第2話 相模の風:現代のコートにて
早雲が放った超長距離パスの余韻は、数百年の時を超え、現代の「相模ウィングス」のベンチへと繋がっていた。
相模ウィングスのホームコートから遠く離れた敵地。完全なアウェーゲームの重圧が、選手たちの肩にのしかかっていた。観客席からの怒号に近い声援が、体育館の空気を震わせる。
ベンチの隅で、マネージャーの山田優子は、作戦ボードに書き込まれるカタカナの羅列に目を白黒させていた。
「あの、監督……さっきから言ってるアウトレットパスって、やっぱり隣町のアウトレットモールに関係あるんですか? 帰りにみんなで寄る的な……?」
「優子、それは『出口(Outlet)』という意味では同じだが、今は敵を置き去りにする超高速カウンターのことだ」
監督が苦笑いする暇もなく、試合は佳境を迎えた。
アイソレーションと「捨旗の計」
コート中央、相模のエースが孤立する。敵に囲まれたアイソレーション。
だが、これは罠だった。早雲の血を引く相模ウィングスには、島津家より伝わりし非情な戦術が組み込まれていた。
「今だ、**『捨て旗の計』**を発動せよ!」
一人の選手が、あえて無理な突進を見せ、敵の注意を一点に引きつける。自らを囮(捨て旗)とするその献身的な動きに、敵のディフェンスが吸い寄せられた瞬間、コートに決定的な**アウトナンバー(数的優位)**が生まれた。
乱入する「美」:浅井長政の降臨
その時、会場の照明が不自然に弾け、コート中央に次元の歪みが生じた。
「……この不調法な争い、私が調停いたしましょう」
現れたのは、戦国一の義将・浅井長政。
その姿は、あまりにも、あまりにもイケメンすぎた。
一瞬で全観客の呼吸が止まる。敵も味方も、審判までもがその圧倒的な造形美に釘付けになり、動きを止めた。優子が「アウトレットモールより輝いてる……」と呟き、鼻血を出して卒倒しかける。
長政は、乱れた前髪をかき上げ、床に転がったルーズボールを優雅に拾い上げた。
「美しいパスこそが、士道。そうでしょう、真田殿?」
真田丸の鉄壁
長政の視線の先には、相模ウィングスのゴール下で、巨大な赤い要塞を構築している男がいた。
真田幸村。彼が展開するのは、籠球史上最強の守備陣形**「真田丸」**。
「長政殿、そのルーズボール……我が『真田丸』が全て回収させてもらう!」
幸村が地を叩くと、ゴール周辺に目に見えぬ防壁が立ち上がった。敵のシュートをことごとく叩き落とし、弾かれたボールを長政が拾い、そこから再び超高速のアウトレットパスが前線へ放たれる。
戦国と現代、美と力、そして優子の勘違いが混ざり合うカオスの中、相模ウィングスの反撃が始まった。
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