6 明日は晴れだと釜が笑う

 占者が捕まった数日後、主膳しゅぜんたちは亀岡屋かめおかやを訪れた。


「釜は結局、どうなったのですか」


 主膳は大旦那に恐る恐る問うた。


「近所のおかみさんにあげましたよ。ちょうど釜が壊れたところだったようでねえ、喜んでいましたねえ。物を大切に扱ってくれるような方ですから、安心してくだせえ」


「釜を大切にしてくださる方を見付けてくださり、ありがとうございます」


 山囃子やまばやしが主膳の肩の上でゆらゆらと体を揺らし始めた。


「会いたかったな。一緒におどりたかったのに」


 しょんぼりしている山囃子を撫でて慰める。


 丹弥たんやが大旦那と話し始めたため、主膳は山囃子を撫でながら待った。


「主膳、待たせて悪かったな。蕎麦を食べて帰るか」


 亀岡屋を出て、蕎麦の店に向かう道中、ふと、不思議な歌声が聞こえた。


「ねえ主膳、変な歌が聞こえるよ。行ってみようよ」


 早くも身を乗り出す山囃子を片手で支えつつ、丹弥を見上げた。


「丹弥さん、少し寄り道をしてもよろしいですか。不思議な歌声が聞こえるのです」


「いいが、俺には何も聞こえねえな。妖が歌っているのか」


 大通りから外れて歌の聞こえるほうへと進む。長屋が立ち並ぶ辺りまで来ると、歌がよりはっきりと聞こえてきた。


「かなり近いですね。丹弥さん、ここから聞こえるようです」


「俺には聞こえねえな。どんな歌声なんだ」


「予言をする釜の歌声のようです。占者の所で聞いた時よりも楽しそうですよ」


 釜は長屋の中にいるようだ。主膳は独特な節がついた歌声に耳を傾けた。

 長屋の壁の薄さに加えて、釜の歌声が大きいため、言葉がはっきりと聞き取れる。


「明日は晴れ、晴れ、雲一つない快晴だよ」


 釜の予言につられて空を見上げる。

 明日は快晴だと信じられるほど晴れ渡っていた。

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明日は晴れだと釜が笑う 旧部 悠良 @furubeharuakira

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