悪魔失格

黒魔失格


「次の標的は、こいつだ」

 見せられた写真。

 何故か殺したくないと思う。

 ———それでも、行くしかない。


* * *


 彼は、悪魔だった。


 黒曜石のような羽とうなじでまとめた髪。血のごとく赤い瞳。陶器のような白い肌。


 懐から写真を取り出して、見る。


 下界には、人がいなかった。


「· · · · · ·面倒だな」


 建物の中にも入って標的を探さねばならない。


 悪魔の仕事は、人を殺すことだった。万ーにも失敗せめよう生まれ落ちたときから厳しく訓練されている


 目に入った建物の扉を、ノックする。出てきたのは、偶然にも標的だった。


「こんにちは。さあ、入って」


 言われるがままに、扉を潜る。


 そして、客間に通された。


 悪魔である彼に対して全く不審がらない様子に、唖然とする。


「ごめんなさい、お茶はないの」


 そう言って楽しげに話し出す標的に、彼は尋ねた。


「何故、俺を警戒しない? 初めて会うというのに」


「悪い人には見えないもの」

 無邪気に答える標的は、20にも満たぬ少女であった。


* * *


 話し続ける少女を、何度も殺そうとした。でも、できなかった。1時間ほど話した後、彼は天に戻った。彼女は別れ際に、土産にと大切にしているペンダントを渡した。


 標的を殺せなかったのは、初めてだった。


 しかし、彼には何故か分からなかった———。


* * *


 天で神を待ちながら、悪魔は写真を見つめていた。


「お前は何故、標的を殺さなかった」


 神が、やって来る。


「殺せなかったのです」


 悪魔が顔を上げると、神は今まで見たことがないほど冷たい目をしていた。


「そうか、ならお前は下界に堕ちろ。お前はもう、必要ない」


* * *


 羽をもがれ、悪魔は下界に堕ちた。もう来ることはない天から下界におりながら、また写真を取り出す。そして、気付いた。


 彼女は妹に、似ているんだと。


 人を殺するとを拒み、幼子のうちに死んだ味。


「妹は守れなかったけれど、彼女なら」


 ———守れるかもしれない。

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