scene13爆乳メロンになりたいっ!

 コンコン、ノックスリー

「よっ、おふたりさん、ちょっといい?」

俺が深い闇に堕ちそうになる頃、ゼウス・リョウタがバディと連れ立って入ってきた。

「ブォナ セーラ」

ココナはすくっと立ち上がって、すぐに俺の隣へ移動してきた。

ハ、いちいち行動が可愛いココナ。

「ココちゃん、久しぶり! あら――痩せた? ダメよ、今痩せると本就職した途端にドクロになっちゃうよ?」

「おぃパルカ、ココちゃん壊れるからやめとけ」

島田さんは入ってくるなり、移動してきたココナのことをわざわざ追いかけてきて、か細いココナの肩を鷲掴み、ブンブン揺さぶっている。

その揺さぶる度にぼいんっぼいんって、もう!

目のやり場に困るのよ、島田さんブラちゃんとつけてる?

って、俺はこの色女島田さんの胸のメロン二つにメロメロ……だ、ってこれ駄洒落じゃないぞ!

ほんとこの人のエロオーラは強烈だ。

リョウタがなぜこの人を避けるのかよくわからないが、実はこのペア、なにげメンバー間では名物。例えると……長年連れ添った夫婦みたいに。ここんち、完全なプラチナペアだけどリョウタはシルバー扱いされている。漢字が大の苦手という高卒のリョウタを捕まえて『お前が高卒の品位を落としているのだ』なんて、島田さんは遠慮なく言うんだ。

島田さんはきっとこのぼいんぼいんを失ったら、どっかの研究室で一生をかけてミミズを研究するような人なのだろう、抜群に白衣が似合うことが想像できるリケジョタイプ。もし最も美しいリケジョ選抜大会があったら、俺は迷わずこの人を推せるよ。

「リョウタ、あんた私以外には相変わらず優しいじゃない。だけど、ココはダメよ。ミユはともかくね!」

あらら、島田さんにまでバレてるんだ。

リョウタよ、お前は確かにゼウスだけども、そういうところはお前の良さとも言えるけども、あけっぴろげすぎるんだよ言動が。ここは人間界だ、もうちょっとそっち方面は秘めごとにしろよ……と俺は、ぼいんぼいんからやっと目を離して島田さんとリョウタの睨み合いを見ている。と、リョウタがこちらへ顔を向けて、

「あのさ、春イベのキャッチなんだけど、かぶらないように確認したくて」

真面目に言う。

俺がすぐさま、

「いや、まだそこまで決まって……」

と答えようとしたらすぐさますぐさまに、

「私は、アツミのあれがいいわ」

と、ココナ。

ここで場内が静まり返った。

リョウタはお口をぽかんしてココナを見て、島田さんは驚いた顔でココナをガン見、俺は思いっきりココナへ振り向いた。

「ココちゃん、アツミって……言うのか」

「ちょっとココ!」

「ココナ?」

で、今度はリョウタと島田さんの視線が俺へ刺さりまくった。

「は? お前ココナって呼んでんの? は、なんで?」

「まさ……か、あっくん……これってリョウタのせいね!」

「はぁ? なにが俺のせいだよ」

「だっておかしいじゃん! このあっくんがよ? あの純朴なあっくんがメンバーのことを呼び捨てなのよ? どうせエロだだ洩れ男のあんたがなにか吹き込んだんでしょ!」

「はぁ――っ? 吹き込むってなんだ! エロだだ洩れ男だぁ? はっ! エロは男の絶対スキルだって知らんのか、この爆乳メロンがぁっ!」

「あん? 爆乳で結構! このチチ目の保養にしてたあんたを見逃してやったの忘れたのかしら!」

「へ――んだ! んなのデカけりゃ何でもいいだ、入店七日で飽きたよ、このチチ女!」

「チチ……おんなぁ? あんたってやっぱセンスないわぁ、エロだだ洩れで脳が溶けてるのね! どエロ脳汁男が!」


ちょ、ちょっと……や、やめて?


ここは、カフェ「ダバンティ」、レディに愛されるカフェ、地域に愛されるカフェ、なのよ。

まぁ、エロだだ洩れ男は合っているけども、爆乳メロンも合ってはいるけども……って、いやそうじゃなくて、そんな下品な言語は控えてくれないかなぁ……だって俺の女神が恥ずかしがるだろう、とココナを見たら、


「爆乳メロンになりたいっ」


だって。


なんですか、この生き物。

この子どこで生きてます?

