4 予言は嘘か真実か
「あの場で話を聞いた限りでは、巾着切り(スリ)に遭うと予言された人が三人。実際に巾着切りに遭った人が一人。夜盗に入られると予言された人も一人いたな。釜の予言を聞いた後、夜通し起きていたからか、夜盗は来なかったそうだ。釜のおかげで難を逃れられたとありがたがっていたな」
「予言されたのに、実際に巾着切りに遭った人もいるのですね。
巾着切りに遭うと予言されたのなら、警戒するはずだ。それでも掏られたのかと驚いた。
「予言された後、すぐに腰の巾着を見たら、すでになくなっていたそうだ。
主膳はゆるゆると首を横に振った。
「釜と占者の言うことは、まったく違っていました」
「魚を五匹釣るって言っていたよ」
「釜は、笑ってしまうほど平和な予言しかしていませんでした。姿も以前と同じでしたよ」
「なら、占者が金儲けのために嘘の予言をしていると、はっきりしたな」
丹弥の断定に主膳は首を傾げた。
「釜の声が聞こえないだけで、占者は本当に予言ができる人なのかもしれませんよ。釜はただの小道具として置いているのでしょう」
京に住んでいた頃、予言を得意とする人とも関わりがあった。占者が予言の力を持っていると言われても、信じられる。
「なら、確かめるか。真実、占者が予言しているのか、それとも、金儲けのために嘘を吐いているのか」
どうやって確かめるのだろうと考えている間に丹弥が言葉を続ける。
「きっと俺らと同じように怪しんでいる奴がいるはずだ。占者もよくわかっていると思う。早く対処せねば、逃げられるだろうな。だから、確かめつつ、悪い奴だったら、捕まえてえ」
丹弥が射るような眼差しを主膳に向けた。
「主膳、囮になってくれ」
「何をすればいいですか」
即座に承諾した主膳に丹弥が険しい顔をする。
「まだ詳しく話していねえのに受け入れるなよ。命に関わる話だったらどうするんだ」
「どれだけ悪ぶっても、丹弥さんは無体を働く人ではないと知っています。丹弥さんを信頼しているから引き受けたのですよ。それで、何をすればいいのですか」
盲従したわけではないと伝わったらしい。丹弥の表情が和らぎ、常の凪いだ表情に戻った。
「主膳には掏られる役をしてもらう。もし、巾着切りが現れたら、俺が捕まえるから、主膳は、ただ立っているだけでいい。囮の巾着も俺が用意する。銭の代わりに平たい石でも入れておくか。どうすれば掏られやすくなるかな。いかにも金持ちの子供らしい着物を着せるか」
どんな難しい役目をさせられるのかと思えば、本当にただの囮なのか。思ったよりも遥かに簡単な役目で拍子抜けした。
「上等な着物なんて持っていませんよ」
「着物は師匠に頼めば用意してくれるだろうから、俺が借りてくる。できれば、同心がいればいいな。亀岡屋の大旦那に頼んで呼んでもらうか。主膳、留守を任せた」
何か手伝えないかと聞く暇もなく、丹弥は慌ただしく出て行った。
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