第6話 魔王様の閃光

 この後どうしたらよいか決めかねているうちに、襲撃の揺れで食堂の天井にヒビが入ったらしく、結構な量の土砂がドバッと落ちてきた。


「なっ」

「うわっ。これ俺らも避難した方が良くないッスか?!」


 田島と2人で食堂から廊下に飛び出すと、上り階段の天井にもヒビが入ってきている。


「まずい、これ地下から出られなくなるかも?!」

「けど上は戦ってるんスよね?! 上に上がって大丈夫スか?!」

「ひとまず地上に向かうしかないよ!」


 俺と田島は慌てて細く長い階段を駆け上り、肩で息をしながら1階の裏手から城の外に出た。


 どこに身を隠すべきか悩み、結局城から少し離れた森に隠れ、息を潜めて状況を窺うことにした。

 急激に空模様が怪しくなってきて、空で雲が渦巻いている。

 

 初めて外から見る魔王城――石の壁に多数の尖塔を持つ巨城の上層階に、赤い鱗のドラゴンらしき巨大な魔物が勢いよく体当たりして、少しずつ城の外壁を破壊している。


 あれが魔将軍デネスなんだろうか。

 あたりにはドラゴンの雷鳴のような唸り声と、少し遅れて届く衝撃音が轟いていた。


「魔王様が出られるぞ!!」


 響いてきた誰かの声とともに、魔王城最上階のバルコニーに人影が現れた。

 

 えっ、あれは……女性?


 遠目なのでよく見えないが、妙齢の女性が夜風に短い銀髪をなびかせ、薄青い肌に黒い外套を纏っているように見えた。

 

 遠くから見ているはずなのに、その女性の冷たく射るような視線の威圧感は地上からでもビリビリと肌に感じた。


 あの人が魔王様なんだ……

 てっきり男性で、もっと魔物っぽい感じかと思っていた。

 

 彼女はただ立っているだけでも、指導者としての統率力と説得力があることが窺われるオーラを放っていた。こういうのをカリスマ性とでも言うのだろうか。


 するとドラゴンの方も空に飛び上がり、魔王様の正面に飛来、両者が対峙した。

 互いに臨戦態勢、一触即発の空気。


 そして魔王様はドラゴンを一瞥すると、すっと手を真上に挙げた。

 

 その瞬間、 

 黒い閃光が瞬いたと思うと、地鳴りのような猛烈な轟音があたりに轟いた。


「うわっ!」


 大地震みたいに地面が揺れる。俺は慌てて近くの木にしがみついた。


「あっ!」


 侵略者のドラゴンが空中で気を失ったように、仰向けに落ちていく。

 いや、もしかしてもう死んだのか? 今の閃光で?


 再び轟音、大きな振動とともに猛烈な突風。あのドラゴンが近くの森に落ちたのだろう。 


 揺れが静まると、あたりが静かになった。


 再びバルコニーに視線を移すが、魔王様は外套を翻して最上階の部屋に戻ってしまった。


「終わった、のか……?」

「あいつ、死んだんスかね」


 俺も田島も特に怪我もなく無事だった。

 

 森に潜んだまま少し様子を見ていたが、その後はもう何も起こらなかった。


 どうしたら良いか分からないので、誰かに会えないかと森から出て城の外周を歩いていると、


「あ、ゾロさん!」


 瓦礫を片付けようとしている魔物たちの中にゾロを見つけた。


「ああ、お前ら2人とも無事そうでよかった。来て早々に驚かせることになって悪いな。魔将軍デネスは魔王様が倒したからもう心配いらないぞ」


 やっぱり倒したんだ。

 一撃だったな……


「食堂はちょっと修理が必要だけど、ヒト寮の方は大丈夫らしい。2人で戻れるか?」

「あ、あの。ちょっと待ってください。聞きたいことがあって」

「いいけど、どうした?」

「あの……魔物ってみんな魔王様の手下じゃないんですか?」

「そうッスよ、びっくりしたッス。今のドラゴン、敵なんスか?」

「あー……そっか、知らないよな。じゃあちょっと話しておこうか」


 ゾロに連れられて裏手の扉から魔王城に入り、小部屋に入った。古い椅子やテーブルが並んでいる。


「ここ座ってくれ。まあ、いずれ知ることだから説明しておく」


 ゾロが俺と田島の目を順番に見る。

 

「セシリア様――魔王様はこの世界で最強。だけど、魔王様の味方はなんだ。魔王様は、各地の魔将軍たちから命を狙われている」

「……えっ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る