第2話
本拠地にあるマザークリスタルが破壊された場合、即座に敗北が決まる。実際にノックアウトの発生する試合は10回に1回程度だが、本拠地襲撃のインパクトと吸引力はとにかく大きい。要するに、即負けのリスクが多すぎて必要以上のプレイヤーが本拠地に集まってしまうのだ。実際今も、マップを確認してみれば味方を示す緑の点が本拠地に集中し、前線の戦力が一気に手薄になっているのがわかる。
50対50の大規模戦闘だが、実際にはソロや少数グループが集まった烏合の衆。指揮を執るものもいなければ全体がボイスチャットで繋がっているわけでもないため、役割分担が難しく派手な陽動は効果が出やすい。
しかもマギアウォーズには、大人数であっても個人で局所的に戦況を動かす手段が用意されている。
「やっぱ鼻が効くやつはここで仕掛けるよなぁ!」
敵側B拠点から飛び出したのは、全身に甲冑を着込み、馬のような魔獣に乗った重装騎士だった。
騎士は身を隠すことなく突進し、正面から銃撃を受けながらも接近。少数でなんとか守ろうとする味方の戦線を壊しにかかる。時代錯誤に見える装備だが、実際には幾重にも施された魔法で銃弾を跳ね返し、通常火器ではほとんどダメージを与えることもできない。
さらに、高所からの援護でなんとか騎士を排除しようとするロックたちの元にも、多数の敵が押し寄せてくる。数はぱっと見で20以上。あくまで50人規模の戦場では、そうそう集まらない大軍だ。ただしおそらくほとんどは、召喚されたNPCだろう。
戦場で活躍するほど加算されていくスコア。これの使い方はふたつ。
ひとつは強力な兵士での出撃。マギアウォーズでは3種類まで兵士の装備の能力のカスタムを登録しておいて、リスポーンのたびその中から使う兵士を選べるのだが、強力なカスタムの兵士は使用にスコアを消費する。その代わり安い兵士と比べて明確に強く、単独で戦況を変えるほどのパワーを持つ。
そしてもうひとつの使い方が、NPCの兵士を召喚すること。撃ち合いで消耗していくため自身で強力なユニットを使うときほど持続力はないが、安定した活躍が可能でかつ火力が何倍にも膨れ上がることによる短期的な爆発力は凄まじい。
「これ止めるのは無理だな」
下からの火力を土嚢で避けながら、ロックは守りきれないと悟る。
「引く?」
「できるだけ削る。ここであの数をそのまま上げるのはまずい」
復帰してきたパールの言葉に否と返す。落ちるのは免れないが、今のうちに数を減らさなければ丘の要塞化が捲れないレベルになる。
こういうときはそこそこいいAIを積んでいるのが鬱陶しい。NPCにも遮蔽物で身を隠しながら撃つ頭はあるし、命中率も悪くない。それでも、腕のいいプレイヤーと比べたらだいぶ劣る。有利な地形のおかげもあってパールと合わせて10人は削り、しかしそこでヘッドショットの直撃を受けてHPが消し飛んだ。
◆
リスポーンに選んだのはA拠点。今の配置的に攻められにくいA拠点は比較的平和で、守りに張り付いている少数の味方がNPCを召喚して要塞化を進めていた。こういう地味な活躍をしてくれる味方の存在はありがたい。
「一気に押されてきたな」
リスポーンまでの待機時間にマップを確認したが、B拠点だけでなくD拠点もE拠点もかなりまずいことになっている。その代わり本拠地を攻めてきた敵は完全に排除できたようなので、ここからどうにかして押し返せればまだまだ状況はわからない。
戦闘開始から10分が経過し残り10分。すでに戦場では高コスト兵士や召喚されたNPC兵士がかなりの数暴れていて、完全に中盤戦に入っている。特にここからでも目を引くのが空で激しく戦うワイバーン騎兵の存在だ。ファンタジー要素全開で戦場の花形とも言える強力な兵科。
言うまでもないことだが、空を取ることの優位性は大きい。特にマップ北側は地形的にひらけているので、上空の攻撃から身を守るのも困難だ。
「対空装備を持ち込んでくれ」
航空優勢を取ることが戦況を決める。そう判断したロックは、自分より多少長く持ちこたえていたパールに指示して使用兵士を変えさせる。直後にリスポーンしてきたパールは、オーダー通り長大な銃を装備してきた。
先端部が膨らんだ大型の火器。対物ライフルである。ワイバーンの甲殻は軽装甲分類。通常の小銃ではまともにダメージを与えられないが、重装甲ではないので対物ライフルなら貫ける。もちろん空中を飛び回るワイバーンに銃弾を当てる難易度はかなり高いが、パールの腕なら可能だ。偏差射撃に関してパールの技術はなかなかに変態的なので。
というわけで、ここからは役割を交代。パールが空の敵に集中できるよう、ロックが地上の脅威を退ける。
A拠点にいたままでは丘が邪魔で狙いづらい。そのため自陣側に大きく迂回するルートでB拠点へと移動しつつ、撃てるタイミングでパールがワイバーン騎兵を射撃していく。
「思ったよりB拠点は堪えてるね」
「リソースの吐き合いになると広い北側は攻め切りにくいからな。逆に南は個人の強さがでかいから、決まるときは一気に決まる」
D拠点E拠点のあたりは塹壕が広がっていて、射線が通りづらく少数同士の戦闘になりやすい。だから突出した強者が暴れやすく、スコアを消費した強力な兵士が出てきた今のタイミングはいつ陥落してもおかしくない。逆に誰かが突破口を開かないと前線が膠着し、いつまでも状況が動かないパターンに陥ることもある。どちらにせよ北で戦うロックたちには奮闘を願う以上のことはできないが。
B拠点へ向けて迂回路で移動しながら、パールは対物ライフルでの狙撃を繰り返し、次々とワイバーンを撃ち落としていく。これで5体目。
かなりのスコアを使うワイバーン騎兵は1試合でひとり2回出せればいい方だ。当然他にスコアを使うプレイヤーも多いため、そう何騎も投入されることはない。5体も落とせれば大戦果であり、空の戦況に大きな影響を与える。そして空同士の戦いに余裕ができると、そのぶん地上への攻撃を強めていく。
空からの攻撃は味方B拠点に入り込んだ敵を次々と撃破し、丘に陣取る兵士を排除。戦局の潮目が変わり、むしろ敵の拠点を落とすほどの勢いがつき始める。だが、全体の戦況はここだけで決まらない。D拠点の陥落。E拠点の陥落。南部戦線の崩壊が、相次ぐ拠点崩壊という形で伝えられた。
次の更新予定
銃と魔法の仮想戦役 すばる @subaru99
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