第5話 魔将軍の襲撃
意外にも、給料は普通に支払われた。
帰り際、ゾロに鈍い金色のコインがぎっしり入った巾着袋を渡された。
これが10万ドラらしい。いや単位ちょっとよく分かんないけど。
そして、ヒト寮も案外快適だった。
部屋は相部屋で、さっき新人研修にもいたらしい田島という男と同室。
田島はギャンブルで全財産スッたらしい、タバコ臭い金髪の若者だった。
「俺1~3階担当なんスけど、めちゃくちゃ忙しかったッスよ~。宝箱目当ての
「あ、なるほど。下層階の方が忙しいんだ?」
「上層階の奴らが羨ましいッスね。たぶん冒険者あんま来ないっしょ」
部屋にはごく簡素なベッドが2つと、簡単な布製の服が10着くらい入ったキャビネットが1つ、部屋の外に共同の風呂とトイレ。
まあボロアパートに住んでた俺からすると、悲しいかな、正直あんま大差ない。
まあ普通の部屋と違うのは、窓が無くて、代わりに壁に刺された松明がいくつかあることかな。
だってここは魔王城の地下だからね。
風呂の前に、田島と一緒に食堂に向かうことにした。
木製の扉を開けると、食堂は魔物たちと共同らしく、なんかファンタジーの酒場っぽい雰囲気。注文や料理の提供をするらしいカウンターと、木製の丸テーブルと椅子がたくさんある。壁は洞窟仕様。
カウンター近くの壁に掛けられた木の板に汚い字でメニューが書いてあり、全然知らないようなメニューがたくさん並んでいる。
妖精の佃煮? 何それ怖い……
そして下の方に「ヒト用メニュー」という文字を見つけた。「A.ビーフシチュー B.オムライス」と書かれている。
え、びっくりするほど普通のメニューじゃん……
カウンターで1000ドラ払ってAのビーフシチューにしたら、極めて雑にぶち込むように盛り付けられたビーフシチューが出てきた。ルウが皿だけでなく下の木製トレイまで派手にこぼれている。
ま、まあ……盛り付けてるの夜勤のスケルトンだから仕方ないか。うん……
Bのオムライスだとどうなるんだ? と興味本位で隣のトレイを覗き込むと、いつの間にか田島はもうテーブルに向かっていたらしく、俺が覗き込んだのはゴブリンのトレイだった。
そしてゴブリンは"妖精の佃煮"を受け取って嬉しそうにしている。なんかウゴウゴしている皿の中身が視界に入る。
……俺のビーフシチュー、あれと同じ調理器具で作ってないよね? 大丈夫だよね?
なんとか気を取り直して、田島のいるテーブルに向かう。どうやらテーブルの場所取りをしてくれていたようだ。
そして田島の前には、意外とそこそこきれいに盛り付けられたオムライス。
なるほど。スケルトンによって対応に当たり外れがある……
「しかし、魔王城の地下に寮とか食堂があるなんて想像もしなかったッスね~」
それは本当にそう。
俺たちは魔王城のことをなんとなく知っているようで、何も知らなかった。ここはまさに未知の世界だ。
俺は雑に盛り付けられたビーフシチューにスプーンを入れて食べた。
お、味は普通に旨い。よかった!!
ビーフシチューを食べ進めていると、
ズウゥゥ…………ン!!!
「「……!!」」
どこかから地響きのような轟音が響いてきて、食堂全体が、何かの衝撃を受けているように何度も揺れはじめた。
「なにこれ……何か揺れてる?!」
「ゆ、揺れてるッス!! なんスかこれ!」
周りの魔物もギャアギャア騒ぎはじめた。何やら異常事態らしい雰囲気。
しかし振動は止まらない。一体何が起きてるんだ?
だんだん異様な雰囲気になってきたところで、食堂にゾロが飛び込んできた。
「みんな無事か?!」
「おいゾロ、何があったんだ?!」
「上層階に襲撃があった!!」
「襲撃だってェ?!」
「魔王様ハ無事ナノカ?!」
「おい、上層階ってことは、飛べるヤツらじゃねえか?!」
食堂にいた魔物たちが口々に叫んだ。
「みんな落ち着いて! 魔王様は無事だ! いま応戦の準備をして向かっておられる!!」
「ゾロ! 襲撃したのはどこのどいつだ!!」
隣のテーブルのオークが叫ぶと、ゾロが神妙な面持ちで答えた。
「魔将軍デネスだ」
ゾロの言葉を聞くや否や、魔物たちが怒り狂い叫びはじめた。猛々しく雄叫びを上げる者、テーブルに拳を何度も叩きつける者、地面を激しくドスンドスン踏みしめる者。
ちょ……大丈夫なの? これ。
「殺シテヤル!!!」
「あンのイカれたドラゴン野郎め……!!」
「おい、俺たちも魔王様に加勢しに行くぞ!!」
魔物たちが我先にと出口に押し寄せていくのを、呆然と見ている俺と田島。
「……みんな、行っちゃったね」
「そうッスね……」
「えーと……つまり、魔将軍とかいうドラゴン? が、上層階に襲撃してきたってこと……?」
「みたいッスね」
「どういうことだろう? 魔物同士はみんな味方ってわけじゃないのかな……?」
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