銃と魔法の仮想戦役

すばる

第1話

 パールの投げたファイアボールが土嚢の後ろに隠れた敵を焼き、ロックが覗くレティクルの前に追い出した。トリガーを引く。汎用機関銃の大口径の弾丸がわずかに残ったシールドを一瞬で食い破り、赤いダメージエフェクトを無数に散らす。体力を削り切るまで1コンマ数秒。右下に見えたスコア加算の表示でキルが確定。

「これで丘は取ったか?」

「そうっぽいね」

 戦場の中央北にあるこの丘は双方のAとBの2拠点を見下ろせる重要なポイントだ。確保することが北側の優勢を決める。

「どっち攻める?」

「とりあえずAからかな」

 エリアの端の方が取りやすい。ロックは丘の北側で身を隠せるポジションにつくと、前線で撃ち合う敵プレイヤーを狙って次々と仕留める。パールも同じく攻撃するが、こちらはそれより丘を取り戻そうとする敵への警戒を優先。

 パールの応戦で丘の維持しているうちに、ロックの支援する北側の戦況はどんどん押し込んでいく。全てのクリスタルが健在な序盤は戦力が分散する分、ひとりの活躍の影響が大きい。当然、ひとりを倒すことの効果も大きくなる。

「このまま落とせればでかいが……」

 とりあえず拠点内に味方が侵攻した。こうなると拠点のリスポーン地点が閉鎖され、防衛はやりにくくなる。その状態で、有利な位置を確保したロックが確実に敵の数を削れば守りの崩れた陣地に味方が入り込み、中に秘されたクリスタルを攻撃する。澄んだ高音が響いて重要施設の危機を広範囲に知らせるが、わかることと対応できることは別問題。ほどなく、敵側A拠点の陥落を知らせる通知が届き、援護したロックにも多数のスコアが上乗せされた。

「まずは先制点ゲットだな」

「このままBを攻めましょ」

「了解」

 ただそちらの状況を確認すれば、どうも劣勢。A拠点を守っていた敵が早々にB拠点での攻防に流れたらしく、数的不利で押し込まれているようだ。エリア端の拠点でよくあるパターンだな。

 丘を確保していればAやBはそうそう落とされないが、限度もある。どうにか敵を排除しようと攻撃するも勢いを止めきれず、丘を取り戻そうとする敵側の圧も強まってきた。ここでB拠点が陥落するとこちらのA拠点は孤立し、連鎖的に落とされかねない。南のD、E拠点が泥沼化しやすい草原マップでは、そのまま決勝点にもなりうる展開だ。

「突貫で強引に前線を下げさせるのもアリじゃない?」

「行けるか?」

「だいぶ賭けだけどまだ強い兵士は出てきてないはずだしなんとかなる、かも」

 自信のなさそうな回答。しかしこのまま成り行き任せではまずいと判断し、GOサインを出す。

 丘への攻勢が弱まった瞬間を狙い、パールが前進を開始。うまいこと身を隠しながら、敵側のB拠点に入り込んでいく。

 ここまではうまくいっているな。自分たちの拠点が攻められているとわかれば、敵の幾らかは守りに戻るだろう。どれだけ釣れるかは不明だが、加えてパールが入り込んでいる間はリスポーンもできなくなる。A拠点も機能を失っているので、近い出撃ポイントは本拠地かC拠点かのどちらか。前線復帰までの移動時間を大きく伸ばせる。

「これで持ち直してくれればいいが」

 だが問題はロックたちにもリスクのあること。パールはもとより、攻めに向かない装備だからと丘に残るロックも自衛の必要性が増す。

 味方側のB拠点に攻め込んできた相手を排除しながら、自分を狙う敵がいないかも常に警戒。

「ここを取られちゃまずいんでね」

 パールが落とされたことが通知される。まあ敵の拠点に潜り込んで暴れたらそう長くは持たない。だがおかげで前線の圧は下がったし、丘の上には数人の友軍が増えてきた。側面からの火力はB拠点を直接守る味方の攻撃との十字砲火を形成し、敵の攻勢を押し返していく。危うくはあったがどうにかクリスタルが無傷なまま乗り切れそうだ。

 だが、ロックたちがいくら奮闘しようと、50対50という大規模な戦闘の中では小さな個人でしかない。北部で戦っている今、他の戦場には手を伸ばせない。

 B拠点の敵を退けいっときの安定を確保したのとほぼ同じタイミングで、C拠点の陥落が通知された。

 開幕でA拠点を落としたことで優勢だった戦況が一気に覆る。エリア中央のC拠点が落ちたことで、味方の戦場は南北で分断。さらにC拠点を攻略した敵軍はそのまま前進して本拠地へと駒を進め、一気に王手をかけてきた。

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