初は中団で走り、中盤くらいで前に出る「中団型」。
「一方、ウマビトコースでは速水風花(はやみず ふうか)が一番注目されています!」
「...........どんなひとが相手だろうとわたしは楽しく走る。」
風花は息を整えた。
「そして教師陣からはなんと!星光彼方(ほしのひかり かなた)が唯一の参加者です!」
彼方は高等部の物理を担当している教師で男性の”弱い”ウマビトと名乗っている。が、これは油断させる為らしいが...?年齢30。
一人称は「自分」、二人称は「貴方」。
走り方は「後方型」。
実況の声に観客席はざわついた。
「...え?これ入学記念・進学記念レースだよね?なんでアイツが出てんの?」
「まあ、別に気にすることでもないんじゃない?ウマビトには勝てないし。」
「そうだよな。だって相手には土井副会長と速水さんが居る上に他の生徒も強そうだしな。」
冷静に考えてみれば分かる意見だった。だが、水樹は観客とは真逆の事を思っていた。
「(はあ...皆、父みたいな考え方...いや父みたいってのは失礼か。)」
「(きっとこの学園だったら”それ”が出来る人も居る筈だ。...暗黙の了解を破る事すら。)」
「──それではレース始まります!参加者はスタートラインに立って下さい!」
「(──速水さんの走り見せてもらおう。)」
「さて皆さんレースを開始します!」
「────スタート!!」
実況の声とともに参加者が走り出した。
「さて、まず一番前に居るのは速水風花!ウマビトコース一番注目は伊達ではありません!」
「(わたしはただ楽しく走れば良いだけ。)」
「その次に土井疾風!その後ろに速水風花のクラスメイト新木伸次(あらき しんじ)がいます!そして差が無く生徒会メンバー橘カエデ(たちばな かえで)が居ます!」
伸次は好奇心旺盛な中等部3年のウマビトで男性。好奇心旺盛だが実力は過小評価されている。走り方は様々。
カエデは生徒会のメンバーの高等部2年の人間で女性。疾風の先輩だがカエデは不真面目。だがスポーツとなればやる気を出す。走り方は「先行型」。
「そして最後方には星光彼方がいますがこれは離れすぎか!?」
「(問題はない。最後に抜けば良いだけ。)」
「──やっぱり風花さん凄い。」
「(────今の所、順調だ。私も今回こそは風花に勝つ!)」
「(はやて君凄いね~あたしとは大違いかも~)」
そして残り600m付近──。
「さて残り600mですが順位は変わらない!先頭は速水風花!」
「星光彼方はまだ最後尾!スタミナが尽きたのでしょうか!」
「──やっぱりな。教師が生徒には勝つのは難しいんだよ。」
「それは...!でも...あの人、後方型じゃない?」
「にしても...なあ。」
観客席はノイズが響き渡る。ただそんな事は彼は気にしていなかった。
さらに時間が経って残り400m──。
「さあ!!最終直線です!一体誰が勝負を仕掛けるのか!」
「──此処だ!」
疾風がスパートを掛けた。
「まず勝負を仕掛けたのは土井疾風!」
しかし、実況も観客も気付いていなかった。他に”光”が先頭の風花に近づいているのを──。
「次に橘カエデ!...あ、いや!」
「星光彼方もスパートを掛けた!人とは思えぬ速度!」
彼方は先頭の風花に目にもとまらぬ速度で前に出る。
「っ!わたしのレースを邪魔しないで!」
「それに気付いた速水風花!スパートをさらにかけます!」
「(──凄い。)」
水樹は思わず息をのんでいた。
「勝つのは教師の人間か生徒のウマビトか!」
「残り200m!他の参加者も上がってくる!しかし、新木伸次!落ちてくる!」
「もうこの二人以外はスタミナが残っていません!!」
「残り100m!この名勝負勝つのはどっちだ!?」
ゴールイン。結果は──。
「ゴールイン!!勝者速水風花!今年もウマビトが勝ちました!!」
──ワアアアアアア!
「...凄い。」
観客席は大盛り上がりだった。だが、その一方で勝者である筈の風花は心の中で焦っていた。
「(勝った。だけど...差はわずか70cm...?ウマビト同士じゃないのに...?)」
「(怖い。あの人に負けるのが。こんな感情初めて...)」
一方でわずかな差で負けた彼方は...
「(凄い。流石速水風花さん。あのひとは強い。)」
「(自分も速くさらに速くなろう。そうすればきっと...)」
心の中で彼女の強さを認めていた。
そして時間が経ち、勝者も敗者も観客席に戻っていった。
風花は真っ先に水樹の所に向かった。
「.....凄かった。風花さん。勝つなんて。」
「ありがとう。だけど、差はわずか、だった。...もし遅れていたら....」
「それでも”勝ち”は勝ち。凄い事だと俺は思うよ。」
「あ、でも星光先生?も...かなり強かったような...」
風花は頷いた。
「ええ。...ごめんなさい。わたし、トレーニングに行ってくる。見てくれてありがとう。」
「ああ。熱いレースをありがとう。」
そう言って風花はトレーニング室に向かって行った。
「(このTSC学園は俺を熱くしてくれる素晴らしい学園だ...!)」
「(風花さんみたいに俺も頑張らないとな。)」
水樹の物語はまだ始まったばかりだった。
次回予告
大盛り上がりした入学記念・進学記念レース。勝者と敗者。それぞれのレースへの結果の振り返り。そして生徒会会長が思う
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