「きゃ――っきゃわいい! だからココ大好きよっ」

と、島田さんはぼいんぼいんをココナに乱打、が、

「そうだな、ココちゃんはもうちょっとデカイ方が……いて!」

リョウタが本音を吐いて島田さんから即エルボー、

「腐った眼でココのことを見るんじゃないわよ、ばか!」

「は――っ、お前のメガネは棒と玉しか見えてないだろうが!」

あ――あ、あ――あ、吐く言語の醜悪さ、よ。

聞いてらんないわ……この二人は前世でなにかの因縁でもあるのだろうか、罵り合いが即興とは思えない罵詈雑言の羅列でマジ引くわ。とそんな修羅場のような空気の中で、

「アツミもメロン好き?」

と言う女神の囁きが甘すぎ。

俺は、たった今生まれて初めてデレを覚えたかもしれない。

「えっ、あっいや、ははは」

正直俺は今、瞬時に島田さんの顔をココナにすり替えてた、そうしてしまっていた。

なんたる不覚!

「ほぅ! さすがのアツもそんな風になんだな」

リョウタが顔をしかめて言う。

「なにがだよ!」

俺が慌てると、

「あら、めずらしいわよね?」

と島田さん。

「なにが、ですかパルカさん」

今日の俺はひるまないぞ!

俺は神に昇格したばかりだからね! 

「確かにココは可愛いけど、今のあっくんったら恋心を隠せていないわ」

「あっ、ええ? なに言ってんすか」

俺は今全身が赤く染まったに違いない、

「あっくんがねぇ……やっぱり男は男なのね」

としんみりと言う島田さんへ、

「いやいや、俺だから! 俺がアツと『イイこと……』」

リョウタが余計なことを言い出しそうだったから、

「ああああっリョウタ!」

俺は慌ててリョウタの口を塞いだ、名前を呼んで。

もう、『イイことシあう仲』とかどうでもいいけど、なんでここでカミングアウトさせようとしてんのコイツ。

俺の不埒な想いも含めて、リョウタへの気持ちにケリをつけたいとは感じているけど、それはまだ他のメンバーに知られたくない。ここが大好きだから、だから俺はここでは普通でいたいから。

それにココナには知られたくないんだ、絶対に。

ココナには? あ、いや、誰にも知られたくはないよ。そうなんだけど、ココナには、もっと、もっと知られたくない……んだ。

「はぁ――っ、なんだよアツ。タクミと話してからやっぱ変だよな」

またまた見当違いなリョウタ、

「そんなの関係ないって。ところで島田さん、俺とココナもまだ決まってないんだけど、ココナの提案で通るかもしれないから、夏イベの時の俺のキャッチは外しておいてくれますか」

「ああ、あれね。了解。あれ、いいわ。私も好き」

島田さんはうっとりするような仕草で答えてくれた。

なんだか嬉しいな。

だって島田さんはNO2で女性ファンも掴んでいる人。ぼいんぼいんとこのメガネに俺はぞっこんだけど、動きもチャーミングで色気が安くない恰好いいカメリエーラ、大先輩で尊敬できる人だ。その人からこんな風に褒められると、やっぱり嬉しい。

そうだよ、こういうことだよ。

嬉しさを実感できる褒められ方を欲しているんだよ俺は。

承認欲求は人並みにある、俺、仁科くんに褒められたって実感を味わったこと0な気がするのは、こういうことなんだよな。

「あれか――っ! 手ごわいなアツ」

リョウタも嬉しいことを言ってくれる。

なにより俺は、コイツに勝ちたい、好きなリョウタに、参ったと言わせたい。

「アツミ! 嬉しい!」

と、ココナは俺の両手を握って跳ねた、顔がカッとなってガチガチになる俺。

「……ごめん、なさい」

ココナが一気に笑顔を失って、恥ずかしそうに手を引っ込める。

「あ、ああ、ごめん。びっくりして」

俺はあふあふ池の鯉のように、口から大量の二酸化炭素を放出。

と、コンコン……コ、ノックスリーが不完全なままドアが開く、

「んも! やってらんないから!」

「あ――ね、ミユ、怒ったって仕方ないって……あれ?」

激おこ中のミユと谷くんが騒がしくご登場。

あ、ああ、ミユ……。

俺の悪い予感フラグがまたまた敏感におったった。

で、ここもキャッチの確認かなと瞬時に判断したが、ずっぱし大外れの予感もしたとき、俺らに気づくのが遅すぎるミユが、憎たらしい言いっぷりと表情で挨拶。

「ボンジョルノ!」

「ブォナ セーラよ、ミユ」

即座に迎撃、腕を組みぼいんぼいんを安定させて一喝するさすがの爆乳メロン。

嗚呼、今、新しい女神伝説が始まろうとしている。

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