お人形遊び
ふみその礼
第1話 お人形遊び
わたしとあなたと
橋の見える川の土手で
ちいさな人形になって語りあっていた
あなたの人形はトマスと名のっていたけど
不器用な覆面をしててゾロみたいだった
わたしは持ってきたお人形が
あまりにみじめでボロボロだったから
とてもお姫様にはなれず なにか
マッチを擦って夢を見てた
お友達みたいだった
ちいさなクッキーのようなお菓子と
なんだか甘いだけのジュース
どうにもならない時間だけが過ぎていって
なにも笑えなくて
なにも空想できなくて
でも ふたりの人形が もし
「愛してる」なんて語りあえてたら
すこしだけさみしさをはみだして
わたしは顔を上げられず
なにかを言いなおしたりなんかしてたかもしれない
でも あなたはいつも
あの出てくる裏口にいる時のような苦しさを眉に浮かべて
お人形の言葉をさがしているから
ほんとうにいつも ごめんなさいしか言えなかった
だから いつも お人形遊びは
ながくは続かなかった
そうして わたしとあなたは
夜の明かりを映す
川の
このまま時が十年も十五年も過ぎていって
わたしもあなたも自由を奪われ
なにかの制服とかを着せられて
なにか肩にかついだり
なにかゴロゴロ押していたり
そんな人になってしまっていたら
この思い出は遠くなる
それが悲しかった
今だから その気持ちが思いだせる
でも
えらそうにふたりを思い出している このわたしが
いちばん大切なひととき を 忘れていた
なぜそれをしたのか
どちらが言いだしたのか
なにも覚えていないなんて
わたしとあなたは
お人形を交換した
もう会えないかもしれないと思ったから
わたしのぼろ人形があなたの手に そして
あなたのゾロがわたしのものになった
そんなもの
いつまでも
あるはずがなかった
でも
四十五年もたって
ブリキの箱の底から出てきたよ
ちいさな 汚いきたない ゾロ
覆面が剥がれてて お目々もない
でも その きたない覆面のうらに
文字が書かれてた
……マコがいちばんスキ……
なぜ 今でてきたの?
もう あんまり 大人になってしまったけど
四十五年も溜めたから
いっぱいいっぱい
涙があふれる
お人形遊び ふみその礼 @kazefuki7ketu
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